2.「最強になるために~社長令嬢の青春奪還物語~」
佐行 院
-①序章-
私立西野町高等学校、私服登校可能など自由な校風のこの学校に通う宝田 守(たからだ まもる)はまったりとした毎日を友人と共に過ごしていた。1コマ55分の授業を6コマ出席して幼馴染の女の子・赤城 圭(あかぎ けい)と帰る。それが守の日常。他の人と何ら変わらない普通の高校生。因みに、守と圭は同じ1年3組だ。
比較的新しい5階建ての校舎に体育館やグラウンド、また食堂があって皆が各々の時間を楽しく過ごしていた。 部活も勿論存在する。運動部や文化部、そして同行会、沢山ある。因みに守は帰宅部(面倒くさいから)、圭もそうだった。因みに運動部にはクラブハウス(部室棟)があった いつも昼休みは図書室で本を読んで過ごした。読書は大好きだ。自分ひとりの世界に入り込める。ゆっくりと本を読み没頭し、チャイムがなったら教室へと戻って授業。本当に普通の日常。 放課後は必ず寄って帰る場所がある、学校の敷地の一角に佇む「浜谷商店(はまたにしょうてん)」というお店だ。歩いてすぐだから守だけじゃなくて西野町高校に通う生徒はみな好んで寄っている。ご夫婦で経営されているお店で皆顔なじみである。ある意味第二の両親と言っても過言ではない。今日はおばちゃんが担当らしい。 守「おばちゃーん、いつものー。」 おばちゃん「あいよ、あんたもこれ飽きないねぇ。いつもありがとね。」 圭「おばちゃんコーラ無いのー?」 おばちゃん「ごめんねー、裏見てきてもいいかい?」 圭「もう喉カラカラだよー、早くー、死んじゃうよー。」 おばちゃん「そんなんで死ぬわけないだろ、待ってな。」守は大好きなメンチカツとハムカツを頬張り、圭はコーラをぐいっと飲みながら歩いて帰る。それが僕たちの1日の締めくくりだった・・・、その時が来るまでは。
3学期の終業式の日、事件は起きた。
式を終えホームルームも終わり、守は圭と浜谷商店へと向かっていった。守「あれ食わなきゃ1日が終わらねえよな。」
圭「ウチも早くコーラ飲みたーい。」 守「またかよ、お前好きだよなー。」いつも通り・・・のはずだった。
圭「ねえ・・・、あれ・・・。」
浜谷商店のいつもは開いていた引き戸が完璧に閉まっている。貼り紙が一枚。
「お客様各位
日ごろからのご愛顧誠にありがとうございます。 突然ではございますが私情により閉店させて頂く事となりました。 皆様にはご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。 本当にありがとうございました。 そして西野町高校の皆さんへ皆さんと過ごした時間や思い出は私たち夫婦にとってかけがえのない宝物です。
本当にありがとう・・・、楽しかった・・・。浜谷信二・妻 博美 」
突然過ぎて守たちは膝から崩れ落ちた。圭は涙を飲んでいる。圭のこんなの悲しそうな表情を見るのは小学生の時以来か。今日は買い食いしながら西野町高祭(文化祭・体育祭)や遠足などの楽しい思い出を語る予定だった。2年になると厳島神社に向かう修学旅行があり、その事も語る予定だった。それが出来なくなった。
その情報は瞬く間に全校生徒へと伝わった。野球部員に至っては何故かわんこそばの食べ比べをしている生徒もいたのでわんわんと泣いている。野球部員「俺まだ記録更新出来たはずなのにーーーーーー!!!」
そこら辺にいた全員が「そこかよ」突っ込んだという。
守も圭も同じように突っ込んだ。ただ場が和んだが浜谷商店が復活するわけではない。 ただそこには以前とは違い真っ暗な建物がポツンとあるだけだった。-80 王女の力と騒動- 妹達を加えた三つ巴の三姉妹が「お供え物(2日目のカレー)」に夢中になっている中、その光景に見入って未だ感動が冷めていないサラマンダーは目をうるうるとさせて思わず素が出てしまっていた。エリュー「おらぁ500年程生ぎでぎだが・・・、んな貴重な光景見る事出来だんは初めでだ。」好美「あんたその訛り・・・、何処の出身なの。」 好美がこれからエリューと王宮やコノミーマートでちゃんと会話や仕事が出来るか不安になっている中、瞬時に冷静に戻ったエリューは恐る恐る姉妹に質問した。エリュー「あの・・・、御三方は頻繁に会われているのですか?」トゥーチ「いや・・・、俺達3人が揃ったのは久々なんじゃねぇの?」 次女はカレーに夢中だった妹を軽く注意しながら思い出した。セリー「トゥーチ、はしたないですわよ。