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【第2部】 第29話 龍のお見合い②

last update Last Updated: 2025-10-06 19:00:42

 障子の向こうを鋭く見据えた祖父が叫ぶ。

「ダメじゃ!」

 祖父はそのまま、奥座敷の中へと足を踏み入れた。

「龍、こんな可愛い娘さんに何をしとるんじゃ!

 ずっとおまえを想い続けておるんじゃぞ。そんな無下に断るのはよくない。

 ささ、果歩さん、今日はこれくらいにしておきましょう。あとのことは追って連絡するので」

 ……え、ちょっと待って!?

 これ、私のときにも見た展開!

 せっかく龍が断ろうとしてたのに、なにやってんの、おじいちゃん!

 私は頭を抱えた。

 すると、祖父と果歩さんが奥座敷から出てくる。

 慌てた私は、その場を離れようとしたけど――

 やっぱりやらかしてしまった。

 足を引っかけて、また派手に転ぶ。

「流華……おまえ、何やっとるんじゃ?」

 祖父があきれたような顔で見下ろしている。

 その隣では果歩さんが、目を丸くして私を見ていた。

「いっつぅ……べ、べ、別に! 通りかかっただけよ!」

 なんとか立ち上がりながら、必死に取り繕う。

 は、恥ずかしい……やっぱり、穴があったら入りたい。

 私はその場を逃げるように走り去った。

 なんで、いつもこうなるの!?

 台所まで逃げ込んだ私は、壁にもたれかかって大きく息を吐く。

 しばらくして、龍が駆け込んできた。

「お嬢! 大丈夫でしたか?」

 私を見つけた彼の顔がほっとしたような表情になる。

「だ、大丈夫よ。

 ほんと、今日は何度も格好悪いとこ見せちゃったな……。

 ははっ、私、何やってるんだろ」

 ふと、泣きそうになる。

 あんな可愛い子の前で、何度も醜態さらして……情けない。

 必死にこらえようと、私は龍に背を向けた。

「お嬢……」

 龍が、そっと私を後ろから抱きしめてきた。

 いつもと違う、スーツの香りが鼻をかすめる。

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