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銀髪に赤目の老人が、安楽椅子に体を沈めながら、本を読んでいた。そこで、扉が開く。
「ガリヤおじいちゃん! サルロ様のお話聞かせてよ!」
パタン、と本を閉じたガリヤという老人は、孫を膝の上に迎えた。
「さあ、しっかり聞いて、伝えるんだよ。神聖な蒼炎と、邪悪な黒炎。その二つを生まれ持った、騎士の中の騎士のお話だからね……」
◆ 静謐な大聖堂。二人の若者が、祭壇に立つ一人の老人を前に跪いていた。誰も、彼らを除いて誰もいないこの空間で、細身の剣が二人の肩を叩く。片や黒髪青目、片や銀髪赤目。どちらも、黒い薄手の服を着ていた。蒼いローブに蒼い眼の老人は剣を納めると、肩から掛けた鞄より羊皮紙の巻物を取り出し、開いた。
「枢機卿バルゲルの名に於いて、汝らを
そう老人──バルゲル枢機卿が宣言すると、横の扉から数人の男たちが現れた。その手には、二つのカイトシールドがある。
「この盾は、何が為にあるか」
バルゲルは、若者に問う。
「子供を、婦人を、力なき者を守るため」
二人は同時に答えた。
「故に、汝らに託す。普遍にして永遠の教会に、汝らの奉仕があらんことを」
盾が、若人の手に渡った。すると表面が輝き、紋章が刻まれる。黒髪の彼のそれは、蒼い円に黒い炎が灯ったものだ。
黒髪の彼は、左腕に通した盾を、体を隠すような形に構える。深呼吸して、世界に満ちる魔力を取り込み、己から生じる魔力と混ぜ合わせる。魔力回路を通じて盾に流せば……彼の体を、青白い鎧が包んだ。
「サルロ・ファージよ、汝の鎧は何が為にある」
「茨の道たる使命の道を往くために」サルロと呼ばれた彼の横で、銀髪の若者も似たような鎧を纏った。
「ガリヤ・ダベルよ、汝の鎧は何が為にある」
「正しき祈祷の道を往くために」にこり、バルゲル枢機卿は微笑んだ。
「よい、よい。さあ行け! 汝らの気高き姿を見せるのだ!」
張り上げられた声に従い、サルロとガリヤは並んで聖堂を出た。重厚な扉が開けば、ぱあっと賑やかさが流れ込んできた。紙吹雪が舞い、各々が好き勝手に演奏する音楽が混じり合う。打楽器、トランペット、変わり種では東方の弦楽器。カメラのストロボ。誰もが、新たな騎士の誕生を祝福している。
「やったな、サルロ」
赤目のガリヤは、隣のサルロに語りかけた。
「ああ。これで、やっと父上に恩返しができる。故郷の犠牲も、無駄ではなかった……」
「おいおい、まだまだこれからだぜ?」パン、と背中を叩かれてサルロは歩き出す。面頬が落ちないよう、彼は慌ててヘルメットを抑える。
「そうだな、ガリヤ」
二人は聖堂前の階段を下りた。そうすると、どうだろう。パイプオルガンの音色が聖堂から流れて、喧騒は一つの音楽へと収束する。人々の祝福は聖歌となる。
その中で、二人は蒼と金で彩られた馬車に立つ。酔っぱらった音痴が、和音を乱す。アパートメントの並ぶ通り。一階のカフェ。特に何を理解しているわけでもないが、親を真似て蒼い旗を振る子供たち。よく晴れた春空に、尊し思いが満ちる。
誰かが、アパートメントの窓から身を乗り出した。そして、
「サルロさまー!」
と声を挙げてブーケを投げ入れた。困った顔で受け取ったサルロは、手を振って返す。それが契機となって、聖歌のメロディーは黄色い声で塗り潰された。
「こっち見てーッ!」
「笑顔ください!」右から左から、花束が幾つも放り込まれる。カメラのピントも、サルロにばかり合っていた。
「俺にはちったあねえのかよ!」
「だってガリヤ様は軽薄だもの!」何も言い返せず、ガリヤは面頬を下ろして顔を隠してしまった。
「そう拗ねるな」
「拗ねてねえし」拗ねているじゃないか、とサルロは言い返さずに、パレードの主役として役目を果たした。両手いっぱいの花束の処遇に困りながら、騎士館という建物の前に到着する。四階建てで、質素だが美しい白壁がよく目立つ。
鎧はそのまま、二人は階段を上がった。
「俺らの部屋は、最上階だったよな?」
