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第24話

last update Last Updated: 2025-05-31 16:05:55

あのあとドリンクを手にカラオケルームに戻ると、伊月くんと麻生さんがちょうど歌っているところだった。

伊月くん、さっき歌はあんまり……と言っていたけど、普通に上手い。

でも、デュエットする二人を見ていると、どうにも心が落ち着かなくて。

私は『用事を思い出した』と亜嵐くんに言付け、ひとり先に帰ることにした。

カラオケ店の外に出ると、ひんやりとした風が足元を通り過ぎていき、ぶるっと身体を震わせる。

あーあ。嘘をついてしまったのは良くないけど、あれ以上あの場にいるのは無理だったから。

とぼとぼと街を歩いていると、先ほどのカラオケでの光景が頭をかすめる。

伊月くんと麻生さんが仲良くしているのを見ているだけで、心の中に嵐が吹き荒れるなんて。

私は伊月くんのことを、ちっとも『お兄ちゃん』として見れてないんだ。

血が繋がっていないとはいえ、兄のことが好きだなんて。お母さんや光佑さん、伊月くんが知ったらきっと軽蔑される。

だから、こんな恋心はさっさと捨てなきゃいけないのに。どうして私は……。

ぎゅっと、拳を握りしめたときだった。

「あれ、陽菜?」

すれ違いざまに声をかけられた。

「羽衣!」

たった今、街中ですれ違った人は、友達の羽衣だった。

「どうしたの?今日は、長谷川くんとデートだったんじゃ……」

「そうなんだけど……」

私は口ごもってしまう。

「もしかして、何かあった?」

うう……羽衣ってば、鋭い。

「なっ、何でもないよ」

羽衣に余計な心配はかけたくなくて。私は、視線をそらした。

「うそ。絶対に何かあったでしょう!わたしは、陽菜のことならお見通しなんだから」

さすが羽衣。中学からの付き合いなだけあるよ。

「友達だからって、無理に話せとは言わないけど。話せば、少しは気が楽になるかもしれないよ?」

弱っていた私の心に、羽衣の言葉が優しく響く。

羽衣に甘えて、全てを打ち明けてしまいたい。そんな気持ちが沸き起こり、抑えきれなくなった。

「あのね、羽衣。今から話すことは、誰にも言わないで欲しいんだけど……」

中学の頃から私のことをよく知ってくれている羽衣になら、話してもきっと大丈夫──そう思えたから。

「私の話……聞いてくれる?」

「もちろんだよ」

私と羽衣は近くの公園まで移動し、ベンチに並んで腰かけた。

「実はね……」

私は、先ほどのカラオケでの出来事を羽衣に話した。

麻生さんに『佐野
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