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【第1部】 第4話 シンクロする心①

last update Last Updated: 2025-05-26 16:16:03

「眠れない!」

 頑張って眠ろうとした。

 しかし、どうしても先ほどのキスを思い出してしまい、眠りにつくことができずにいた。

 だって、私にとってあれは人生初のキス、ファーストキスだった!

 しかも相手はタイムスリップしてきた異国の王子って、どんなとんでも話なの?

 それに、なんだかんだで嫌じゃなったし……というか私も望んでいた?

 あー! 自分の気持ちがわかんない!

 私は頭を抱えると、枕に顔を埋めうめいた。

 あのあと、龍はロボットのように動き出したかと思うと、淡々とヘンリーの部屋を用意し、そこに布団を敷いた。

 ヘンリーに「ここで寝ろ」と一言だけ発し、龍はふらーっと居なくなってしまった。

 龍……大丈夫かな。

 あまりの出来事に、龍もパニックを起こしているのかもしれない。

 まあ、明日にはいつもの正常な龍に戻る……だろう。

 私は喉の渇きを覚え、水を飲もうと台所へと向かった。

 コップに水を注ぎ一気に喉へと流し込む。

 一息つくと、少し気持ちも落ち着いてきた。

 部屋へ戻ろうとすると、どこからか小さく鼻歌が聞こえてきた。

 耳を澄ますと、どうやら窓の隙間から聞こえてきているようだった。

 裏口から外へ出て、音の出どころを探る。

 どうやら、音は頭上から聞こえてきているようだ。

 私は二階の方へ視線を向けた。

「……ヘンリー?」

 二階の窓から顔を出しているヘンリーの姿が目に入った。

 鼻歌は彼のもののようだ。

「流華? こんな夜更けにどうしたの?」

 こちらに気づいたヘンリーが笑顔を向けた。

「ちょっと眠れなくて……鼻歌に吸い寄せられたの。素敵な音色だった」

「そう? 嬉しいな。ねえ……流華、こっちにおいでよ」

 トクン、胸が高鳴る。

 彼の側へ行きたい、そんな思いが頭をよぎった。

 どうして出会ったばかりの人にそんなことを思うのだろう……。でも、なぜかそれが自然なことのようにも感じられた。

「待ってて」

 私の言葉にヘンリーは嬉しそうに頷いた。

 二階のヘンリーにあてがわれた部屋。

 その窓辺で、私は夜空を見つめる。

 隣には嬉しそうにニコニコと微笑むヘンリーがいる。

 綺麗な月明かりの中、星たちが瞬き輝いていた。

 その光に照らされた私たちの間を、冷たい夜風が通り抜けていった。

「流華、寒くない?」

「うん、大丈夫」

 ヘンリーが優しい目で私を見つめてくる。

 この瞳に見つめられると、どうも落ち着かない。

「ヘンリーも、眠れないの?」

「うん、僕の世界のことを思い出してた」

 ヘンリーは故郷を思い出しているのか、懐かしそうに目を細め遠くを見つめた。

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