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王の名を持つ者⑧

last update Last Updated: 2025-07-01 17:00:10

――魔神が戦場に姿を見せる数分前。

背後から迫る魔物の群れをリヴァルさんが片付けたのを見届けて、僕は辺りを見渡す。

既にここは前線の真っ只中だ。

各所で魔法が飛び交い、いつこちらに飛び火するか分からない状況でもある。

魔族の襲撃も一旦は落ち着いている。

「カナタ、ここは危険」

「分かってるよ。でもここから逃げることなんてできないだろ?」

辺りは至るところで戦いが繰り広げられている。

そんな中無防備に通り抜ける事など不可能だった。

そんな時だった。

突如として異様な気配を感じ取り僕は前方へと顔を向けた。

マントを羽織った見覚えのある男が宙に浮いている。

アレンさん達の姿も見えた。

魔神が遂に姿を見せたようでこの戦いも佳境に入ったということを示している。

見ているだけ、だなんて僕の気が収まらなかった。

「アカリ、あそこに行く」

「ダメ、あの中に飛び込むなんて自殺行為」

「何もせず見ているだけなんて嫌なんだよ。頼む」

「……分かった」

僕の真剣な表情を見てかアカリは数秒悩みながらも頷いてくれた。

そうと決まれば早速行動開始だ。

少しでもアレンさん達の助けになりたい。

「露払いは任せて。その代わり絶対に走るのを止めないで」

「ああ、分かった。助かるよ」

アカリと目だけで合図を取るとお互いに全力で走り出した。

僕が走ると前を阻む魔物や魔族は瞬く間に斬り刻まれ、道が開かれていく。

アカリが神速の名に恥じない速度で行く手を阻む一切合切を斬り捨ててくれているからだ。

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