未完成のウエディング
私の婚約者・朝倉達哉(あさくら たつや)は、N都裏社会を背負うマフィアの跡取りで、私のことを誰よりも愛してくれていると信じていた。
けれど、結婚式を一か月後に控えたある日、達哉は「家の事情だから」と告げ、幼馴染との間に子どもを作る決意を話してきた。私がどれだけ反対しても、彼は毎日のようにその話を持ち出し、私の心をじわじわと追い詰めていった。
そして結婚式の二週間前、私のもとに届いたのは一通の妊娠診断書だった。そこには、彼女がすでに妊娠しているという現実が記されていた。
彼は最初から、私の気持ちなど考えていなかったのだ――
その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。長年信じてきた想いは、あまりにも脆く、滑稽だった。
私は結婚式を取りやめ、達哉が贈ってくれたすべてを炎にくべた。
そして結婚式当日、すべてを捨てて旅立った。
I国へ渡り、医療研修に没頭することで、彼との呪縛を断ち切った。
もう二度と、彼のいる世界には戻らないと心に誓ったのだ。