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僕は実験的な音作りに足を突っ込むこともある。洞窟では視覚だけでなく音の広がりが臨場感を決めるからだ。
現場録音ではアンビソニックやステレオで広がりを捉えつつ、フットステップや滴る水のフォーリーは近接で別録りする。低周波のサブベースを映像に合わせて微かに入れると地鳴りのような圧迫感が生まれ、反対に静寂を際立たせれば緊張が高まる。洞窟のリバーブプロファイルを計測して、それをリバーブプラグインに反映させると、音が画面の形状とリンクして聞こえる。
最終ミックスではヘッドホン向けにバイノーラル要素を加え、劇場では低域と定位のバランスを変えて観客ごとに体験が最適化されるようにする。こうした音映像の合わせ技で、画面の“そこにいる感じ”を濃くしていく。
湿った岩肌の細部まで想像しながら、僕はまず現地の“読む”作業に時間をかける。
実際の洞窟やセットの地形をスキャンしてフォトグラメトリやライダーで立体データを作ると、カメラワークのレンジや照明の設置位置が明確になる。狭い回廊を寄りで撮るときは広角で奥行きを誇張し、巨大なホールでは中望遠で遠近感を圧縮してスケール感を演出する。手持ちやジンバルでの微妙な揺れを意図的に残すと、観客は体感的にそこにいるように感じる。
現場では実体的なエフェクトを重視する。低速で舞う粉塵、部分的に照らす可動LED、壁面に当てるグラデーションライトなどを駆使して層を作り、ポストでの色調整と合わせて画の温度感を決める。こうした手順を踏むことで、'ザ・ディセント'のような閉塞感や発見の瞬間を映像で再現できると考えている。
そっとカメラを這わせ、僕は通路の奥行きを描くように撮ることが多い。カメラの動きと被写界深度を連動させると、観客は物理的にその場を移動しているように感じる。
具体的には、ケーブルカムやリモートヘッドを使って長い移動ショットを取り、前景・中景・背景の要素を段階的に見せる。狭い穴や裂け目にはマイクロカメラやボディカムを差し込み、肉眼では見えない視点を提供することで没入感を高める。レンズ選びは重要で、アナモルフィックだと光のフレアや横方向の圧縮で神秘性が増し、スフィリカルだと空間の自然な歪みが保たれる。
撮影時の実写プレートはポストでの合成と噛み合わせるために高解像度で記録し、ジオメトリ情報や焦点距離をメタデータとして残す。こうして撮った画に微妙なカメラブレや被写界深度の変化を加えると、'ブレードランナー 2049'的な画作りとは違う、生理的に迫る洞窟描写が可能になる。
俺はまず光の動きを細かく設計する。洞窟は光そのものが語り部になるから、どの瞬間に何を見せるかで観客の注意が決まる。
実地では“モチベートされた光”を徹底する。懐中電灯や松明の実際の配置を撮影計画に組み込み、それらが壁や水面に反射して生むハイライトやシャドウを利用する。ボリューミックライト(薄い霧越しの光線)を少量だけ入れることで光の筋が視認でき、奥行きが増す。色温度を段階的に変えると深度感が出て、たとえば入口側は暖色、奥は寒色に少し振ることで心理的な遠近も作れる。
可動ライトをリモートで同期させ、俳優やカメラの動きに合わせて明滅や色変化を演出する手法も有効だ。環境自体が語る方法として、'ラスト・オブ・アス'のように光で物語の手がかりを置く感覚を意識している。