翻訳作業の中で『
云々』という語に遭遇すると、文脈を丁寧に解剖する癖が身についていることに気づく。僕はまず発話者の意図とその場のトーンを確認する。話者が単に列挙を省略しているだけなのか、相手を軽んじるニュアンスを込めているのか、あるいは言及を避けるための婉曲表現なのかで英語の選択肢は変わるからだ。
例えば、列挙の省略ならば 'and so on' や 'etc.' が無難だ。フォーマルな文脈では 'and so forth' や 'among others' が響きもよい。一方で軽蔑やうんざりした感情を表す場合は 'blah blah' や 'yada yada'、あるいは 'and all that jazz' のような口語表現が適することがある。『ノルウェイの森』の一場面を想像すると、登場人物の心情の曖昧さを残したい時は英語でも曖昧さを維持することが重要だ。
さらに見落としがちな点として、句読点や間の取り方で意味が変わることを挙げたい。日本語の「云々」が文末に来て省略の余地を示すなら、英語ではエリプシス('...')や括弧を使って余韻を残す手もある。逆に明確化が必要なら、具体的な例や説明に置き換えてしまうほうが読者に優しい。僕はいつも、原文の曖昧さが作品の味になっているかを基準に翻訳方針を決めるようにしている。