『3月のライオン』の将棋シーンには、指し手が迷う瞬間の緊張感がたまらない。主人公の桐山零が重要な対局で手を止めるたび、ページをめくる指が震える。羽海野チカはキャラクターの内面を
将棋盤に投影させるのが天才的で、駒を動かせない心理描写に引き込まれる。
特に印象的なのは、零が養父との関係に悩みながら王手をかけるシーン。勝負の先にある人間ドラマと、盤上の迷いが見事に重なる。スポーツものや競技ものとは違う、静かなる葛藤の表現がこの作品の真骨頂だ。読後には自分の中にも「決断できない瞬間」と向き合いたくなる。