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二人だけの夜

Author: 雫石しま
last update Last Updated: 2025-07-09 12:20:41

 デジタルカメラを手に二人はベッドに横になった。先ほどまでの緊張感は解け、自然と笑みが溢れた。

「これで賢治さんの不倫の証拠は揃ったよ」

「あぁ、疲れた」

「菜月、お疲れ」

 菜月がベッドのシーツに包まりながら柔らかく微笑むと、湊がその隣に肘を突いて寝転んだ。無邪気な笑顔で振り返る菜月の隣には、穏やかな面差しの湊が横たわっていた。二人の間に静かな時間が流れる。湊の息遣いが近く、菜月の心に温かな波を立てた。彼女の短く刈り上げた髪を、湊はそっと撫で、かつての「天使の羽根」を懐かしむように目を細めた。事故の傷跡、右腕の包帯、頬の絆創膏はまだ痛々しいが、彼の微笑みは変わらない。この瞬間だけは倫子や賢治の影を忘れたかった。二人の視線が絡み合い、シーツの柔らかさと湊の温もりが心を解す。湊の手が髪を滑る感触に、菜月は新たな自分と過去の自分を重ね合わせる。

「菜月、男の子みたいになっちゃったね」

「思い切っちゃった、ちょっとだけ後悔してる」

「そのうち伸びるよ」

「うん」

 菜月の目頭に熱いものが溢れた。

「菜月は、賢治さんと暮らした時間を切り落としたんだよ」

「うん」

 菜月が長く伸ばした髪をバッサリと切ってしまうには、よほどの覚悟と深い思いがあったに違いない。

「菜月」

「なに?」

「これからは僕の為に髪を伸ばして欲しいな」

「うん」

 菜月の頬に温かな涙が静かに伝った。湊は彼女をそっと抱き寄せ、涙の跡に優しく口付けた。菜月の両手はゆっくりと湊の背中に回り、ワイシャツの布地を強く握った。二人の体温が少しずつ上昇し、まるで互いの心を溶かすように絡み合った。湊の右腕の包帯が擦れる感触も、頬の絆創膏の硬さも、菜月には愛おしく感じられた。彼女の短髪を撫でる湊の手は、かつての「天使の羽根」を惜しむように、だが今を受け入れるように優しかった。ニューグランドホテルでの倫子との対峙、賢治の依頼、事故の影。それらは今、遠い世界の出来事だった。菜月の涙は、過去への惜別と新たな決意の混ざり合い。湊の温もりに身を委ね、彼女はワイシャツ越しに彼の鼓動を感じた。シェードランプの光が二人の輪郭を柔らかく照らし、シーツの皺が刻む静寂の中で、時間はただ二人だけのものだった。

「そういえば、母さんがさ」

「お母さんがどうしたの?」

 菜月は不思議そうな顔で湊を見上げた。

「僕たちが、奥の和室でキスしているのを見
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