第727話

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• 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私   第1215話

  修が振り返る。「......まだ何か？」千景は暁を抱いたまま、そっと近づいてきた。「抱いてみるか？この子、お前に抱っこしてほしいみたいだ」修は一瞬、目を見開いた。けれど、すぐに力なく笑って首を振る。「......やめておくよ。上に連れてってやってくれ」一度抱いてしまったら、もう手放せなくなる―そんな気がした。なぜこんなにも、この子に強く惹かれるのか、自分でも分からない。ただひとつ言えるのは、若子の子だからという理由だけで、どうしようもなく愛しく思えてしまうということ。千景も、それ以上は何も言わずに踵を返そうとしたそのとき。暁が急に泣き出した。小さな体を震わせながら、全力で泣きじゃくる。そして小さな手を必死に伸ばし、修に向かって掴もうとしている。その声に、修の胸がぎゅっと締めつけられた。千景が子どもをあやしながら言う。「暁、どうした？お腹すいたのか？すぐ戻るからな」けれど、暁の泣き声はどんどん大きくなっていく。修の足は、地面に縫いとめられたみたいに動かない。心臓を握られているような痛みが、胸の奥に広がっていく。千景は数歩進んだあと、ふと後ろを振り返った。修がその場から動けずにいるのを見て、しばらく考えた末に、ふたたび彼の前まで戻ってくる。「抱いてあげたらどうだ？」修は、渦巻く感情をこらえながら、静かにうなずいた。千景の目には、どこか哀れみのような光が宿っていた。この子が修の子どもだということは、周囲の誰もが知っている―ただ、肝心の本人だけが知らずにいる。たしかに、過去の修は決して褒められた人間じゃなかった。けれど、それでも―彼がどうしようもない極悪人だったわけじゃない。千景は男として、その気持ちがわからないでもなかった。少なくとも、西也と比べるなら―修の方が、よほど人間的だった。女は、女を見抜く。誰が「ぶりっ子」で、誰が演技しているのか―一目で分かる。けれど、男にはそれが分からない。逆に、男は男を見抜く。誰が何を考えてるか、一目で分かる。でも、女は時にその偽りに気づけない。修の指先がかすかに震える。それでも、そっと掌をスーツの脇で拭うと、ためらいなく腕を伸ばし、暁を抱きしめた。「暁、どうした？」その声は驚くほどやさしく、柔らかかった。

• 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私   第1214話

  「じゃあ、若子。お前はいつになったら、自分の周りにいる人間の本性に気づくんだ？」修が鋭く言い返す。「遠藤なんて、表向きは好青年ぶってるけど、中身は全部ウソだらけ。冴島も同じだ。手を血で染めてきた男で、敵だらけ。どっちも、いつ爆発してもおかしくない時限爆弾だ。そんな奴らが、お前に災いをもたらさないわけがない」「じゃあ聞くけど」若子の声には、冷ややかな笑いが混じっていた。「私に災いをもたらしたのは誰？あんたが精神的に壊したこと、私は一生忘れられない」修はわずかに顔を歪めて、苦笑いを浮かべる。「じゃあ、どうすればいい？俺が死ねば、償いになるのか？」「違う。私が望んでるのは、それじゃない。ただ、もう二度と今の生活に踏み込んでこないでほしい。それだけ」若子は視線を外し、淡々と言い放つ。「これからの私がどうなろうと、それはあんたには関係ない。もう、おばあさんが亡くなって、私たちをつなぐものは何もなくなった」「そうか」修は拳を握りしめながら言った。「それが望みなら、分かった。これからはできるだけ距離を置く。邪魔もしない。だって―もう、俺たちには何も残ってないからな」目を赤く染めた修は背を向け、無言で部屋を出ていった。扉が閉まる音が響いた瞬間、修の体はぐらりと揺れた。壁に手をつかなければ、倒れ込んでいたかもしれない。胸を押さえ、心臓が引き裂かれるような痛みに顔をしかめながら、階段を下りていく。そしてふと顔を上げると―目に入ったのは、千景が暁を高く持ち上げて笑っている姿だった。暁は無邪気に笑いながら、こう呼んでいた。「パパ！」その言葉が耳に届いた瞬間、修の胸の傷に塩をぶちまけられたような痛みが走った。この子は、一体何人の「パパ」を持っている？拳を握りしめた修の胸の奥に、嫉妬という名の業火が燃え上がる。怒りにも似た感情―でも彼は分かっていた。その怒りの正体は、暁が何人「パパ」と呼ぼうと、自分はその中に含まれない、という現実だった。思い出す。あのとき、抱き上げた暁が、自分を「パパ」と呼んだ一瞬。まるで、自分が本当に父親になれたような気がしてしまった、あの夢のような瞬間を―いや待って、暁は本当に遠藤の子どもなのか？それなのに、どうしてこの子が若子と一緒に暮らしてて......あいつは何も

