Se connecter超一流財閥の御曹司である一ノ瀬冬馬は、ある「宮殿」を持っており、そこに「12人の愛人」を住まわせていた。 毎年、妻・夕凪の誕生日になると、冬馬は決まって新しい女を連れ帰ってきた。夕凪の目の前でその女を抱くと、今度は「躾けろ」と彼女に押し付けるのだった。 今年で十三人目。 満身にキスマークのある女を再び夕凪の前に放り投げたとき、夕凪は初めて「いや」と言った......
Voir plus冬馬は警察署に向かった。 取調室の中は、冷たい白色のライトが眩しすぎるほどだった。 彼はただ静かに椅子に腰かけ、まるで何か普通のビジネスを相談しているかのように落ち着いていた。 「柊木蓮斗は俺が殺した。あいつが俺の父親を死に追いやったからだ。 篠原天音の目は俺が奪った。彼女は篠原泰典の娘、復讐しただけだ。 細木加余子は風俗街に売り飛ばした。言うことを聞かなかったから、罰を与えただけだ。 全部、俺がやったことだ。どう裁かれようと、全部受け入れる」 その目に後悔の色は一切なく、むしろ口元にはどこか小馬鹿にしたような笑みが浮かんでいた。 警官たちは彼の態度に怒り、いきなり拳を叩きつけた。 「偉そうにしてんじゃねえぞ!もう大富豪様じゃねえんだよ。おとなしく死刑判決でも待ってろ!」 冬馬は口から血を吐き、それでも笑みを深める。 ――死刑でいい。 彼は最初から、生きて帰るつもりなんてなかった。 仏様と約束した。 自分の命と引き換えに、夕凪の命を救うと。 今こそ、その約束を果たす時だ―― …… 冬馬が銃殺刑に処される日、空には雨が降っていた。 大きな囚人服に身を包み、刑場に立つ。 このところ、ほとんど何も口にしなかったせいで、すっかり痩せこけていた。 それでも、表情にはどこか安らかな静けさがあった。 冷たい銃口が後頭部に押し当てられる。 目を閉じた彼の脳裏に浮かぶのは―― 玄関先で優しく笑いかけてくれた、夕凪のあの顔だった。 あの人は、確かに俺を愛してくれた。 それだけで、十分だ。 ――バン。 銃声が響き、木の枝にいたカラスが一斉に飛び立つ。 遠く離れた病院のベッドの上で、夕凪がぱちりと目を覚ました。 「――どういうこと……?」 医者が最新の検査報告書を見て、声を震わせていた。 夕凪の難病が、まるで嘘みたいに消えていた。 身体の全ての数値が、奇跡のように正常値に戻っている。 「一ノ瀬さん、体調はいかがですか? こんなに長く眠っていましたが、何かやりたいことは?――そうだ、ご主人に会いたいですよね。 それが……このところ、ご主人がどこにもいなくて……」 看護師たちは嬉しそうに口々に話すが、夕凪はベッドの上で静かに聞いていた。 その表情に
冬馬はまだ仏前に跪いていた。 色褪せた袈裟をまとった老住職が、身をかがめて彼を見下ろしている。 窓の外は、もう夕闇が迫っていた。 背中は冷たい汗でびっしょりだが、彼の手のひらには、いつのまにか赤い紐が巻かれた一枚の銅貨があった。 ほのかに白檀の香りが漂っている。 冬馬の視線が止まった。顔を上げ、住職に尋ねる。 「この銅貨、あなたがくれたんですか?」 住職は静かにため息をついた。 「銅貨はもともと施主のもの。老僧が差し上げるものではありませんよ」 住職がくれたのではない、なら、この銅貨はどこから……? 冬馬はふらつきながらも立ち上がった。 そのとき、スマホが震える。 医者からの電話だ。冬馬はすぐに出る。 「一ノ瀬さん!」 医者の声は、抑えきれない興奮に震えていた。 「良い知らせです!本当にすごいことなんです!奥さんに蘇生の兆候が現れました!」 「……なんだって?」 冬馬はその場で凍りつく。自分の耳を疑った。 ほんの数時間前、医者は夕凪の死を宣告していたはずだ。 それが今、蘇生の兆しだと……? 「詳しく教えてくれ。どういうことなんだ?」 「先ほど看護師が奥さんの包帯を替えていたとき、彼女の……指が動いたんです! 我々も驚いて、全身の精密検査を行いました。 なんと、彼女の全ての生命機能が、信じられないほど回復しているんです! まるで医学の奇跡です!」 