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内藤晴人
内藤晴人
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Nobela ni 内藤晴人

名も無き星たちは今日も輝く

名も無き星たちは今日も輝く

エトルリア大陸の二つの強国ルウツとエドナ。 双方の間では長年に渡り無為の争いが続いている。 その戦乱の世で、心身に消えることのない傷を負った孤独な青年と、彼を取り巻く人々が織りなす物語。 戦闘・流血シーンを含みます。 苦手な方はご注意ください。
Basahin
Chapter: 第二部 夜想曲 ─1─ 檻の中
深淵の闇の中に、漆黒の衣服を身にまとった男がいる。黒い髪に黒い瞳を持つその人は揺らめくランプの炎を見つめていた。 いや、正確に言うと見えてはいないのだが、彼の脳裏には仄かなその光が確かに映し出されている。 彼の黒玻璃の瞳は、生まれつき光を持たない。 けれど、持って生まれた司祭に匹敵するその『力』が、あらゆる物を見ることを可能にしていた。 目の前にあるランプの炎はもちろんのこと、この部屋に置かれた調度品の配置もはっきり見えている。無論その力は戦場でもいかんなく発揮され、幾度となく混戦を勝利へと導いてきた。 その不思議な能力で味方からは神格視され敵からは恐怖の対象となっている彼の名は、ロンドベルト・トーループ。『不敗の軍神』『黒衣の死神』などという二つ名を持つ彼はだが、今は少々というよりかなり不機嫌だった。 なぜなら戦から首都へ無事帰還し軍本部へ戦況の報告に訪れるなり、明確な理由の説明もなく軟禁に近い状況に置かれてしまったからである。 静けさの中、扉を叩く音が響く。 入れ、との声に応じて室内に入ってきたのは、まだ年若い女性だった。 彼と同様、黒衣に身を包んだ女性の名は、ヘラ・スンといい、ロンベルトの右腕と言っても良い存在で数少ない彼の腹心の部下である。その手には、一枚の紙が握られていた。 「騒ぎの原因は、解ったかな?」 彼がここに押し込められる少し前から、首都にはいつになく騒がしい空気が流れていた。彼は帰還するなりそれを感じ取り、副官であるこのヘラに軟禁される直前、密かに調査を命じていたのである。 危機的状況であるにもかかわらずどこか面白がっているようなその声に、女性は呆れたような表情を浮かべつつも一つうなずいた。 「どうやら街に、敵国の密偵が潜り込んでいたようです。……捕縛された一人は残念ながら尋問中に自死したのですが、こんな物を」 差し出されたそれを手に取ると、彼はわずかに目を細める。 同時に、鮮明な画像が彼の脳裏に広
Huling Na-update: 2025-05-02
Chapter: ─7─ 戦場
 久しぶりに立った戦場は、ひどいものだった。まったく統制のとれていない敵軍は、勝機も見えないのに突撃を繰り返してくる。そのたびに無数の敵の屍(しかばね)が自陣の前に積み上がり、鉄臭い血の匂いが周囲に漂う。 自分が配備された場所は大隊長の守備という最前線から離れた場所であったから、直接敵と切り結ぶことはなかったが、遠目に見ても敵の攻撃はあまりにも無謀に見えた。やがて、臭覚が麻痺した頃、斥候から情報が入ってきた。 曰く敵の司令部は、圧倒的不利な状況に全軍を置いて逃げ出したところを運悪くこちらの伏兵とぶつかり、あっけなく崩壊したらしい。戦場に残された部隊は指揮系統を失い、戦線を維持するのも困難な状況である、と。 義父の心配は、どうやら取り越し苦労だったようだ。そう安堵の胸を撫で下ろした時だった。後背の大隊長の部隊がにわかに動き出した。 指揮系統を失った敵を叩きに、大隊長自ら前線に出るのだろうか? そんなことを思った刹那、単騎がこちらに向かってくるのが見えた。ほかでもない、息子だった。いぶかしげに見やる自分のもとに駆け寄ると、息子は早口にこう告げた。「父……中隊長殿、敵が来ます!」 自分は耳を疑った。自棄になった一部の敵が血迷ったのだろう、そう思った。だが、息子は青ざめた表情で一点を指差しさらに続ける。「あちらの方角です! 大隊長殿はすでに退避を初めておられます。中隊長殿は……」 息子が言い終える前に、息子が指差した方向から無数の矢が飛んできた。盾を構えるのが間に合わなかった者たちが、ばたばたと落馬していく。間近に落ちた矢には、所属する部隊を示す特徴は見られなかった。 一体どういうことなのだろう。 疑問に思ったのもつかの間、無数の馬蹄の音が近づいてくる。そこに現れた部隊の大部分を占めるのは、不揃いの武具を身にまとい、思い思いの武器を構えた一団だった。おそらくあれは……。「傭兵だ! 注意しろ!」 しかし、個々の武勲に固執し徒党を組むことの少ない傭兵達が、なぜ統制されているのだろう。し