そんなに頬張って神らしくない、お姉様それにしてもこうやって私達姉妹が揃って食事するのは15年振りでしょうね。」クォーツ「ほう(おう)・・・、ほうはっはは(そうだったか)?」セリー「お姉様まで!!皆様、申し訳ございません。」 やけに腰の低い次女の横で好美の胸中では別の問題が発覚しかけていた、誰も次女と三女までが天界から降下して来る事を予想していたはずがない。 儀式を行ったエリューすら分からなかったのだ、ニコフや好美は勿論、カレーを用意した光本人までも。という事は・・・。好美「ニコフさん・・・、まずくないですか?」ニコフ「好美さん・・・、正直言って私も同感です。」 妹達の出現により、いつも通りの量だけが用意されていたカレーがいつもの倍の勢いで減っていく様子を見て2人は顔を蒼白させていた。そう、全然足らないのだ。 好美はさり気なく鍋の中を見てより一層顔を蒼白させた、当初たっぷりのカレーで満たされていた鍋の底が見え始めている。不意に思い出したのだが、このダルラン家のカレーは王と王女も後ほど食べる物でもあった。 時間は午前1:30、正直言って光が起きている様には思えない。念の為、『念話』を飛ばそうとしたその時・・・。女性「お・・・、お姉ちゃんが3人もいる・・・!!」 噂をすれば影というやつか、厨房の出入口にお馴染みの部屋着姿をしたペプリ王女の姿が。初めての光景に震えが止まらずにいる、そんな王女に当然の様に三女が突っかかった。トゥーチ「おう
-79 お供えと三つ巴- 同級生3人が昔を懐かしみ、美味い料理と昔話、そして悪戯を肴にワインを酌み交わしたその夜の事だった。街の中心地に聳え立つ高層ビルのオーナーである倉下好美は王宮での夜勤に備え準備していた。 好美が相も変わらず弁当を作り忘れていたので恒例と言った様子で余り物を詰めた弁当をデルアが手渡す、夜間の営業に影響しなければ良いのだが。 今日は火曜日だ、という事は恒例の「あの日」なのだ。ナルリス・ダルランの妻、ダルラン光からいつもの香り高き「お供え物(2日目のカレー)」を受け取ると大切に『アイテムボックス』へ入れ、早速夜勤へと向かった。 王宮へ到着し、挨拶を交わした好美には以前から気になっている事が1点。好美「ニコフさん、鍋って誰が光さんに返しているんですか?」ニコフ「申し訳ないのですが、私も存じ上げないのです。私達の休みの曜日に返却されているのでしょう。」 すると、光ご本人から『念話』が。光(念話)「その鍋ね、ここだけの話だけどいつも最後に食べてるエラノダさんがお忍びで返しに来てんのよ。」好美(念話)「エラノダさんって、王様の?!」光(念話)「うん、いくらあたしが取りに行くって言っても聞かなくて。これ、ニコフさんには聞こえてない様にしているから内緒ね。」 『念話』で話していた間、見た目ではずっと沈黙していた好美の様子を心配そうに将軍長が伺っていた。ニコフ「どうかされましたか?『念話』か何かで?」 好美は咄嗟に胡麻化した。好美「ちょっと、エリューの事で。店と言うか企業秘密なのでお気になさらず。」ニコフ「オーナーさんも大変ですね、お察しいたします。」 すると、聞き慣れた声が控室に響き渡った。「コノミーマート」のナイトマネージャーを兼任するサラマンダー、エリュー本人だ。エリュー「おはようございます。」好美「おはようございます。」 好美は挨拶の後、即座に空気を読む様にとエリューに『念話』を飛ばした。ニコフ「おはようございます、丁度今貴女の話をしていたのですよ。」エリュー「好美ちゃん、えっと・・・、もしかしたら昨日の話?」好美「そうそう、昨日皆で余った唐揚げを馬鹿食いした話・・・。」エリュー「ああ・・・、揚げすぎちゃったあれね。本当にごめんなさい。」好美「いえいえ、美味しかったからいいのよ。」 そう言った会話を交わ
