シューベルトの作曲技術も見逃せない。ピアノの連打が馬の蹄の音を表現しているが、日本語訳詞を歌う場合、この音楽的描写と言葉のリズムを両立させるのが難しい。ある翻訳では『暗い森を駆け抜ける』という表現で馬の疾走感を出そうとしているが、原詩の『durch Nacht und Wind』の直截的な恐怖感には及ばない。
シューベルトの歌曲として普及したことで、音楽的な制約が訳詞に影響を与えた例もある。特に『高音で歌いやすい母音』を優先した結果、原詩の意味が微妙に変容したフレーズも存在する。例えば『Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?』の『feiner(素敵な)』という皮肉を含んだ形容詞が、単に『少年よ』と訳されることが多い。