興味深い問いだと思います。歴史ファンとして映像や小説で見た'エリザベート'像に触れるたび、私がまずするのは「どこまでが史実で、どこからが脚色か」を見分けることです。作品ごとに強調される要素が違うので、比較のためにチェックすべきポイントをいくつか挙げてみます。年表(出生・結婚・主要な出来事の年代)と家族関係は最優先です。生年や結婚年、子どもの数やその運命、例えば皇女の一人が幼くして亡くなったことや、皇太子
ルドルフのマイヤーリンク事件(1889年)といった重大事件は作品によって省略されたり簡略化されたりしがちですから、そこはまず確認します。
次に人物描写の核となる点です。宮廷での立場や公的役割、母后ソフィーとの関係、夫フランツ・ヨーゼフとの距離感、ハンガリーへの親近感(1867年の妥協と国王・女王戴冠につながる事情)といった政治的・社会的背景は、単なる恋愛悲劇や反抗的な美人像に還元されやすい部分です。多くのフィクションは感情表現をドラマチックに増幅しますが、エリザベートが実際にどの程度公的な影響力を持っていたか、どんな手紙や公的行動を残したかは史料で確かめる価値があります。同時に、健康や美への執着、旅の多さ、言語嗜好(ドイツ語の他にハンガリー語やフランス語が使われたこと)などの生活習慣的な描写も、誇張と事実が混ざりやすいので注意が必要です。
具体的な確認方法としては、一次史料(残された書簡や日記、当時の新聞記事、宮廷記録)にあたるのが最も確実です。手軽に入手できる良書や研究書も役に立ちますが、著者の立場や解釈の違いを意識してください。例えば、伝記作家によってはロマンチックな側面を強調する人もいれば、政治や日常生活のディテールに重心を置く人もいます。作品を楽しむ際は、その演出意図──反逆者として描くのか、被害者として描くのか、近代的な女性の先駆者として描くのか──を意識すると、どの点が創作なのか見抜きやすくなります。
個人的には、フィクションと史実の差分を比べる作業自体がすごく楽しいです。好きな描写を批判するのではなく「ここがドラマチックに脚色されているな」と把握しておくと、作品をより豊かに味わえますし、実際の人物像も多面的に理解できます。