「ああ。私たちの荷物はもう届いているそうだ」廊下で待っていた先輩騎士の面々が、人差し指と中指を立ててこう声をかける。
「汝らの道に、太陽神の導きがあらんことを」
それに対し、新米騎士二人はこう応じる。
「あなたにも、ありますように」
そうやって、一室に入った。壁際にベッドや机が置かれた、二人部屋だ。
「よっ、と」
ガリヤは盾に魔力を流し、黒い、鎧下というインナー姿になる。
「すげえよこれ、重い鎧を持ち運ばなくて済むんだからな」
「そうだな。これこそが、蒼騎士の証だ」サルロも、鎧を消した。
「さあて、騎士になったんだ。モテるぜぇ~」
「ガリヤ、私たちは人々の模範となる存在なんだ。そういうことは、言うべきじゃない」親友に腹を刺された気分で、ガリヤはベッドに腰掛けた。サルロの荷物がトランクケース一つで収まるのに対し、ガリヤのそれは更に三つの鞄が加わっていた。
「しかし、私たちの初任務はどうなるのだろうな」
サルロは、机に挟まれる配置の窓を開けて、問うた。眼下の街は、まだ祝賀ムードに包まれている。
「俺ら蒼騎士は、毎年五人にもならない人数しか叙任されねえ。いきなり危険な任務を言い渡して擦り減らしました、じゃすまねえ立場だぜ」
「だが、人数が少ないということは、一人が背負う責任も重いということだ。違うか」短く、ガリヤは、
「かもな」
とだけ答えた。
「下で騒いでるの、何割が俺たちを祝ってると思う?」
「誰もそうではないのか?」生真面目な声でサルロがそう言うと、ガリヤは大笑いを始めた。
「ほんと、お前は堅物だよ。大抵は騒ぐ口実が欲しいのさ。世の中そんなもんだよ、みんな、美味い飯を食っていい酒を飲んで美人を抱くきっかけがありゃいいんだ」
その言い分を、黒髪の彼は受け止めきれなかった。
それはそれとして、荷解きをせねばならない。彼がベッドの上のトランクに手をかけた時、扉がノックされた。
「はい、サルロです」
と扉を引くと、そこには蒼いキャソック──詰襟の平服を来た、先程叙任の儀を執り行った蒼眼の老人が立っていた。
「バルゲル猊下!」
慌てて、サルロとガリヤは並んで跪いた。
「よい、よい。顔を上げておくれ。私が諸君に頼む立場なのだから」
騎士二人は、ピシリと作った顔で猊下を見上げた。
「諸君に、任務を言い渡す。だが、その前に祝いの品を預かっている」
パパン、とバルゲル猊下が手を二度叩くと、傍に控えていた者が二つのトランクを持ってきた。
「一つは、サルロ君の父、バッシュ・ファージより。一つは、ガリヤ君の父、ニコラ・ダベルより」
ブラウンの、何の変哲もないトランクであった。
「開けてみるといい」
そう促され、二人はパチンと金具を上げた。中には、クリーム色の空間が広がっていた。
「魔法のトランクだ。ガリヤ君ならば、知っておろう?」
「ええ。無限の容積と、中身の質量を感じさせない、レアものっすよね。すげえ……」 「無限、とはいかんがね、これからの長旅に困らん程度のものははいる」 「長旅?」サルロが問いを発した。
「千年前、魔王がいた……それは、この世界に住む者ならだれでも知っておる」
「そして、その遺体が大陸全体に飛散したことも」彼の言葉に、バルゲル猊下は頷く。
「だが、魔王の遺体が力を取り戻しつつある。そこで、君たちにはその回収を頼みたい」
「新人の、俺らに?」 「サルロ君は魔への耐性がある。そして、ガリヤ君は将来有望な祈祷師。二人を合わせれば、譬え龍が立ちはだかったとて使命を果たせるはずだ」顔を見合わせる、サルロとガリヤ。先に応じたのは、前者だ。
「……拝命いたします」
彼は、迷ったわけではない。恐れただけだ。
「このサルロ・ファージ、蒼騎士としての名誉にかけて、魔王の亡骸を持ち帰ってみてましょう」
「このガリヤ・ダベルも、使命とあらば果たしますよ」 「よい、よい」バルゲル猊下は、にっこりと笑った。
「だが、まずは腕試しをしてもらおう。都市国家サダレ近傍の村で、地脈異常が起きておる。作物も取れず、灯も碌に使えず……魔王の遺体が関わっている可能性を否定できん。故に、諸君に調査を命じる」