• 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私   第1213話

  修が口を開きかけたが、すぐに思い直した。今日ここに来たのは、冷静に話をするためだった。千景に意識を引っ張られている場合ではない。「若子、大事な話があるんだ。ふたりだけで話せないか？」「言いたいことがあるなら、ここで言って。隠す必要なんてない」彼が千景を避けたがっているのは分かっていた。けれど、若子は千景がいても構わないと思っていた。修は冷たく千景に一瞥を投げ、それから言った。「これは、おばあさんのことだ。だから、外部の人間には聞かせたくない。ふたりきりで話したい」「彼は『外部の人間』なんかじゃない。おばあさんのことだって、知ってて当然よ」そのまま口論になりかけたところで、千景が間に入った。「じゃあ、俺が暁を連れて少し外を回ってくるよ。終わったらまた戻るから」そう言って、千景はさっと外に出ていった。「冴島さん、そんなことしなくても―」「大丈夫だよ」千景はそう遮って、優しく微笑みながら扉の向こうへ消えていった。若子は一歩下がり、修に向かって言った。「入って」修が中に入り、若子がドアを閉める。「おばあさんの件なら、もう話したはず。犯人は分かってる。信じてもらえないのは仕方ないけど......」「おばあさんは、殺されたんだ」修の言葉が、若子の言葉を遮った。「......なに？」「犯人はもう捕まった。安奈だった」若子の顔がこわばる。「それ、ほんとに知ってたの？......じゃあ、侑子さんは？」なぜ修は安奈の名前しか出さないのか。それが若子には気になった。修はポケットからスマホを取り出し、ある音声を再生する。侑子と安奈の会話だった。それを聞いた若子は、一瞬沈黙した。「これ......どこから手に入れたの？」「侑子が渡してきた。安奈を告発するために」若子はしばらく呆然としていたが、突然、くすっと笑い出した。その笑いに、修は不快げな表情を浮かべる。「何が可笑しいんだ？これは真剣な話だ。ずっと犯人を探してただろ？もう見つかったんだぞ」「まさかとは思うけど......あんた、侑子さんが関係ないとか思ってる？」若子の声は冷たく鋭かった。侑子はただ焦っていた。それがよく分かる。罪が露見するのを恐れて、先に手を打ったのだ。安奈を差し出して、自分は正義の味方のよう

• 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私   第1212話

  侑子の表情は、言葉にできないほどの悲しみに満ちていた。とても演技には見えない。そのせいで、修も一瞬、何を信じるべきか分からなくなっていた。最初に若子が話してくれたとき、自分は侑子をひたすら庇っていた。安奈の存在なんて、まるで見えていなかった。でも今、侑子が言うには、祖母を殺したのは安奈だという。そうなると、侑子がまったく関係なかったとも言い切れない。まるで目の前に濃い霧が立ちこめたみたいに、視界が曇っていく。しばらく沈黙が流れた後、修はそっと侑子を離した。「まずは体を治せ。それからだ」そう言って背を向け、部屋を出ようとした―そのとき。背後で何かが動いた音がした。とっさに振り向くと、侑子がよろめく足取りで病室の窓のほうへ向かっている。勢いよく窓を開けると、ためらうことなく身を乗り出した。「何をするつもりだ！」修は眉をひそめ、瞬時に反応した。矢のような速さで飛び込み、背後から侑子を抱きしめ、そのまま窓から引き戻した。「もういいの、死なせて......私、生きてたくない。おばあさんのこと、私のせいにしてもいいよ。責任は私にもあるんだ。だから死なせて......このまま、罪悪感を抱えてなんて、生きていけない」「侑子、ふざけんな！」修は彼女をベッドに押し倒した。「ばあさんが俺にとってどれだけ大事だったか、分かってるんだろ？たとえそれが安奈の仕業でも、お前が関わってたなら―恨まずにはいられない。でもだからって、死ぬなんて選ぶな！」「修......おばあさんのこと、きっと私を憎んでるでしょ。だったらもう終わらせたいの。私を憎みながら一緒にいるくらいなら、いっそ......」「侑子、お前、頭おかしくなったか？」修はさらに強く彼女を押さえつける。「もしお前がやってないなら、俺はお前を憎む理由なんかない。なのに何でそんなこと言うんだ？ビビってんのか？それとも、わざとこんな芝居してんのか？」「違う！......ただ、私が悪いの。ごめん......もし私の行動が疑わしく見えたなら、もう何も言わない。好きに調べて。ほんとに私が関わってたなら、そのときは、ちゃんと罪を受ける」侑子は空気を読むのが上手い。そうして状況を見ながら、自分の計画を変えていく。修は侑子の体から手を放した。「もう、死ぬとか言うな。次また

