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012 直希とつぐみ

last update Last Updated: 2025-05-26 17:00:47

「つぐみ。ほら、つぐみ」

「やだ……やだナオちゃん、離れないで」

「離れないって。大丈夫、怖い人はもう、向こうに行ったよ」

「……本当?」

「うん。ほら、どこにもいないだろ?」

 直希の言葉に、つぐみが涙を拭きながら顔を上げた。

「ここにはもう、俺とつぐみしかいないよ。大丈夫、俺が退治したから」

「ナオちゃん……わああああっ!」

 そう言って、またつぐみが泣き出した。

 直希はつぐみの頭を優しく撫で、耳元で「大丈夫、大丈夫」と何度も囁いた。

 * * *

 10分ほどして、ようやくつぐみが落ち着いたので、直希は手を取って部屋に向かった。

「はい、ここがつぐみの部屋だよ」

「……ナオちゃんは?」

「俺はひとつ挟んで向こうの部屋。大丈夫、何かあったら飛んでくるから」

「やだ! ねえナオちゃんお願い、一緒に寝て」

「そう言われてもなぁ」

「お願いナオちゃん。ねえ、ねえってば」

 真っ赤な瞳で、つぐみが直希に哀願する。

「……分かった。じゃあつぐみが寝るまで、傍にいてあげるね」

「うん! ありがとう、ナオちゃん」

 そう言って、つぐみが嬉しそうに笑い、直希を抱きしめた。

 つぐみを布団に寝かせると、直希は枕元に腰を下ろした。

「ナオちゃんは寝ないの?」

「ん? ああ、大丈夫だよ。ちゃんとここにいるから。俺はいつだってつぐみのこと、守ってあげるからね」

「ナオちゃん……その……ね、手……なんだけど……」

「いいよ、分かった。ほら、ちゃんと握ったよ。これでいい?」

「うん……あり

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