-78 過去の悪戯と新たな悪戯- 2人が遠い昔の思い出に浸りながらハンバーグを味わっている場面を遠くから見ている者がいた、同級生でサブシェフのロリューだ。 有する資格や知識をフル活用すべくサブシェフとソムリエを兼任していたケンタウロスは、特別料理に合う赤ワインを選んで2人の下へと運んで行った。 その様子はレストランのサブシェフとしてと言うより、ただただ同級生の1人として。ロリュー「おいおい、俺を忘れていたりして無いだろうな。ほら、ぴったりなワインを持って来たぞ。」 3人分持参してきたグラスを1本ずつ、上客であるかつての同級生とオーナーシェフに手渡してワインを注いでいく。 ロラーシュはロリューからワインボトルを受け取ると、サブシェフにグラスを手渡してワインを注いだ。ロラーシュ「何を言う、ここにはお前にも会いに来ているに決まっているだろうが。」ナルリス「ほらよ、お前も食えよ。」 吸血鬼は小皿に小さく切ったハンバーグを乗せると、デミグラスソースを少しかけてケンタウロスに手渡した。 ロリューはハンバーグを1口食べると昔を懐かしむ様に噛みしめていた、実は例のカフェでロラーシュが食べた最初の煮込みハンバーグはナルリスとロリューの合作であった。 勿論、大臣はロリューにも感謝していた。ロリューもナルリスと共にロラーシュの為、カフェの店主に頭を下げていた。 2人に非常に感謝していた大臣は涙ぐみながらハンバーグを味わっていた、2人に救われたミスリス・リザードはそれから真面目に働き今でもダンラルタ国王であるデカルトの下で大臣職を務めている。ナルリス「何泣いてんだよ、再会に乾杯しようぜ。」 ワインで満たされたグラスを改めて手渡し、3人での乾杯を促した。 少し顔を赤らめながら3人は学生時代を思い出していた、そんな3人の座るテーブル席に店の副店長が近づいて来た。貸切にしているが故に暇になってしまったのだろうか。 そう思っていると、副店長は空いていた席に座った。どうやら3人の思い出話に興味を持ったらしい、手にはチーズが数切れ乗った皿が。真希子「やけに楽しそうにしているじゃないか、私にも思い出話をきかせておくれな。」ナルリス「そうですね・・・、今もそうですが私達は3人共悪戯が大好きでした。」 魔学校時代、同じゼミに所属していた3人は教授の所有する乗用車の運転
-77 思い出に浸る- ナルリスはいちレストランのオーナーシェフとしての対応をしっかりしようとしたが、相手は同級生で昔からの友人だからと制止した。どちらかと言うと久々の再会を懐かしんで欲しいというのが本望だとの事。 この日予約してきた上客にとって目の前の吸血鬼は特別な存在であった、ただのシェフではなく「命の恩人」といったところか、今でも上客はナルリスに感謝していた。 それが故に硬くならずにフランクにして欲しいと言った。上客「あの時の料理、また食べに来たぜ。」ナルリス「他にも料理はあるのに、いつもあれだな。」 メニューを見る事無く、いつも同じ料理と赤ワインを頼む上客は他の物を頼む気はさらさら無かった。いつも同じものを頼み「あの日」を懐かしむ、ナルリスの店に来るのは乗客にとって特別な意味を持っていた。ナルリス「待ってろ、いつもの美味いやつ作って来てやるからな。」上客「ああ・・・。」 この上客に出す料理は、普段のメニューには載せていない特別な物で2人の思い出の味だ。この料理に救われた、この料理があったから頑張れる。そして、今がある。 ナルリスは調理場に戻ると、ハンバーグを焼き色が付く程度まで焼いた後にデミグラスソースの入った土鍋で煮込み出した。 店中に普段から広がっているデミグラスソースの香りが濃くなってきた、上客はいつもこれは料理の出来上がりが近づくサインだと語っていた。 熱々の土鍋で提供するが故の鍋敷きをミーレンが什器と共に持って来た、これもいつもの事なので上客は慣れているかのようにテーブルの真ん中を空けている。 何故か2人分の小皿を一緒に持って来る、これもいつもの事。ただ不自然なこの行動は2人の関係を知るミーレンの心遣いからだった。 土鍋の中でデミグラスソースがぐつぐつと湧き始める、いよいよだと感じたナルリスは鍋掴みを手にはめて提供の準備に取り掛かった。と言ってもまだ提供はしない、チーズをハンバーグの上に乗せてオーブンで焼くのがこの料理の最終工程。 チーズが溶けたら完成、提供へと移る。熱々となった土鍋を両手でしっかりと掴み上客の下へと運んで行く。 ナルリスも上客も自然と柔らかな笑顔がこぼれていた、2人にとっての思い出の味。またこれもいつも通り、デミグラスソースの香りと共に蘇る当時の思い出に浸る。 この客が来る時は他の客は誰1人来な
