結婚七年目、夫の初恋が戻ってきた
遠藤真白(えんどう ましろ)は夫・河野拓見(こうの たくみ)との結婚生活七年目、拓見の初恋・小林雨音(こばやし あまね)が戻ってきた。
人気女優となった雨音は、真白の家の玄関先でずぶ濡れになり、泣きじゃくっていた。
「拓見さん、彼と喧嘩して、行くところがないの……」
いつも穏やかで優雅だった拓見が、初めてグラスを叩きつけた。
「今すぐあいつにケリつけてやる!」
真白の七歳の息子さえ、おもちゃを放り出して雨音のもとへ駆け寄った。
「お姉ちゃん、泣かないで!僕、大きくなったらお姉ちゃんと結婚する!」
皆が雨音を笑顔にしようと必死になっている。
その頃、真白はスーパーの入口で大雨に足止めされ、必死に拓見に電話をかけても、繋がらなかった。
そんな中、一台のタクシーが真白の目の前に止まった。
「お客様、ご乗車なさいますでしょうか?」
食材の入った袋と、スマホの「残高1万円」の画面を見下ろしながら、真白は尋ねた。
「1万円でどこまで行けますか?」