「はっ!」勢いのある返事が飛ぶ。斯くして、サルロが人生の歯車は、動き出した。最初に敵となるのは、赤きドラゴン。
あとがき
カクヨムの近況ノートに地図があります 千王石ハクトの名義のままなので、すぐ見つかります
「デーグは落ちたか?」 ザルバトレ帝国、帝都ガル。金色の目を持つドレッサス皇帝は、玉座の肘掛けで頬杖をつき、問うた。「ケーブルの繋がらない地点での単独行動であった故、正確な同行は判断しかねますが……」 サングラスをかけ、跪いている、黒い軍服の男は言う。顔も上げずに。だが、冷たい金色の双眸で、ドレッサスは口を開く。「前置きはよい、オソクルド元帥。単刀直入に述べよ」「はっ……通信兵より送られる断片的な情報になりますが、総司令部を占拠したとの報告が複数上がっております。官邸の確保、大統領の拘束も、近く完了するかと」「そうか。早々にハベルを落とし、大統領をここに連れてこい」 ドレッサス皇帝は、徐に立ち上がる。すらりとした四肢が、元帥へと近づく。「オルメアに人は導き得ない。あの目だ……黒い目。体ばかりが大きく、それに足る脳味噌を持っていないのだからな」 皇帝の、喉の奥で鳴る低い笑いに、元帥は何も言えなかった。 オソクルド元帥は、この戦争の意義を考える。帝国の地脈は弱まりりつつあり、土地は痩せ、様々な恵みも満足に得られない。 それを補うために、領土が必要だった。属国のサバトルやナカランから供給させている魔力も、そう遠くない未来に枯れるだろう。 その背景には、魔王の力が強まっていることがある。そこに逆転の発想を齎したのが、蛇王だった。(蛇王は何を求めている?) 皇帝の去った玉座の間から、元帥もまた、出ることにした。(魔法の亡骸を封印するのではなく、エネルギー源として利用する。それはわかる。魔王を制御化に置くことで、大陸を支配する。それもわかる) 黒い軍服に身を包んだ彼は、左腰にサーベル、右腿に拳銃というスタイルだった。(だが……蛇王は魔王の支配する世界が築ければそれでいい、と言う。本当にそれだけか?) 亡骸が持つ無尽蔵とも言える魔力を地脈に流し、エネルギーを補う。理屈としては通っている。だ
サルロの両手剣が、赤き雷霆を以て、鎧の騎士を両断した。ごとり、と力を失った上半身が乾いた地面に落ちる。そういう光景が、二十分ほど繰り返されていた。 血糊のべっとりついた剣を振るえば、その赤い汚れが大地に飛散した。ここは戦場。ヘルムの中で、彼はそっと息を吸った。「こちらインサ。たいちょー、機関車潰していい?」 インサの甲高い声が、ヘルムの内側に付けた通信機から聞こえてくる。「頼む」 そう彼が応じた直後、巨大な赤い火球が、空に輝いた。まるでもう一つの太陽。列車の戦闘を往く機関車のボイラーに、それは着弾することとなる。 刹那、弾ける。爆裂魔法の術式が込められていたのだ。轟音と共に炸裂し、ボイラーに大穴が開く。 無論、それが足止めにしかならないことをサルロも知っている。爆発と、それに伴う振動によって、赤暁砲から振り落とされる護衛の兵がいた。そこが、狙い目だ。「こちらサルロ! 赤暁砲に爆弾を設置する!」 十メートルの背丈を持つ列車砲に、彼は駆け寄った。上から撃たれる十ミリ弾は、左手を起点とした防御魔法で受け止める。カンカンカン、と悲鳴にも似た音が連続し、銃弾の数々は弾かれていく。 魔力で強化した肉体を使って、赤暁砲の通路へと跳躍。小銃手へ、瞬時に接近して斬り捨てた。その死体が落ちる前に拾い上げ、向かい側にいる小銃手へ投げつける。更には、「炎番!」 と黒い炎の矢を飛ばし、撃ち抜いた。燃え盛る肉体、漂う悪臭。サルロは見ていられなかった。戦場に立ったことを呪ってくれ、と。 ボイラーの爆発で人の減った、この戦略兵器。サルロは、ポーチから三つ、半球状の爆弾を取り出した。砲身に一つ。赤く塗装された球形のユニット──動力部と推測される部分に、二つ。爆弾は、鋭利なクローを展開し、がっちりと接地部分に喰らい付いた。「設置完了! 撤退だ!」 サルロは大声を発しながら赤暁砲より飛び降り、丘へと向かう。追撃はない。彼が馬に跨り、その腹を蹴った時、赤暁砲が爆ぜた。 空に吹き飛ぶ、蒼天石。陽光を反射してキラキラと輝く。それは、
