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竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─
竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─
作者: ユウユウ

序章 「門出」

作者: ユウユウ
last update 公開日: 2026-06-26 13:02:23

 かつて、竜と魔王による大いなる戦いがあった。

 2人の邪悪なる魔王が、世界をその手中に収めるべく、眷属を放った。

 4体の竜がそれに対抗し、人間たちと共に戦った。

 大地が引き裂かれ、空が割れるほどの大戦。

 果たして、魔王は封印され、竜は深い眠りについた。

 しかし、竜たちは知っていた。いつか再び、魔王が目覚めることを。

 魔を断つ力──「聖剣」。

 魔を封じる力──「聖女」。

 来たる時のため、竜はその2つの力を残した。

 それから、1000年の時が流れた──。

「きゃっ」

 朝の柔らかな日差しの中、黄金色の髪がふわりと揺れた。

「っと...大丈夫か?」

 黒髪の少年が、道に躓《つまず》いた少女の手を取る。少女は少しはにかんだ様子で笑顔を作った。

「ありがとう、マーク」

 マークと呼ばれた少年は、その笑顔に心を打たれる。昔からよく知っているその表情は、いつも眩しかった。

 王国の辺境に位置する、名も無き村。深い森に囲まれ、人の往来こそほとんどないが、豊かな自然と、平穏に溢れている。

 今その村から、4人の少年少女が旅立とうとしていた。

 冒険者として、未知の世界への期待に胸をふくらませた旅...というわけではない。

「マーくんったら、顔が赤いよ?」

「そ、そんなわけないだろ! 朝日のせいだよ!」

「モタモタしてないで、早く行こうぜ」

 ニヤニヤという表現がよく合う笑顔で、ピンクの髪をした少女が茶化す。マークがそれに対し、さらに顔を赤らめて反論。そして赤髪の少年が、やれやれといった風情で促す。

 その様子を、真っ赤なローブを着た黄金色の髪の少女──レイナが穏やかな表情で見ていた。

 同じ村で育った、4人の幼馴染。

 マークとレイナ、そしてピンクの髪のルビアと、赤髪のセイザン。

 村の入口に来た彼らは、見送りに来た村人たちに手を振る。

「頑張って来いよ!」

「ルビアちゃん、身体には気をつけてね」

 そんな励ましの声が聞こえてきた。

 4人は西にある大きな街へと向けて出発した。片道数日、長くとも往復で1週間ほどのごく短い道のり。

 それは街にある神殿に、ルビアを送り届けるための旅だ。

 彼女は知識の神の信徒で、その神官になる修行のため、神殿に赴くことになった。

 本来は彼女の両親が送り出す予定だったが、村の外に出る良い機会と思ったマークたちが、その役目を代わることにしたのだ。

 道中、危険はほとんどないが、深い森を抜ける必要があり、ごくごく稀に森の魔獣《モンスター》に出くわす可能性はあった。

 マークとセイザンは、同じ師に剣を習っていて、魔獣《モンスター》の相手程度なら朝飯前だ。

 レイナも祖母が魔術師であり、彼女自身も魔術の高い才能を持っている。護衛としては十分だった。

「西の街って、どんなところだろうな...楽しみだぜ」

「人が大勢いるんだよね...ちょっとドキドキしてきた」

 村を出て、マークは期待に胸を踊らせる。一方のレイナは、期待と不安が入り交じった顔を浮かべた。

「とりあえず無事に着くことを考えようか」

「そうよ、私の護衛、よろしく頼むわね」

 気が逸る2人にため息をつくセイザン。そしてルビアは、マークの背中をピシャリと叩いた。

 木漏れ日の差す森の中に、4人の明るい声が響き渡っていた。

「マーク、右だ!」

「おうよっ!」

 彼らの旅路は、かなりの不運だと言えた。

 村を出たその日の夜、野営場所を決めた矢先に、狼のような魔獣《モンスター》の襲撃を受けたのだ。

 滅多に遭遇することのない脅威に、しかしマークたちは冷静に対処した。

 マークは両手に持つ、大小2本の剣を振り払う。両利きである彼は、二刀流の使い手だ。

 セイザンは手にした長剣に、炎の魔力を宿していた。よく見れば、彼の瞳は鮮やかな緑色で、耳はわずかに尖っている。先祖にエルフがいたらしく、その血が先祖返りで発現した証だ。そのため、彼は精霊の力を借りた魔術を使いこなすことができる。

 レイナとルビアは共に、前衛2人の戦いを見守っている。しかしそこに恐怖の色はない。2人の実力は誰より知っているから。

「行かせるかよっ!」

 マークの剣が閃き、魔獣《モンスター》の一体を仕留める。同時にセイザンもまた、別な一体を炎を纏った剣で倒していた。

「ふぅ...いきなりでビビったぜ」

 額に浮かぶ汗を拭い、セイザンは息をついた。マークも剣を収め、女性陣のもとへ駆け寄った。

「レイナ、ルビア、無事か?」

「うん、大丈夫だよ」

「カッコ良かったわよ、マーくん♪」

 ルビアがわざとらしくマークの腕に抱きつく。豊かな膨らみが、二の腕を柔らかく包む感触。

「だーっ!離せ離せ!」

 慌ててマークは飛び退く。いつものやり取りに、セイザンは苦笑いを浮かべた。

「村からこんなに近い場所に魔獣《モンスター》が出るなんて...」

 レイナが、物言わぬ肉塊となった魔獣《モンスター》に哀れみの視線を向けながら呟く。人に害をなす存在とはいえ、同じ世界に生きるものとして、命を奪ってしまったことに心を痛めていた。

