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⑨味方

Penulis: 美桜
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-17 09:16:53

「社長」

静まりかえるオフィスで明日の会議で使う資料に目を通していた希純は、秘書の中津の呼ぶ声に顔を上げた。

「美月は見つかったか?」

「はい」

ようやく期待通りの答えが得られて、希純は無言で続きを促した。

「奥さまは精華ホテルにご滞在されてます」

「精華ホテル?」

自分の答えに眉根を寄せて首を傾げる希純に、中津は苦笑した。

わかりますよ〜。うちのホテルがあるのになんで?て思ってるんですよね〜。

中津は積極的に美月を連れ戻そうとは思っていなかった。なぜなら今ー

「希純兄さん」

「!」

「奈月…」

この娘はなんで勝手に入って来るんだよっ。

つい先ほど希純を訪ねて現れた彼女に、中津は確かにロビーで待つよう言ったはずだった。

それがなんで最上階にある社長のオフィスに?そんな気軽に入れませんよ、ここは!?

「奈ー」

「出て行ってください」

「え…?」

中津の冷たい言葉に、奈月の笑顔がピシリと固まった。

「ロビーでお待ち下さいとお伝えしたはずです。なぜここに?」

「え…と……」

問い詰められて奈月はちらりと希純を窺い見た。

「おいー」

「なんでしょう?」

彼女に頼られて口を挟もうとしてきた希純を、中津は気にせずに問い返した。

「ここには重要書類や機密書類等いろいろあります。そんな所へ部外者を簡単に入れてはいけません!」

「……」

正論を断固とした口調で告げられて、希純も二の句が継げなかった。

そんな彼を見て奈月も自分の不利を知り、おずおずと口を開いた。

「ごめんなさい。私はただー」

「何ですか?また遅くなったから送ってほしくて、ついでに食事でもしませんか?とでも仰るつもりですか?生憎ですが、社長はそんなに暇ではありませんっ」

「……」

まさに中津の言った通りの事を言おうとしていた奈月は呆気にとられ、口をポカンと開けた。

え?なんなの、この人?ちょっと前まですごく丁寧な人だと思ってたのに…。

「おい、さすがに言いすぎだ」

「…」

はい!?正気か、この人っ。

ほんの数時間前に起こった事を何も覚えてないかのように奈月を庇う彼の姿に、中津は呆れてしまった。

アウトだな。もう手の施しようがない。間違いなくクズだ、この男は。

中津は腹の底からはぁぁぁ…と息を吐き出し、「失礼します」と言い捨ててその場を後にした。

「おい!!」

背中から希純の怒声が聞こえたが、もう振り返りたくなかった。

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  • あなたからのリクエストはもういらない   ⑫煩悶

    「彼女にお昼のお弁当を頼まれたとか…?」「?あぁ、最近料理の勉強をしてるとか言ってたから」そう言った時、希純の口元が僅かに上がったのを見た。「それで?わざわざ手作りのお弁当を頼まれたのですか?奥さまではなく、ただの義妹に?」その皮肉げな言い方に、希純の片眉がピクリと上がった。「なんだ?何が問題なんだ?」「……あなたは根本的に間違っています」中津の冷え切った声音に一瞬戸惑いの表情を見せた希純だったが、プライドの為か素直に問い返せなかった。「ロビーでお待ちいただいてますが、どうされますか?」「は?なんで通さない?」昨日も言ったんだけどね…。中津は肩を竦めた。「お連れします。一般社員が使うエレベーターで」強調して言うと、「専用を使え」と言い返された。「専用は社長と奥さまのみが使用できるようになっているはずですが?」「……今日だけだ」「……」希純は自分を見る中津の瞳に軽蔑の色を見て取り、ぐっと奥歯を噛み締めた。「なんだ?何か言いたい事でもあるのか?」「……いいえ」最早、注意する気にもならない。中津は昨夜更新された奈月のSNSの投稿を見て、朝から彼女に怒り心頭だったのだが、もうそれを口にする気もなかった。彼には既にあり得ない投稿がなされている事を告げてあるし、それを放置し、更に更新の機会を与えるような事をしてしまうその神経が理解できなかったのだ。それでいて「離婚したくない」だなんて、勝手が過ぎる!てなものだっ。中津は最低限の礼だけをしてオフィスを出て行った。少しして、「希純兄さん」と柔らかい声音で呼びかけられ、ノックもなしにオフィスに入って来た奈月を見た。希純は彼女の後ろに中津の姿がないことを知ると、複雑な表情をした。「兄さん?」「いや……」きっと何か用があって、一緒に来れなかったんだろう。そう思ったが、その日中彼の姿を見かけることはなかった。??秘書は常に近くに控えているものではないのか?少し苛ついたが、不安にも思った。彼のあの軽蔑に満ちた目と冷ややかな声に、希純は自分の何がいけなかったのか分からずに落ち着かなかった。『はいー』彼は秘書室に連絡を入れ、中津の居場所を聞いた。『中津でしたら、本日は早退致しました』「なに?」聞いてない。あり得ない。上司に黙って早退とか、バカにしてんのか!?「体調不良