• 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私   第1211話

  修は携帯を取り出し、侑子に電話をかけたが、いつまで待っても繋がらなかった。彼は頭を少し傾けて、ボディガードに尋ねた。「安奈を捕まえたとき、侑子は家にいなかったのか？」ボディガードはうなずく。「はい、家には安奈さん一人だけでした。侑子さんは不在です」修は眉をひそめた。もし安奈の言うことが本当なら、侑子は罪を犯して逃げたということか？修は拳をぎゅっと握りしめ、その関節がギシギシと音を立てる。侑子がそんな人間だろうか？今まで自分は彼女を見間違えてたのか？「調べろ、彼女がどこに行ったのか調べろ」数時間後、部下から侑子の情報が届いた。侑子はあるホテルに宿泊しているとのこと。修は部下を連れてそのホテルの部屋の前に到着し、強くドアを叩いたが、部屋の中からは一切反応がなかった。スタッフがカードキーを持ってドアを開け、一行は中に入った。侑子は確かに部屋にいた。ベッドの上で横たわっている。修は大きな足音を立てて近づいて行った。「侑子！」彼は名前を叫んだが、近づいた瞬間、床に空の薬瓶を見つけ、横たわって動かない侑子に気づいた。修は眉を深くひそめ、すぐに彼女をベッドから引き起こし、脈を確認した。幸い、命に別状はないようだった。......胃の洗浄と救命措置が施された後、侑子はようやく目を覚ました。彼女の顔色は非常に青白く、目を開けると目元がひりひりと痛むようだった。もう昼になっていた。修はベッドの脇に立ち、冷たい目で彼女を見つめた。彼女が目を覚ましたのを見て、修の目にはもはや以前の優しさはなく、早々に切り出した。「罪悪感から自殺しようとしたのか？」侑子は大量の睡眠薬を飲んでいたが、幸いにも間に合って発見された。もし遅かったら、命を落としていたところだった。侑子は軽く眉をひそめ、目の中に一瞬疑問の色が浮かんだように見えたが、すぐに何かを悟ったようだった。「そうよ、罪悪感はあるわ。おばあさんの件、私にも責任があるもの。あの子を信用して家に入れたのは、私だから......だからこそ、死んで償おうとしたの。なのに、どうして助けたの？そのまま死なせてくれればよかったのに」修は一歩踏み出し、冷たい声で問いただした。「あいつが言ってた。俺のばあさんを死なせたのはお前で、あの録音も都合よく切り取

• 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私   第1210話

  スマホから流れてきた録音を聞いた安奈は、顔色を失い、もう少しで気を失いかけていました。「違う......違うの、そんなの嘘です！」声を震わせながら、彼女は地面から立ち上がろうとしました。しかし、背後の二人の男にがっちりと押さえつけられ、膝をついたまま動けなくなりました。「違う！」安奈は叫びました。「侑子姉が私をハメたんです！全部あの人の罠なんです！」「ほう、ハメた？」修は冷笑を浮かべながら言いました。「俺のばあさんを殺したのはお前じゃないと？自分の口で認めたんじゃないか？」「ち、違う！私じゃないんです！」安奈は涙混じりに訴えました。「侑子姉は人を使ってやらせたんです！わざと私を誘導して......あの録音も全部仕組まれていたんです！」安奈はようやく気づいた―あれは全部、仕組まれていた。侑子は最初から安奈を替え玉に使うつもりだった。あの録音も、切り取りと歪曲のオンパレード。あんな卑劣なやり口、許せるわけがない！「仕組まれていた、だと？」修は安奈の顔を片手で掴み、まるで壊れ物のようにぐっと力を込めました。歯を噛みしめながら、低い声で問い詰めました。「つまり、やったのは侑子だということか？」「そうです、全部あの人の仕業です！」安奈は叫びました。「主犯は侑子姉なんです！おばあさまを突き落としたのはあの人！でもおばあさまが生きていて、バレるのを恐れて......それで殺したんです。私は......私は利用されただけです！」修はすぐには安奈の言葉を信じなかった。しかし、その言葉が完全に嘘とは限らない、もっと証拠が必要だと感じていた。「どうして、彼女は俺のばあさんを突き落としたんだ？」「それは......」安奈は深呼吸をしながら答えた。「彼女、部屋の中で松本さんの悪口を言ってたんです。ひどく、あんなに悪口を言って、あの時おばあさまがそれを聞いちゃって、すごく怒ったんです。それを知って侑子姉は怖くなって、直接おばあさまを突き落としたんです。あの人は私のいとこだから、私も怖かったんです。あの人は私を脅して、もし私が口を滑らせたら、私を殺すって。あんなに悪い人だなんて、見た目の優しさなんて全然ないんです。私は確かに間違いを犯しましたが、それはかばうためで、私はおばあさまを殺してません、私