 あまりに優しすぎる少女。その姿を、マークは穏やかな表情で見つめていた。

 それからの道のりは、特に大きな危険もなく順調で、村を出て3日後の昼、マークたちは西の街へとたどり着いた。

「はぁ...これが街か...」

 人の多さに目を奪われ、マークは口をぽっかりと開け、間の抜けた声を上げた。

「おい、田舎者丸出しだぞ」

 セイザンに言われ、慌てて口元を締める。両親が商人で、たびたび街を訪れていた彼は、慣れた雰囲気で落ち着いていた。  

「でも本当、人がたくさん...」

「あたしも一度来たことがあるけど、まだ慣れないわね」

 キョロキョロと周囲を見るレイナと、少し落ち着かない様子のルビア。4人の若者の姿は、大勢の人が行き交う通りの中にあって、少し浮いていた。

「ええと、神殿ってのはどこにあるんだ?」

「この先よ」

 通り沿いの商店に並ぶ品々に目を奪われながら、4人は知識の神殿の前まで歩く。その足取りは無意識に遅く、神殿が近づくほどに、口数も減っていた。

 神官の修行は、短くとも1年。長ければ5年はかかると言われている。小さな頃からずっと一緒だった存在と、もうすぐ別れることになる。その事実が、4人の空気を重いものにしていた。

 しかし、時は止まってくれない。気がつけば、神殿はもう目の前にあった。

「...じゃあ、ここでお別れだね」

 いつもの調子とは違う。ルビアは寂しそうな表情を浮かべて、他の3人を見た。

「レイナ、元気でね」

「...うん」

 レイナの目には涙が浮かんでいた。性格は正反対だが、2人は親友として、村でも特に仲が良かった。

「セイザン、マーくんのこと、よろしくね」

「俺を世話係にするな」

 いつもの軽口に、セイザンは苦笑いで返す。しかし、お互い少し無理をしていることは明白だった。

「そして、マーくん」

「な、なんだよ...?」

 ルビアはマークの前でわざとらしく上目遣いをすると、耳元にそっと口を近づける。

「毎晩あたしのこと、思い出していいからね♪」

「バッ!おまっ...何言ってんだ!?」

 耳まで真っ赤になりながら、マークは数歩後ずさる。一瞬だけでも、ルビアが大人しくしてると思ったのが馬鹿馬鹿しくなった。

「フフッ...じゃあ、行ってくるね!」

 ピンクのポニーテールが揺れる。その姿が神殿の中に完全に消えていくまで、3人はずっと見つめていた。

 それから数日後、マークたち3人の姿は再び村の入口にあった。

 街から戻り、その疲れを癒す間もなく、マークが声を挙げた。

「オレたち、冒険者にならないか?」

 初めて村の外の世界を見た彼は、その興奮を抑えきれずにいた。街には屈強そうな戦士や、極彩色のローブを纏った魔術師の姿があった。それらは古代の遺跡を探索したり、郊外に出没する魔獣《モンスター》の駆除を生業《なりわい》とする冒険者だった。

 マークの夢は、世界一の剣士になること。いつかは村を出て、見知らぬ世界を旅し、見聞を広め、心身ともに強くなりたい。常々そう思っていた。

 そして今が、まさにその時だと思ったのだ。

「遺跡の探索...金銀財宝...夢しかないな!」

 金目のものに目がないセイザンは、すぐにその誘いに乗った。

「私も、興味ある...かも」

 控えめながら、レイナも未知の世界に対する好奇心が抑えられない様子だった。

「よし、じゃあ行こうぜ!」

 こんな時、マークの決断は早い。村に帰ったその翌日には、再度の出発を決めてしまった。

 マークとセイザンの両親は、思いのほかあっさりと旅立ちを認めた。前途のある若者を、この辺境の村に留めておくのも良くないと思ったのかもしれない。

 レイナの祖母である魔術師のアルテだけが、ギリギリまで反対していた。無理もない、たった1人の肉親である孫娘が、わざわざ危険に飛び込もうとしているのだから。

 しかし、こういう時のレイナは意外と頑固だ。とうとう、アルテは彼女の熱意に根負けしてしまった。

 1週間ほど前と、よく似た光景。

 旅立つ若者たちを、村人が総出で見送ってくれる。1つだけ違うのは、少し騒がしい、ピンクのポニーテールが見えないこと。

「師匠、行ってきます」

 マークの視線の先には、長いボサボサの銀髪をした剣の師匠が微笑んでいた。セイザンも、師に向けて手を振った。

「おばあちゃん、心配しないでね」

「...レイナ、これだけは覚えておいで」

 祖母アルテに別れを告げるレイナ。アルテは孫娘の手を握り、諭すように語りかける。

「旅の中で、いつかお前は大きな苦難に直面すると思うわ。でも、絶対に諦めてはいけないからね...」

「うん...ありがとう」

 そして3人は、生まれ故郷の村から再び旅立つ。

 その先に、大いなる運命が待ち受けていることを、この時の彼らは予想できるはずもなかった──。

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