蒸気機関車が、北へと向かう。千名の将兵を載せて、三百キロ離れたハベル要塞へ向かうのだ。「スカの戦いで、敵は巨大な兵器を使用した」 第八特別隊第一中隊に属する、七十五名を載せた車両の中で、キッスがスピーカー越しに話す。背後の壁には、二十メートルの砲身を台車に乗せた、大きすぎる大砲の写真が表示されていた。そして、それらはそれぞれの座席の前にも、転送されている。「決死の偵察によって、この兵器の名前が明らかとなった。『赤暁砲』。大量の魔力に指向性を持たせて放つ、対結界兵器だ。そうだな、グッバード」 中隊長に発言を促され、グッバードは口を開く。「ああ。スカを守ってた結界は、一撃で破壊された。同じものが使われりゃあ、ハベルだって一夜で落ちるぜ」 サルロはその言葉を聞きながら、隣で体を小さくするセキの肩を抱き寄せた。「戦場では、私と一緒だ。これ以上、怪我はさせない」 そっと、彼は囁く。「一つ、質問いいっすか」 ガリヤが手を挙げた。「その、赤暁砲。運搬は、やっぱり鉄道なんすか」「ああ、確実にな。だが、射程が長い。スカでは、山の隙間を縫って長距離狙撃を行ったようだ」 厄介だ、と皆認識を共有した。「射程は五キロメートルほどと推測されている。そこで、サルロ小隊に頼みたいことがあるんだ」 キッスが指で指し示すので、サルロ率いる小隊二十五名は一斉に立ち上がった。「赤暁砲の捜索、及び破壊をやってくれ。そのための兵器は、ハベルで渡す」「それはいいのですが……馬も用意していただけると」「勿論だ。ハベルには、魔力で強化された馬が配備されている。心配は無用だ」 サルロの過剰な心配に、彼は剣のような声で応じた。「この兵器には重大な弱点がある、と考えられている。そうだな、グッバード」 また指名された巨漢が立ち上がるとの入れ替わりに、サルロ小隊は腰を下ろした。「あれだけのエネルギー量だ。一発撃てば砲身が持たねえ。オーバ
ドドッ、ドドッと地鳴りにも似た音が、黒い空に響き渡る。土煙が巻き起こり、初夏の雨の中に消えていく。それを為すのは、装甲化された魔物に跨った、騎士たちだ。 目指すのはスカの街。城壁の向こうから降り注ぐ迫撃砲も恐れず、彼らは我武者羅な突進を行っていた。 その前に、土嚢で作られた野戦陣地が現れる。ビューグルの音が鳴り響いた時、小銃を構えた共和国歩兵たちは、ほぼ同時に体を出した。 一糸乱れぬ、一斉射。十ミリ口径の弾丸は超音速で飛んでいく……しかし、止められなかった。防御魔法を展開した騎士の突撃を前に、歩兵の陣地は蹴散らされていく。「ダメだ、これじゃ火力が足りない!」 兵士が叫べば、「止めろ、退くな! 共和国の誇りに懸けて、帝国の手先を押し留めろ!」 と指揮官が応じる。それでも、どうしようもない、という現実ばかりが彼らの目前には、厳然と存在していた。肉を裂かれ、骨を断たれ、無残に倒れていく兵士の数々。「ユウマ、おい、ユウマ!」 隣に立っていた友の名を呼ぶ兵士は、突っ込んできた魔物に頭を潰され、物言わぬ骸となった。「おうおうおう!」 そんな戦場に、野太い声が響き渡る。これでもか、と昼空から雨が降る。「赤盾騎士団、ここにあり!」 スカの城壁に、鎧で身を固めた者たちが立っていた。赤い合金で作られた盾を構え、飛び降りる。迫りくる黒冠騎士の前に立ち、防御魔法で突撃を止めた。 だが、その中で、一際目立つ巨体を誇る男が、敵の只中へと飛び込んだ。盾はなく、身の丈ほどある体験を握っている。「行くぞてめえら! 帝国の雑魚どもを切り刻め!」 男はそう叫んで、大きく跳躍した。大剣を地面に叩きつければ、そこから発せられた風の刃が広がって、黒冠騎士を三人ほど、バラバラにした。 ヘルムのバイザーの中から、チカチカと、赤い光が明滅する。大剣を持ち上げ、肩へ。その姿勢のまま敵の集団へと切り込み、一人、また一人と帝国の騎士を切り伏せていく。鎧など、桐の板のように切り裂かれていく。「だが、これじゃ足りねえな……」