-76 吸血鬼も知らない味の秘密- 女子高生の人魚の一言でやっと元気を取り戻した吸血鬼、どうやら間違えて手渡してしまった料理が普段から辛い物が好きな2人の胃袋をぐっと掴んだ様だ。 息を吹き返したかのようにオーナーシェフが数時間もの間座り込んでいたパイプ椅子からやっと腰を持ち上げたのを見たサブシェフは安堵の表情を見せた。 因みに2人は魔学校時代からの同期だったりしたので気軽に何でも話せる仲であった。ロリュー「ナルちゃん、もう大丈夫?」ナルリス「悪かった・・・、何とかな。すまんが、水を飲んで来て良いか?」 ナルリスの台詞を予期していたのか、ロリューの手には水の入ったグラスが。ナルリスはグラスを受け取ると一気に煽った。ナルリス「サンキュー。よし・・、やるか・・・。」 予約が入っている上客の来店に向けて提供する料理の準備を確認した、寸胴の中のフォン・ド・ヴォーとデミグラスソースが減って・・・、いないどころか増えている。おかしい、この2つはこの店の味の決め手で門外不出にしているし隠し味は誰にも言っていない。 ナルリスは恐る恐る味見してみると自分が作った物と全くもって一緒で驚いていた、ただ大量の寸胴鍋が不自然に散らばっていたのが気になったが今はそれどころじゃない。 調理場に復帰していたオーナーシェフを見かけた副店長の真希子が、散らばっていた寸胴を全て『アイテムボックス』に押し込んで目線を低く保ちながら近づいてきた。真希子「ああ・・・、ナル君ちょっといい?」ナルリス「真希子さん・・・、そんな体勢でどうされました?」真希子「フォンとデミグラスなんだけどね・・・。ごめんなさい、ランチで無くなりかけてたから私が『複製』したのよ。気を悪くしちゃったかな・・・。」ナルリス「いえいえ・・・、私の方こそ申し訳ありません。助かりましたよ、作るの結構時間がかかるのでもし無くなっていたら予約に間に合わないかと。ありがとうございます。」真希子「それを聞いて安心したよ、ブイヨンはいつも通りで大丈夫かい?」 実は以前、たまたま真希子が賄い用に持って来たブイヨンの香りに誘われ一口啜った際にその味に惚れこんだらしく、それ以来ブイヨンだけは真希子に任せていたのだ。 どれだけナルリスが頭を下げて頼み込んでも頑なに真希子が製法を教えないので、この店の料理全てが真希子無しでは成り立
-75 吸血鬼の失敗- ダンラルタ王国にあるサービスエリアで女子高生達が屋台での買い食いを楽しんでいた同刻、ネフェテルサ王国の街はずれにあるレストランの調理場の端っこでオーナーシェフである吸血鬼(ヴァンパイア)のナルリス・グラム・ダルランは・・・、悪戯に失敗して落胆していた!!ナルリス「どうしよう・・・、やらかしてしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!」 実は先日、嫁の光に「少し変わっていてビールに合う豚肉料理を考えて欲しい」と頼まれて仕掛けておいたあの「豚ロースの生姜焼き風豚キムチ」をガルナスとメラの弁当に入れる予定だった「少し生姜多めの生姜焼き」と間違えて入れてしまったのだ。 2人共生姜味が好きな事を覚えていたのできっと白飯を空っぽにして帰って来るだろうと期待しながら仕掛けていたのだが、朝早くからの弁当作りで寝ぼけていた為タッパーを間違えてしまっていたらしい。 因みに事件が発覚したのは昼間、その日非番だった光は好美に「昼呑みしないか」と誘われていたので好美所有のビルの屋上に行った際、ナルリスの豚料理(焼く前)のタッパーを持参していた。しかし、いざ焼いた時にお世辞にも「少し変わっている」とは言えない「結構普通な感じのする生姜焼きの香り」がしたので光から「本当にこれなの?」と確認の『念話』があったのだ。 どう考えてもビールより白飯が欲しくなる香りと味だったが故に、違和感を覚えた光からの連絡を受けたナルリスはすぐさま魔力保冷庫内を見て初めて自らの間違いに気付いたのだった。 それから数時間後、今現在に至る。この時オーナーシェフはもう1つ思い出した事があった。ナルリス「大丈夫だ、きっと大丈夫なはずだ。確か2人共辛い物が大好物だったはず・・・!!」 普段からガルナスが家であらゆる料理に一味唐辛子をかけて食べていた事を思い出した、魔学校にも「マイタバスコ」を持参して食堂の料理にもかけている事を聞いている。 友人の人魚(マーメイド)で、今日一緒の弁当を持参して行ったメラも「マイ辣油」を持ち歩く程の辛い物好きだったはず・・・。 その上に、メラの辣油は一般的な赤い蓋の物ではなく黒い蓋の辛さがより一層強い物・・・。 吸血鬼はこの2点を思い出して何とか自分を安心させようとしていた、しかし落胆が酷過ぎてずっとパイプ椅子に座りこんで動かないでいる。 ナルリスの様子をずっとチ