ショゴスという題材から生まれる作品群は、予想以上に多様だ。
最初の印象はもちろんクトゥルフ的な恐怖を活かしたものだけれど、それに収まらない展開を楽しむ創作がたくさんあると感じる。僕がよく目にするのは、まず古典的な恐怖再現派だ。ここでは『クトゥルフ神話』の文脈を踏まえつつ、未知の存在としての壮大さや人間の無力さを丁寧に描く。叙情的な文体や日記形式でゆっくりと狂気が積み重なる短編が多く、読み終えた後にじわじわと効いてくるタイプが好きだ。
次に驚かされるのは同情的・共感的な再解釈だ。ショゴスを単なる怪物ではなく、記憶を失った存在や感情を獲得する過程にある存在として描く作品が増えている。僕はそういう作品に弱くて、外見と内面のギャップを丁寧に掘り下げる話を読むとつい涙ぐんでしまう。
最後にクロスオーバーやパロディでの使われ方にも目を引かれる。たとえば水と孤独を扱った映画的なモチーフと絡めた短編では、予想外に優しい関係性が生まれていて、『シェイプ・オブ・ウォーター』の空気感を借りつつ独自の解釈で救いを描いているものに心を動かされた。ジャンルを横断してショゴスという素材が生きる瞬間を探すのが、僕の楽しみの一つになっている。