冬馬はどうしようもなく鼻の奥が熱くなり、もう少しで涙がこぼれそうになった。 電話を切ると、すぐに病院へ向かって駆け出す。 途中で、ふと手のひらの銅貨に目を落とし、その場で動きを止めた。 この銅貨……住職からもらったものじゃない。 じゃあ、これは――仏様からの贈り物なのか? あの夢は…… 本当だったのか? ――きっとそうだ! 仏様は、俺の祈りを聞き入れてくれた。 その慈悲で、夕凪を救ってくれたのだ――! 冬馬は全力で病院へ走り、息を切らせながら病室のドアを押し開けた。 看護師が、嬉しそうに迎えてくる。 「一ノ瀬さん!さっき奥さんの指が動きました!しかも、一度だけじゃなく何度も……みんなでしっかり見届けました!」 冬馬は勢いよくベッドに駆け寄る。 ベッドの上の夕凪は、まだ目を
大広間は静まり返り、彼のかすかな祈りの声だけが響いていた。 一時間。 三時間。 五時間。 夜が明けていくにつれ、彫刻のような木の窓から朝日が差し込み、影が長く伸びていく。 一人の沙弥が香を足しに入ると、男が氷のような床に身を伏せ、額から血がにじみそうなほど頭を下げているのを見つけた。 「ご施主様、そんなことをなさらず……どうかお立ちください」 「…構わないでください」 男は顔を上げなかった。 沙弥は困ったように頭を振り、手を合わせて「南無阿弥陀仏」と唱える。 この寺では、執着を抱えて訪れる者を何人も見てきたが、ここまで必死な者は初めてだった。 冬馬は、夜明けから正午まで、膝が焼けるような痛みにも動かず、太陽が背中を炙っても、決して立ち上がろうとはしなかった。 「すべての罪は…この身が償います。仏様、どうか……どうか彼女だけはお救いください」 日が傾き、遠くの鐘楼から暮れの鐘が響き始める。 冬馬のシャツは汗でびっしょりと濡れ、背中に張り付いている。 「お願いいたします……夕凪を……どうかお助けください……」 この言葉を、もう何千回も繰り返していた。 一陣の風が殿に吹き込み、長明灯が一斉に揺らぎ、一瞬だけ暗くなる。 幻のような中で、冬馬は仏像の目が微かに瞬いた気がした。 その慈悲のまなざしが、自分に向けられている気がした。 「仏様!お願いいたします、夕凪を――」 その瞬間、視界が暗転し、冬馬の体はその場に倒れこんだ。 殿の外の古い柏の木の上で、一羽の夜鶯が美しい歌を奏でている。 通りすがりの老僧が顔を上げ、目を細めてつぶやいた。 「南無阿弥陀仏。因果応報、輪廻は必ず巡る――」 …… 冬馬は夢を見た。 夢の中、彼は雲の上に立ち、足元には白い霧がうねり、遠くには黄金の光があふれていた。 そして―― 一人の子どもが見える。 それは、三歳か四歳くらいの女の子。 顔立ちは彼に似ていて、どこか夕凪にも似ている。 子どもはぴょんぴょんと跳ね回り、はじけるように笑いながら、ひらひらと落ちてくる花びらを追いかけていた。 …… あれは……夕凪との子どもだ。 この世に生まれることができなかった、あの子―― 冬馬の身体が激しく震え、溢れる涙が止まらない
「もう一度!」 執刀医が鋭く叫ぶ。 その声に合わせて、夕凪の細い体が再び電流で跳ね上がった。 病室の外で、冬馬の爪は深く掌に食い込み、血が指の隙間から滴っていた。 けれど、その痛みさえ感じなかった。 ピッ、ピッ、ピッ―― 微かな心拍の音が、再び響き始める。 医者は汗をぬぐい、「一応、安定しました」と言った。 冬馬の両膝は一気に力が抜け、ほとんどその場に崩れ落ちそうになった。 …… 丸一日と一晩、冬馬は病室に付きっきりで、眠ることもなく立ち尽くしていた。 まるで動かぬ彫像のように。 医者や看護師が心配して声をかけても、まるで聞こえていないかのようだった。 秘書が仕事の報告に来ても、すべて門前払い。 彼の世界には、もうベッドの上の彼女しか存在しなかった。 「夕凪、頼む……俺を置いていかないでくれ……」 自分が何度この言葉を呟いたか、もう覚えていなかった。 誰の前でも、彼は絶対的な存在だった。 