Huling Na-update: 2025-05-01
Chapter: ─6─ 忠告
 初陣以来、息子は着々と軍功を重ね、自分など足元にも及ばないほどの速さで出世していった。それは無論『目』という特異な力もそうだが、それ以上に武芸に励んだ結果でもあり、勇敢さが評価されたためでもあった。 駄馬の家系から駿馬が生まれたようなものだと当初自分は自嘲気味に思っていた。しかし、息子はそんな自分を心底尊敬してくれていると理解したとき、その考えは消えてなくなった。ただただ息子が無事に生きて戻ることを願い、共に生きながらえることができたことを喜ぶのが無二の楽しみになっていた。 そんなことが続いて、何年かの時が流れた。息子は大隊長付の副官的立場となっていた。そして自分のもとにも新たな辞令が届けられた。久しぶりの前線勤務、役職は中隊長だった。 それを知った息子は、父上と共に戦えるのですね、と心底嬉しそうな表情を浮かべていた。だが、目を輝かせている息子とは裏腹に、自分はこの人事に何かきな臭いものを感じていた。 自分が前線を離れて、もうかなりの年月が経つ。鍛錬こそ怠ってはいないが、実戦におけるカンというものはだいぶ鈍っているだろう。そんな自分を、なぜ今更前線に引っ張り出そうというのだろうか。 しかし、自分は国に仕える武人である。どんな裏があろうとも、下された命令には従わなければならないのだ。吐息を漏らしながら、自分は自らの武具を手入れしている息子を見やる。 志願して武人になった息子ではあるが、果たしてそれは息子の本当の意思だったのだろうか。自分は、卑しい利己心から息子の可能性を潰してしまったのではないだろうか。そして、唯一の家族である息子を、何やら恐ろしいものの中に巻き込んでしまったのではないだろうか。自分は、人の親として許されざることをしてしまったのかもしれない。 しかし、なぜこんなことを思うのだろう。自らの思考に疑問を抱きつつ、自分は武具を整えていた。     ※ 出陣を目前に控えたある日の昼下がり、かつての上官……つまりは亡くなった妻の父であり、息子にとっては祖父にあたる人が、珍しく家を訪ねてきた。 妻のことがあってからすっかり疎遠になっていた人が、一体どうして。
Huling Na-update: 2025-04-26
Chapter: ─5─ 変化
 息子の決意を聞いた自分は、それまで教育係に丸投げにしていた鍛錬にまめに顔を出すようにした。時には直接剣をあわせたり、組手をした。加えて用兵術の方は知人のつてを頼って、かつて何度も武勲を上げた高名な退役指揮官の元へ通わせることにした。 直に剣をあわせてみると、驚くべきことに息子はかなり筋が良かった。一方で用兵術の方も大変飲みこみが早いようで、このままいけばどこへ出しても恥ずかしくない指揮官になれる、との有り難い言葉を頂いた。 いつしか息子の身長は自分よりも高くなり、成年を迎えた息子は、徴兵を待たずに志願して自ら武人となった。配属されたのは偶然なのか忖度なのかは定かではないが、所属する分隊こそは違うが自分と同じ部隊だった。 複雑な思いにとらわれる自分をよそに、辞令を手にした息子は自分に向かって深々と頭を下げこう言った。「今まで私を育ててくださり、感謝のしようもありません。この上は父上の名を汚さぬよう、立派な武人となってみせます」 そして、以後は一兵卒として厳しくご指導いただければ幸いです、とはにかんだように笑って見せた。 もっともその頃は、息子の剣技の腕は自分よりも遥かに卓越したものとなっていたので、教えられることなど無いも同然だった。しばし悩んたあと、自分は息子の肩を叩きながら、こう告げた。 より長く戦ってこそ国のためになる。決して、死に急ぐな。必ず生きて帰ることを考えろ、と。     ※ 程無くして、我々に出陣の命が下った。自分は後方の補給部隊、息子は前線の攻撃部隊の配属だった。 敵国の内部に張りめぐらせていた情報網が崩壊した今、敵の動きをつかむのは至難の業だった。戦闘は後手後手に周り、攻撃を仕掛けてくる敵を迎え撃つのに充分な準備期間を取ることはなかなか難しかった。 短期間で補給計画を練る自分をよそに、息子は支給された真新しい武具を嬉々として手入れしていた。 果たして、また息子に生きて会うことができるだろうか。 気がつけば自分はそんなことを考えていた。そして内心首をかしげる。やはり自分の内面は変化したのではないだろうか。 それまで自分は、
