耳でイメージを固めるところから作業を始める。僕はまず“生物らしさ”と“異質さ”のバランスを決めるために、既存の動物音を山ほど集めるところから入る。ゾウの低振動、アザラシの唸り、豚や牛の喉鳴らし、さらに人間の喉声や赤ん坊のうめき声まで、意外な組み合わせが
ショゴスの不気味さを生む。集めた素材を時間伸長して倍音を出し、ピッチを下げたり上げたりして“生体の幅”を広げる。
そのあとで、電気的な加工を重ねる。グラニュラー合成でざらついた粒状感を付与し、フォルマント操作で息遣いや口腔の共鳴を作る。金属を叩いたり、厚手のゴムをこすったりしたフィジカルな音を加えて、ぬめりや粘性の印象を出すことも多い。湿った音や泡立ち音を薄く重ねると有機物らしい“ねばつき”が強調される。
最後に空間処理とダイナミクスでまとめる。低域を強調して腹に響くようにし、必要ならサブベースを合成して振動を感じさせる。逆再生や時間差のディレイを使って発声の起点がつかめない印象を作り、コンボリューションで独自の空間フィルターをかけて“どの世界で鳴いているか”を曖昧にする。個人的には、こうした多層の実験が一番楽しいと思うし、完成した鳴き声が映像に馴染んだ瞬間はいつもワクワクする。