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侯爵の過去2

Author: をち。
last update Last Updated: 2025-06-21 11:45:51
とりあえずアスナが戻るまではと、茶でも飲んで待つことに。

「リオ。茶でも飲むか?」

「あ、は、はい!ありがとうございます!頂きます!」

「?」

飲むことに同意したのに動こうとしないリオに、俺は首を傾げた。

もう一度言わねばならないのか?

「リオ、茶だ」

「?は、はい。頂きます?」

……ああ、この部屋の茶葉などの場所が分からないのか。

「茶葉はそこの棚の上の段にある。

私は今日はダージリンのセカンドフラッシュだ。お前は好きなものを選ぶといい。

ポットはコンロの上の棚だ」

アスナは初めて来た時にも俺の許可を取ることなく、勝手にあちこちの棚を開けて茶を淹れ出したのだが。

さすがにリオはそこまで勝手はできないようだ。

それに気づいて指示を与えてやると、目をぱちくりさせてようやく動き出した。

「……あ、ああ、ボクが!

あはは!そうですよねえ、うん!ボクが淹れるんですよね!

はい、直ぐにお淹れ致しますね。

ボク、ティーバックでしか淹れたことがないので、上手くできなかったらお許しください」

ああ、茶葉で淹れたことがなく戸惑っていたのか。

平民の時にはティーバック、養子に入ってからは使用人がしていたのだろう。

俺の配慮が足りなかった。

「多めに湯を沸かし、先にポットとカップに湯を注いで温めておけ。

カップを温めている間に湯を沸かし直し、沸騰したらポットの湯を捨てる。

ティースプーンで人数分、プラス一杯の茶葉をポットに入れ、再沸騰させた湯を回し入れろ。

蓋をして蒸らして……そこに砂時計があるだろう?

その砂が落ちたらカップの湯を捨て、ポットから紅茶を注ぐ。

理解したか?」

分かりやすく茶葉での茶の入れ方を説明してやれば、慌てたように胸元から手帳を取り出しメモしはじめた。

メモを取るのは良いことだ。見込みがある。

「あの……アスカ様、お伺いしても?」

「許す。なんだ?」

「どの茶葉でも方法や蒸らす時間は同じなのですか?」

「厳密には同じではない。

今教えたのはあくまでも『一般的な淹れ方』に過ぎない。

それぞれの茶葉の特性にもよるし、その日の湿度、温度によっても変わる。同じ種類の茶葉であっても、仕入先、収穫年度によっても変わるものなのだ。

だがそれは口で教えることはできない。

茶を淹れるのが上手いものもいれば、どうしてもできないものもいる。感覚、と言えばいいか?

アスナは言わずとも完璧な
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