一つの林檎のため、私は母を捨てた
うちの母親は料理を一切しないくせに、私・松浦美月(まつうら みづき)を一流のシェフに育て上げようと躍起になっている。
お菓子を作っていると、私がマンゴーアレルギーなのを知っているのに、ただのわがままだと思い込んでいる母は、私が使おうとしている材料に無理やりマンゴージュースを加えようとする。
私がそれを使おうとしないと、母はすぐに不機嫌な顔になる。
「こんなに材料を買ったのに作らないの?もったいないじゃない!」
案の定、私はマンゴーに触れたせいで病院送りになったが、それでも母からは責められる始末だ。
「自分の体の面倒も見られないの!いい大人して、食べちゃいけないものくらい分かるでしょう?」
またある時は、私が豚の角煮を作ろうとすると、母はまた横で腕を組んで指図を始めた。
私が包丁を手に肉を塊に切ろうとした途端、母は私の手をぐっと押さえつけた。
「違う違う!角煮は薄く切らないと味が染み込まないでしょ!」
「でも、角煮って……」
母はそんなことお構いなしに、私に無理やり肉を薄切りにさせた。結果、出来上がったのはどっちつかずの中途半端な代物だった。
その後、私が和食を学ぼうが、フランス料理を学ぼうが……
何を作ろうとも、母は口を出して仕切りたがった。
今回は勇気を出して、こっそり料理コンテストに申し込んだというのに。
家に帰ると、母はジャム作りに使うはずだった青リンゴを、すでにふじりんごに替えてしまっていた。
冷蔵庫にぎっしりと詰まった、母が「苦労して」買ってきた様々な食材と、食卓にぽつんと置かれた一個のふじりんごを見つめる。
私はため息をついた。
どうやらこのリンゴ一つのために、私は母を捨てるしかないようだ。