口元を扱うのはいつも面白いチャレンジだ。撮る側としては、わずかな角度や筋肉の使い方で表情が驚くほど変わるのを見てニヤニヤしてしまう。
まずリラックスさせることを重視している。堅くなった唇は
おちょぼ口どころか無表情を生むから、軽い笑い話や短い口の体操で唇周りの力を抜かせる。次に、アングルと顎の位置を微調整する。ほんの少し顎を引かせるか上げさせるだけで唇のラインがくっきりするから、鏡ではなくカメラ越しに見せて「もう少しだけ右」といった具体的な指示を出す。
具体的な演出は多彩に使う。口元だけに注目させるために手で軽く頬を支えさせる、息を軽く吐かせる、舌先を上歯の裏に軽く当てさせるなど、微妙な動きを誘導する技を使っている。ときには被写体に映画『アメリ』のちょっとした悪戯心を思い出させて、自然におちょぼ口ができる瞬間を狙うこともある。試行錯誤が楽しいし、仕上がりを見るたびにやっぱり細部が勝負だと実感する。