台詞や場面転換の小さな歯車がキラリと光る瞬間を、僕は導入に求める。日常の怠惰さや
物ぐささを魅力的に見せるためには、いきなり大きな事件を置くのではなく、ささやかな矛盾や習慣のズレを見せるのが手堅い。例えばすぐそばにあるはずの――という期待をくつがえす一行や、小さな行動がキャラクターの核を伝える短い描写で読者の好奇心を刺激する。私見だが、説明を延々と続けるよりも、読者に「なぜ?」を残すほうが物語の歯車は滑らかに回る。
記憶や癖を匂わせる具体的なディテールを一つ置くだけで、その人物の過去や価値観が透けて見える。『氷菓』のように謎解きの布石と日常の掛け合いを同居させる技術を参考に、導入では日常の退屈さを逆手に取って、その中に小さな違和感を混ぜる。たとえば、いつもは面倒くさがる主人公が、なぜか細かい計算や整理にこだわる瞬間を見せる──そこから性格や物語の芯がほの見える。
結末をすぐに示さず、読者の想像を働かせる余白を残すことも重要だ。会話や所作で示すことで、物語は軽快に進む一方、読者は登場人物に感情移入しやすくなる。僕は導入で読者の注意を奪い、続きが気になって仕方がなくなる小さな「引き」を用意することを勧めたい。そうすれば、物ぐさな日常もいつの間にか手放せない魅力へと変わるはずだ。