首都デーグの騎士館で二泊し、朝。サルロ一行は朝食の席に着いていた。「全ての糧はあなたのもの。豊穣神アルシフィエラに、感謝を」 司祭が先導した祈りに、騎士たちは「感謝を」 と続けた。そこからは、騒がしい食事が始まった。 サルロはベーコンエッグをナイフとフォークで食べようとした。だが、すぐに手を止める。自分の食事もほっぽり出した騎士や戦士、魔法使いたちが、彼を取り囲んだのだ。「あんたが、例の蒼騎士だろ?」 「例、というのは?」 「異端の集団を追い出したっていう、最強の蒼騎士サルロ・ファージ。教えてくれよ、あんたの強さの秘訣」 彼は、そっと向かいのガリヤに視線を送り、助けを求める。されど、肩を竦められるだけだ。「特別なことは何もしていないさ。長く鍛錬を積んで、慢心しないこと。それだけだ」 「じゃあ見せてくれよ、蒼い炎! 蒼い目をしてるってことは、使えるんだろ?」 ウッ、とサルロは短く呻く。正直に言えば退くだろうか、と考える。むしろ、軽蔑の目を向けられるのではなかろうか。「あたしが見せてあげます!」 隣に座っていたセキが、助け船を出す。その右掌には、小さな蒼炎の塊が生じていた。「へえ! これが魔を祓う聖なる炎か……嬢ちゃんは何者なんだ?」 「サルロ様の従者にして一番弟子、そして婚約者です!」 彼女に向かっていた視線は、一斉にサルロに戻る。「いや、まあ……否定はしない」 「なんだ、蒼騎士様と言ったって煮え切らねえんだなあ!」 騎士たちは、大きな笑いを挙げる。サルロは、確かに恥じらってはいた。だが、それこそが今ここに生きていることの証左と知って、僅かに表情を緩める。「それで、君たちは確か──」 「ああ、赤盾騎士団の者だ。これから先、あんたと一緒に戦うこともあるだろうが、ま、安心して任せてくれよ」 「おいおい、こいつは頼らんでくださいよ。腰抜けのへっぴり腰なんすよ」 「なっ、おい!」 サルロそっちのけで言い合いを
「ガリヤ」 階段を上がり、玉座の間に繋がる扉に手を掛けた時、サルロが言った。「ケラック・ダジオリは、私の手で殺す。ここにいて、敵の増援が来ないか見張っていてくれ」 「……やっぱ、お前おかしくなってるぜ」 ガリヤは、扉を開こうとする彼の手を止めた。「俺は、お前に剣技大会でメッタメタにやられたよ」 面頬を上げ、赤い目で真っ直ぐ見つめる。そのままに、サルロの面頬も持ち上げた。「その晩、親父に相談した。そこで言われたよ、騎士団を支えるのは大勢の凡人だ、ってな。俺は天才じゃない。だから、お前みたいな天才が率いる騎士団を、俺は凡人として……ポーンとして、支えるつもりなんだ」 「何が言いたい」 「お前一人じゃ、全部は解決できない」 鎧越し。だが、サルロはその手に籠められた熱を感じ取った。「だから、俺にも背負わせろ。そのために、俺は祈祷騎士になったんだ」 サルロは何も言わず、眼を逸らして面頬を下ろす。「なら、頼む」 そう送った言葉には、人の温度が潜んでいた。 ギシリ、木製の戸が軋む。穴だらけの白い絨毯が敷かれた、古い玉座の間。千切れた垂れ幕の向こうで、雷鳴が鳴った。「来たか、蒼騎士」 その玉座で、蛇騎士ケラック・ダジオリが立ち上がった。「黒冠騎士たちは、鏖殺したのか?」 「ああ、そうだな」 サルロの剣に宿る雷は、赤と黒の入り混じったものだ。「あのガキ……子宮でも刺して、お前の子を孕めないようにしてやりたかったが、思いの外勘が鋭くてな」 「今、首を進んで差し出すのなら、一撃で終わらせてやる」 「そう見えるか?」 ケラックは、右手で剣をスランと抜く。「その言葉、そっくりそのままお返ししよう。蒼騎士よ!」 次の瞬間、ケラックの体はサルロの目の前にあった。鋭く閃いた白刃を、サルロは両手剣で受ける。強化魔法を介さない、純粋な鋼としての攻撃。よろめいた彼のヘルムを脱がそうと、ケラックは手を伸ばした。