  • あなたからのリクエストはもういらない   ⑪奈月

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  • あなたからのリクエストはもういらない   ⑧孤独

    美月は眠気を散らすためにシャワーを浴びに行った親友の為に、夕飯を作ろうとキッチンに入って冷蔵庫を開けた。「へぇ~、結構揃ってるのね」確か前回ここへ来た時、この中には水とチーズ、それからなぜか化粧水が入ってるだけだった。誰か料理上手な彼でもできたのかしら?そう思いながら丁寧に中を見ていると、下ごしらえ済の食材がある事に気が付いた。あぁ、これは…。美月が一つの考えに行き着いた時、ピンポーン!と玄関チャイムが鳴り響いた。「は~い」パタパタとスリッパの音を鳴らしながら玄関に行き、ガチャリとドアを開けた瞬間、目の前にバッと突き出された花束に思わず美月は仰け反ってしまった。「校了おめでとう!」その声と一緒に彼女はふわりと抱き締められ、慌ててその腕の中から逃れようと厚い胸板を押した。「ち、ちょっと…っ」美月の声に相手の男が「ん?」と僅かに身体を離した。そしてそこにある見知らぬ顔にびっくりしたのか、そのまま固まってしまった。「あの…」固まるのはいいが、まわした腕を離してほしい…。美月が困っていると「ダーリン、人違いよ」と彼女の親友が笑いながら近づいて来た。お風呂上がりの彼女は仄かにピンク色の頬をして、まだ乾いていない髪の毛は湿って白いバスローブの襟元に散っていた。「尚…」ふわりと漂ってきたボディソープの香りに男は美月からそっと離れ、尚の手を取った。「ごめん…」「ふふ…。次はないわよ?」尚はいたずらっぽくそう言って、男の頬を軽く抓った。「美月、ごめんなさいね」「すみません……」気不味そうに頭を下げる男に、美月は微笑って言った。「大丈夫。私こそ、サプライズの邪魔をしてしまって、ごめんなさい?」「いえ……」男は美月の言葉に照れくさそうに笑い、改めて尚に花束を渡した。「校了おめでとう」男の瞳には恋人への愛情が溢れんばかりに宿っていた。彼女はそれを受け止め、綺麗に微笑った。「美月、紹介するわ。彼、真田聖人(さなだまさと)よ」「佐倉美月です」2人は握手を交わし、連れ立ってリビングに入って行った。「美月、ごめん。聖人にもお茶お願いしていい?私、着替えてくるわ」「いいよ。任せて」そう言って尚を部屋に戻すと、美月は早速キッチンで紅茶を淹れた。2人はさして話題もなかったが特に気にすることもなく、やがてカップを置いた。「さ

  • あなたからのリクエストはもういらない   ⑦新たな一歩

    久しぶりの別荘。美月は実は楽しみにしていた。結婚当初に贈られて、でもすぐに会社の方の部屋を使うように言われてから、もうずっと訪れていなかった。相変わらずの綺麗な景色とそれにマッチした建物。希純が彼女の為にデザイナーと一緒にデザインし、内装も何もかも彼女好みに設えられて、実に住み心地の良い、愛情溢れる場所だった。そのはずだったのに…。「どういうこと?」タクシーから降り立ち、玄関を開けた所で驚いた使用人から誰何され、美月は一気に不機嫌になった。「あなたは?」「わ、私はこちらの家政婦です。あなた様こそどちら様ですか!?」「……」その質問に、美月は黙って身分証を掲げた。「ここの持ち主よ。誰の許可を得てここにいるの?」「え…」目に見えて狼狽える使用人に、とりあえず美月は中へと歩を進めた。そしてその内装の変わりように、驚いて立ち竦んだ。「誰?」後ろをついて来た使用人を振り返り、静かに問うた。「誰が内装を変えたの?希純?」「い、いえ…奈月様…です……」徐々に小さくなっていく声に、美月の目が眇められた。そして徐ろに携帯を取り出すと、希純の番号を呼び出してタップした。『はい。奥様ー』出たのは彼の秘書を務める中津で、彼女は彼が悪いわけではないことを知りつつも怒りが抑えきれず、冷たい声音で応じた。「中津さん、S市の別荘のこと、説明して?」『……しばらくお待ちください』そう言われて待っていると、やがて向こうから希純と中津2人の会話が聞こえてきた。美月はそれを聞きながらリビングのソファに座り、ただ一点を見つめていた。『奈月さんを追い出しますか?それとも奥様を?』『決まってるだろう。先ずは美月だ!ー』そこまで聞けば十分だった。美月の瞳は冷たく部屋の中を見回し、そしてまたスーツケースを持って玄関へ向かった。「どちらへー」見知らぬ家政婦に、美月は静かに告げた。「出て行くわ。お邪魔しました」「……」呆然とする家政婦にはもう見向きもしなかった。外に出てもう一度タクシーを呼び出し、待っている間に希純に離婚協議書を請求した。あんな人、もういらないわ。到着したいつもとは違う会社のタクシーに乗り込み、美月はとある住所を告げた。ピンポーン!呼び鈴を押して待つこと数十秒。「は~い、どなた?」ガチャリと玄関扉を開けて出て来たのは、美

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