Huling Na-update: 2025-04-25
Chapter: ─4─ 決意
 諜報機関の知人に会い家に戻ってからというもの、息子は部屋に閉じこもってしまった。もともと自分と居間で話すことなどほとんどなかったが、その様子は明らかにおかしかった。なぜなら教育係による訓練にも出ては来なくなってしまったのだから。 辛うじて乳母が運んでいる食事は受け取っているようだが、それもほとんど食べてはいないようだった。深夜には時折泣き声やうめき声が漏れ聞こえてくるので、たぶん満足に眠れていないのだろう。 そういえば自分も思い返してみれば、初陣を生き抜いて戦場から戻ってきたあとには、しばらくの間眠ることも食べることも満足にできなかった。成人を迎えていた自分ですらそうだったのだ。それを考えれば、無理もないことだろう。 やはり異国の凄惨な光景をいきなり眼前に突きつけられるというのは、年端もいかない息子にとっては、受け入れ難いほど衝撃的なものだったのだろう。命令だったとはいえ、配慮が足りなかった。そう自分自身を恥じた。 そしてふと、自分はあることに気がついた。それまで愛情のかけらすら持てずにどうしたらよいかわからなかった息子のことを、自分は今こうして心配している。加えて、申し訳ないことをしたと後悔の念を抱いている。これは一体、どういうことなのだろう。 自らの中に突如として生まれたもやもやとした感情をうまく整理することができず、自分は室内をうろうろと歩き回る。果たして自分は一体どうするべきなのだろうか。熟考した末ある結論に達し、自分は意を決して息子の部屋へ足を向けた。 息子の部屋の扉は、その心の内を示すかのように固く閉ざされていた。大きく息をついてから、扉を三度叩いた。もちろん返答はない。 けれど、ここで戻ってしまっては、自分は二度と息子と向かいあうことはできない。そう自らを奮い立たせ、扉を押し開いた。 薄暗い部屋の中で、息子は寝台に突っ伏して低く泣いていた。一大決心をしてここに来たつもりなのに、自分は息子に対して何と言葉をかけてよいかわからず、ただ戸口に立ち尽くしていた。 と、不意に泣き声がやんだ。おそらくは私の気配に気づいたのだろう。そして、息子は涙にぬれた黒い瞳をこちらに向けてきた。「…
Huling Na-update: 2025-04-24
Chapter: ─3─ 接触
  敵国内の情報網を統括する知人は、すぐに息子を連れてくるように自分に告げた。それを聞き、自分はとあることを察した。我が国は今、重大な問題に直面しているという話が水面下で持ち上がっていた。息子の目は、その問題を打破するのに適したものだったからだ。 初めて自分と二人で外出すること、しかも外出先が自分の職場と関係がある場所であると知った息子は、年相応の子どもらしく嬉しそうだった。自分はそんな息子に若干の後ろめたい気持ちを感じていたが、これも息子のためなのだと無理矢理に思い込もうとしていた。 自分と息子を執務室に入れると、知人は座るようにうながした。そして、猫なで声で息子に向かいこんなことを言った。「君か。この国を助けてくれる有望な少年は」 初めての場所に加え、それなりの地位を持つ人物に対峙しているということもあり、息子はかなり萎縮しておびえている。かすかに震えながら、無言で一つうなずくのが精一杯のようだった。 その様子を察したのだろう。知人はいかつい顔に似合わぬ笑顔を浮かべてみせた。「そう固くなることはない。話はお父上から聞いているよ。君は見えないけれど見えているんだろう?」 まったく矛盾するようなその問いかけに、息子は戸惑いながらももう一度うなずいた。その反応に知人は満足そうな表情を浮かべると、卓に片肘を付きながら息子ににじり寄る。「どういうふうに見えているのか、教えてくれないか? 私の顔は、どうかな?」 すると、息子はぽつりぽつりと話し始めた。ふくよかな顔に太い眉に立派なひげ。息子は知人の顔の特徴を紛うことなく答える。その言葉は知人を満足させたようだ。にやりと笑うと、知人はおもむろに本題へ入った。「どうだろう、その不思議な能力を、この国のために貸してはくれないかな?」 思いもよらないことだったのだろう。息子は不安げに隣に座っている自分の顔をのぞき込んできた。 無理もないことだろう。いきなりこんなところへ連れてこられ、力を貸せなどと言われるのだから。 知人は鷹揚に頬杖を付き、睨めるような視線で息子を見やった。「
Huling Na-update: 2025-04-23
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