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【第1部】 第26話 二人の男②

last update Last Updated: 2025-07-15 06:01:40

 息がかかる程の距離、もうすぐ触れてしまいそうな近さに龍の顔があった。

 トクン、と胸が高鳴る。

 龍はピタリと動かなくなってしまう。

 こんな至近距離で見つめ合うなんて普段ないから、ドキドキするじゃない!

 私としたことが、龍に“ときめく”なんてあり得ない……と思いつつ、なんだろう……胸の高鳴りがなかなか消えてくれない。

 ドキドキドキ、脈打つ鼓動。

 いや、これはきっと、あまりにも顔が近いから、体が密着しているから!

 そうだ、きっとそうだ!

 こんなこと普段ないから、免疫がないからだ。

 自分に言い訳し、私は一人で頷いた。

「お嬢……」

 龍が熱い視線を私に送ってくる。

 え? 何? この展開。

 いや、龍に限ってない、何もないから。

「龍、早くどいてっ」

 私は冷静を装い、龍を押し返そうとする。

 突然、龍が私の腕を掴み、床に押し戻した。

「ちょ、何すっ」

 龍の瞳は、私の知っているいつもの優しいものではなくなっていた。

 それは、知らない男の目……。

 じっと見つめられ、私は動けず固まってしまう。

 龍の顔がゆっくりと近づいてくる。

 ど、どうしよう、龍の力が強くて突き放せない。

 こいつ、めちゃくちゃ力強い!

「何してるの!」

 大きな声が、突然辺りに響き渡った。

 声に反応した龍の体は一時停止し、その目が大きく見開かれる。

 私のことをじっと見つめ数秒、あっという間に龍は私から体を離し、立ち上がった。

「も、申し訳ありません! わ、私はいったい……」

 龍は激しく動揺しているようだった。

 顔を赤らめ、何度も私に頭を下げ、オロオロと取り乱している。

 いつも冷静な龍のこんな姿は、滅多にお目にかかれない。

 それにしても……と慌てふためく龍を見つめる。

 先ほどの龍は、いつもと違った。転んだ瞬間に、どこか頭でも打ったのかな? と私
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