もう一作、同じグループによる'The Whisperer in Darkness'(2011)を挙げたい。こちらはラヴクラフトの「書簡と記録」に忠実に寄せ、科学と奇怪な存在との接触という核心を崩さずに映像化している。どちらの作品も細部へのこだわりが光っていて、ファンの間で“忠実”と評される理由がよく分かる。僕にとっては、原作の語り口を映像に置き換える誠実さが何よりの魅力だ。
企画の裏側を切り口に語ると、まず原典の選定が全ての出発点になります。私が関わったケースでは、'The Call of Cthulhu'の版元用原稿を複数集めて比較する作業から始めました。ラヴクラフトの文章は改訂版や他者による補筆が多く、どの版を「正典」とするかで翻訳方針が大きく変わります。編集チーム内で原文対訳表を作り、誤植や改変の有無を確認してから翻訳者に渡す流れを採りました。
訳文のトーン調整、注の付け方、巻末の解説や年表の作成も同時並行です。私は翻訳チェックを担当する立場で、古語的表現を現代語に寄せるか、原文の雰囲気を残すかという微妙な線引きをよく議論しました。表紙デザインや挿絵の方針も早めに決め、装幀での訴求力を高める。結局、学術的な解説と読み物としての面白さの両立を意識して仕上げることが多いです。