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101回目のプロポーズ

101回目のプロポーズ

私、藤堂亜衣(とうどう あい)は、恋人の渡辺颯太(わたなべ そうた)から、これまでに九十九回プロポーズされてきた。そしてそのたびに、彼の幼なじみである葉山鈴(はやま すず)は、決まってうつの発作を起こしたのだ。 颯太が百回目のプロポーズをしてきたときも、その構図は変わらない。 彼はいつものように唇の端に甘ったるい笑みをにじませながら、鈴からの電話に出た。そして、ため息まじりに私のほうを見て言う。 「鈴の具合がまた悪くなった。今日のプロポーズは中止だな」 今日が私の誕生日だってことなんか気にも留めず、彼はテーブルに並んだ料理を手慣れた様子で次々とテイクアウト用に包んでいった。 怒りをぶつけられるのを恐れているくせに、その瞳にはどこかうんざりした色が浮かんでいて、私に向かって説教を始める。 「お前が鈴を妬んでるのは分かってる。でもあっちは病人なんだぞ? お前は軍人なんだし、鈴に譲ってやるのが当たり前だ」 彼は、鈴が箸をつけて残した料理を「全部食べろ」と命じた。さらに、夜中の三時に山を登って、ひ弱な鈴に防寒コートを届けろと私を無理やり行かせた。 鈴のSNSには、颯太と抱き合う写真が挑発するように並んでいる。それでも颯太の口から出てくるのは、やはり私を責める言葉だ。 「そこまで追い詰めないと気が済まないのか?鈴をうつに追い込んで楽しいのか?これが軍人の品位かよ。お前のその意地の悪さ、本当に気持ち悪い」 こうして彼は何度も何度も、私の人間性を疑い、道徳心を踏みにじってきた。 けれど最後の一度だけ、私はただ、手の中の軍の特殊部隊から届いた極秘任務の召集令状に視線を落とし、一言も発さなかった。 颯太は、何も分かっていない。 今度は、私が彼を切り捨てる番だ。
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今更ですが社長、婚約者は逃げました

今更ですが社長、婚約者は逃げました

スイカなんて食べてない現代浮気・不倫裏切り後悔医者財閥
「不誠実で素行不良、おまけに顔も中身も醜悪な男と長期間一緒にいることは、君の治療にとって逆効果でしかありません。ですから僕としての提案は一つ──今すぐ別れることです」 雨宮理央(あまみや りお)は、重度の『感情欠落症』を患っていた。 彼女はその治療の一環として、社交界でも有名な美貌の御曹司、西園寺恭弥(さいおんじ きょうや)との交際を選び、婚約まで交わしていたのだ。 だが最近になって、彼が離婚して帰国したばかりの「忘れられない初恋の相手」と復縁し、裏でコソコソと愛を育んでいる事実が発覚する。 どう処理すべきか、理央は担当の精神科医に淡々と相談を持ちかけた。 その助言通り、彼女が恭弥に婚約破棄を申し出ると、彼は鼻で笑ってこう言い放つ。 「理央、いい加減にしろよ?これ以上わがままを言うなら、俺にも考えがある。本当にお前のこと、捨てるぞ」 ところが──理央が別の男性と婚約したという噂が界隈を駆け巡ると、恭弥はついに焦りだした。土砂降りの雨の中、彼は充血し血走った目でその場に跪き、必死に許しを乞う。 「理央……っ、俺が悪かった、俺がクズだったんだ!頼む、なぁ、もう一度だけチャンスをくれないか」 その時だ。指ハッチン一つで財界を震撼させると噂される「影の支配者」が、突然その場に現れたかと思うと、大きな手で理央を抱きすくめ、独占欲を露わにした。しかしその声は、先ほどの威圧感とは裏腹に、まるで飼い主になつく大型犬のように甘ったるい。 「ねえ、あんなブサイクな男は見ないで?僕だけを見てよ。約束する……今夜は君が『やめて』って言ったらちゃんと止まるから。それとも、先に僕を縛っておく?何だって君の言う通りにするよ、ね」 その姿を見て、恭弥は驚愕のあまり目玉が飛び出しそうになった。 ……こ、こいつは。あの時「そんな男とは別れるべきだ」と、もっともらしい顔でカウンセリングしていたあの精神科医じゃないか!?
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もう、会いもしない、想いもしない

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松島玲子(まつしま れいこ)は二十歳のときに陸奥昌彦(むつ まさひこ)と恋に落ち、二十二歳で一生をともにすることを誓い合った。結婚して五年、子どもはできなかったが、陸奥家からの重圧に耐えながらも、彼は表情ひとつ変えずに彼女を抱きしめ、「愛している」と言い続けた。当時、誰もが「玲子は昌彦の命そのものだ」と言い、彼女もまたそれを疑わなかったが、昌彦に婚外子がいるというニュースが世間に広まるまでは。 その日、彼は土砂降りの雨の中、一日中跪いていた。「あの夜、俺は嵌められたんだ。麻里子が俺に薬を盛ったからさ……だから麻里子のことをお前と勘違いしてしまった。玲子、信じてくれ。愛しているのはお前だけだ。これからもずっとお前だけを愛する。頼むよ、俺を置いていかないでくれ」 玲子は彼の言葉を信じて、陸奥家が提示した「母を追い出し、子は残す」という条件付きの提案を受け入れた。 だがその後、白石麻里子(しらいし まりこ)が陸奥家に住み込みで妊娠生活を送り始めた頃から、あの自分しか愛さない人は麻里子のために千億に及ぶ重要な会議をすっぽかした。さらに二人の情熱が最高潮に達しようとしていたその時、ドアの外で麻里子が「暗いのが怖い」と呟くと、昌彦は迷うことなく玲子を置き去りにし、麻里子の元へ向かい、その夜は彼女のそばで過ごした。 玲子はその変化に気づいた。初めて、彼女は離婚届を差し出した。その日のうちに、昌彦は結婚指輪を握りしめたまま浴室で手首を切った。資産数億の社長が遺書に記されていたのは、たった一行の言葉だった。【玲子と添い遂げられぬなら、死を選ぶ】 二度目の時、彼女が口を開こうとした瞬間、昌彦は麻里子からの電話を切った。そして、二人が愛し合っていた頃に訪れた場所をすべて巡りながら、「俺の人生にお前は必要だ」と宣言した。一度、二度、三度……と、それを繰り返すうち、彼の態度は次第に形だけのものと変わっていった。九十九回目となると、彼女は荷物を持って家を出た。が、彼はもう追いかけもせず、謝りもすることはなかった。 「玲子は甘やかされすぎなんだ。あんなに騒いでも、本気で別れたことなんて一度もない。放っておけ。そのうち頭が冷えたら、また戻ってくるさ」だが彼は知らなかった。あの雨の夜、家を出た玲子が、二度と帰らなかったことを。次に目を開けたとき、玲子は昌彦に婚外子がいると知った、あの日に戻っていた。 ……
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