風の果てに君はなく
深見紬希(ふかみ つむぎ)は、三年間も重いうつ病に苦しんできた。その間、篠原凌也(しのはら りょうや)は眠る暇も惜しんで、彼女の傍に寄り添い続けていた。
二十五歳の誕生日、凌也は盛大なバースデーパーティーを開き、皆の前で紬希にプロポーズした。
「紬希、一生をかけて、君を愛させてほしい。俺と結婚してくれ」
涙ぐむ紬希は頷き、二人は煌めく花火の下で、永遠の誓いを交わした。
特別に飾り付けられた高級ホテルのスイートルームには、バラの花びらが溢れていた。
凌也は紬希を何度も抱きしめ、夜が明けるまで、飽くことなく彼女を求め続けた。まるで彼女のすべてを、自分のものにしようとするかのように――
紬希が疲れ果てて眠りに落ちるまで、凌也は名残惜しそうに、彼女を腕の中から離さなかった。
再び目を覚ましたとき、バルコニーから凌也の電話をする声が聞こえてきた。
「俺が紬希と結婚するなんて、あり得ないだろ?プロポーズなんか、演技に決まってるだろ。
紬希が結婚に同意しさえすれば、深見家は彼女の相続権を奪うはず。そうなれば、家業は全部玲奈(れいな)のものになる」
さっきまで熱く燃えていた紬希の身体は、今や震えるほど冷えきっていた。