失って初めて知った、君の輝きを
小松紗江(こまつ さえ)は看守に一通の手紙を手渡した。そこには三文字、自白書と書かれていた。
薄手の囚人用ジャケットを羽織った彼女の瞳には、半分は無感情、もう半分は絶望が浮かんでいた。
「この手紙を篠田家に届けてください。彼が私を出してくれるなら、どんな罪でも認めます」
看守は嫌な顔をしながらそれを受け取り、去り際にツバを吐き捨てた。「今さら後悔しても遅いだろ?篠田さんが情けをかけたから、この程度で済んでるんだぞ」
紗江は口元を引きつらせながら、泣くよりもひどい笑みを浮かべた。
吉岡雛乃(よしおか ひなの)の前で、篠田晃(しのだ ひかる)が自分に情けをかけたことなんて、一度でもない。
「お嬢様、ご安心を。出所したら、すぐに家に帰りましょう」
山口(やまぐち)の声には抑えきれない興奮がにじんでいた。その言葉を聞いた瞬間、紗江の目に涙が浮かんだ。白く整った顔には青アザがいくつもでき、無残なほどやつれていた。かつては活き活きしていた美しい瞳も、今は虚ろで疲れ切っている。
あれほど大切に育てられたお嬢様が、今やこんな姿に。
あの日、彼女はその男の手によって刑務所に送られた。相手が許さぬ限り、一生出ることはできなかった。山口に見つけられるまで、紗江は、ここで一生を終える覚悟だった。
「山口さん、両親に伝えて。私は手塚家に嫁ぐ覚悟ができた。家にも戻る。数日後、迎えに来て」