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第30話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-06-23 08:08:15

な、なにしてんの? こいつ……。

どさくさに紛れてなにを……?

「ごめん……。わざとじゃない」

龍太郎が申し訳なさそうに口にした。

…………。

謝りながらも、なぜだが固まっている龍太郎。

「わざとじゃないなら早く、手をどけてよ! いつまで、触ってんのよ!」

私は近くにあった枕で思いきり、龍太郎の顔面を殴った。

彼のメガネが吹き飛んだ。メガネに罪はないのにごめんなさい。

「いっ! 痛~っ! なにすんだよ。乱暴な女だな。減るもんじゃないのに……」

龍太郎がメガネを拾いながら、ぶつぶつ文句を言い出した。

「余計に減る気がする!」

「……そんなことなかったぞ。意外に……。おまえ着痩せするタイプか……」

龍太郎が自分の手を見ながら口にした。

私は彼をにらんで、もう一度、頭に枕をゴンッと叩きつけた。

「こら! やめろって! この! 荒くたい女だな!」

私は龍太郎に両腕を押さえつけられ、そのままベッドに押し倒された。

「な、なにすんの……」

私は声にならない声で彼を見つめた。まばたきすら忘れてしまった。美しい黄金比の顔がそこにはあった。

両手は自由にならないし、太ももから下には龍太郎が乗ってるし、これはもう、私、大大大ピンチなんですけど!

自分の心臓の音だけが聞こえる……。

ドクン、ドクン。

「……おまえ、そんなにおれがキライか?」

伏せ目がちに、かすれた声でぼそりと言葉を発した龍太郎は、どこか悲しげだった。

「……き、きらいじゃないよ……」

もう、そう言うだけで精一杯だった。全身が心臓になったみたいだ。

龍太郎がそのまま、私の上に覆い被さってきた。

やばい、やばいって……。龍太郎の身体の重みを直に感じるんですけど……。

手は自由になったけど、今度はその他の自由がまったくなくなった……!!

「な、なにするの」

そういうだけで精一杯だ。

……てか、うちら病院のベッドでなにしてるの?

「前から思ってたけど……おまえ、いい匂いがするよな……」

龍太郎はそのまま、私の首元に顔を埋めた。

龍太郎の吐息がかかると、今度は熱が全身を駆け巡り、私はなんにも抵抗できなくなった……。

「おれは好きだよ……」

龍太郎の声が耳元で発生したことと、その言葉に私はドキッとした。

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