だけど彼女の前だけは、こんなにも卑屈になれる。 午前一時、冬馬はふらつきながら病院を出て、コンビニへ水を買いに向かった。 無意識のまま歩く道。 冷たい雨混じりの風が顔を叩いても、何も感じなかった。 街角では、一人の老人が軒下で体を縮めて座っている。 ぼろぼろの服に、前には割れたお椀。 冬馬は足を止めた。 これまで、彼は人に同情なんてしたことがない。 むしろ冷血と呼ばれる男だった。 なのに、今だけは善いことをしてみたいと思った。 ――もし「善いこと」をすれば、夕凪が目覚めるかもしれない。 冬馬は老人の前に歩み寄り、財布から分厚い札束を取り出して、碗に入れる。 老人が驚いて顔を上げる。 その濁った目に、一瞬だけ驚きの光が宿った。 「これは……私に?」 「ああ、取っておけ。ちゃんと生きろよ」 そう言い残して、立ち去ろうとした。 だが背後から、老人の声が響く。 「若いの、何か心の中で拭いきれぬ悩みがあるのか?」 冬馬は眉をひそめた。 確かに――俺の心の悩みは、ただ一つ。 たった一人のことだけ。 無言で歩き続けると、老人の声が後ろからかすかに聞こえてきた。 「叶わぬ願いがあるのなら、仏様に頼んでみるがいい。仏は慈悲深い。混沌から救
冬馬はその場に二秒だけ立ち止まり、すぐに歩き出した。 「医者を手配しろ」 「はい、一ノ瀬様。ご安心ください、最高の産婦人科医をつけて、必ずお子さまを……」 「堕ろせ」 秘書は固まった。「……今、なんと?」 冬馬は眉をひそめる。「聞こえなかったのか、それとも理解できなかったのか?」 ちゃんと聞こえていたし、意味も分かっていた。 でも――信じられなかっただけだ。 秘書は今でも覚えている。 あのとき冬馬が、夕凪との子どもを失ったとき、どれだけ痛みで壊れそうだったかを。 普段は仕事で感情を見せない冬馬が、あの夜だけは会社で酒を煽っていた。 「一ノ瀬様……本当
蓮斗はただ静かに笑った。 「どうしても我慢できなくて、夕凪に会いに行ったんだ。謝りたかった、心から謝罪して、許してほしかった。 ……それで、もし彼女が望むなら、お前の前で真実を明かすつもりだった。 『本当に彼女が愛していたのはお前だ』って」 「でも、夕凪は首を横に振った。『もういいの』って。 彼女は、もう助からない病気だって言った。だから、今さら真実をお前に伝えたら、余計にお前を苦しめてしまうって―― 自分が死ぬまで、お前が誤解したままでいい、ずっと恨んでくれていい。そうすれば、お前は悲しまずに済むから……そう言ったんだ」 「一ノ瀬、あの子は本当に、お前を愛してたよ
「それが――俺の人生で一番綺麗な思い出だったよ。 夕凪は二ヶ月も俺のことを追いかけてくれたけど、絶対に触らせてくれなかった。手さえ、繋がせてもらえなかった…… それがもどかしくて、ちょっと意地悪して『もう好きじゃない』なんて言ったけど、本音じゃない。あんなに可愛くて、性格も良くて――一生忘れられない女だよ」 冬馬は無言で蓮斗の胸ぐらを離し、すぐにボディーガードを呼ぶ。 ボディーガードが、蓮斗の腹を容赦なく殴りつける。 血を吐きながらも、蓮斗は止まらなかった。 血と一緒に、過去の記憶を噛みしめるように言葉があふれる。 「それから、夕凪はだんだん俺を避けるようになった。
おかげで、夕凪の母の遺骨は無事だった。 天音に荒らされることもなく、ちゃんと守られた。 それから、夕凪の父が亡くなる前夜――冬馬はあの病室を訪ねていた。 あの日、夕凪が手術で子どもを失った、その夜だった。 自分でも理由はわからない。 もしかしたら、「父親として子を失う痛み」――その気持ちが、あのときの冬馬には痛いほどわかったからかもしれない。 夕凪が失ったものと同じだけ、彼の心にもぽっかり穴があいた。 何年も、何年も、心のどこかで二人の子どもがほしいと思っていた。 だって、好きな女と家族になる――男なら誰だって夢見ることじゃないか。 その晩、冬馬は夕凪の父の
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