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第358話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第366話
芽衣は静雄の違和感にまったく気づいていないようで、うれしそうに静雄の腕に絡みつき、甘えた声で言った。「本当？やっぱりね。この服はすごく気品があると思ったの。着ると自分でも全然違う感じがするのよ」静雄は黙ったまま、芽衣に腕を取られるままにしていた。彼の視線は自然と芽衣の顔に落ちた。化粧も以前とは少し違う気がした。最近、大介も芽衣の変化に気づいていた。服装のスタイルが変わっただけでなく、話し方やちょっとした仕草まで、わざと深雪を真似ているように見えた。芽衣が何を考えているか分かる。目的も理解できる。だがそのやり方はあまりに愚かだと大介は思った。「最近、芽衣様ずいぶん変わりましたね」書類を整理しながら、大介は何気ない口調で静雄に言った。静雄は顔を上げ、少し戸惑った目をした。「変わった？どういう意味だ？」大介はにこりと笑い、含みのある声で答えた。「いえ、何でも。ただ、芽衣様は最近ますます綺麗になって、雰囲気も変わったなと思っただけです」静雄は眉をひそめ、淡々と「そうか」とだけ返した。その反応に、大介はこれ以上言っても無駄だと感じ、心の中でため息をついた。静雄は芽衣に夢中で、こんなあからさまな模倣にすら気づいていない。一方その頃、陽翔は芽衣の様子に堪えきれず、また忠告した。「姉さん、ちょっとやりすぎじゃないか？深雪の真似するのはまだしも、少しは抑えろよ。これじゃ誰の目にもバレバレだ」芽衣は鏡の前で深雪の笑みを練習していた。陽翔の言葉に不快そうに眉をひそめ、振り返らずに言い返した。「やりすぎ？私はただ自分をもっと良くしたいだけよ」「そう？」陽翔は鼻で笑った。「深雪になりたいだけだろ！姉さん、目を覚ませよ。静雄が好きなのは姉さんだ。深雪じゃない。そんな真似ばかりしてたら、逆に変だと思われるぞ」その言葉に芽衣は激しく反発し、くるりと振り向いて陽翔を睨みつけた。「それは全部、静雄のためよ！私たちの未来のため！静雄の心から深雪を完全に消し去って、私だけを見させるの！」芽衣のほとんど狂気じみた表情を見て、陽翔はどうしようもなく肩を落とした。もう何を言っても無駄だ。芽衣は執念に囚われ、自分から抜け出せなくなっていた。その頃、深雪の会社は灯りに包まれていた。会議室のテーブルを囲むメンバ
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第365話
静雄の言葉を受けて、芽衣は唇をきゅっと結んだ。静雄は彼女をしばらく見つめたが、結局それ以上何も言わず、一人で部屋に戻ってしまった。それ以来、芽衣は家事の講座に夢中になった。フランス菓子から和食、さらには部屋のマネジメントまで、申し込む講座は多岐にわたり、ほとんど全ての時間をそれに費やした。不器用にキッチンで奮闘し、指を焦がし、手の甲を赤く火傷しても、彼女は楽しそうに続けていた。「姉さん、何してるんだ？」陽翔は、台所で四苦八苦する芽衣の姿に眉をひそめた。「料理なんて一番嫌いじゃなかったっけ？どうして急に変わったんだ？」芽衣は焦げたクッキーをヘラでそっと皿に移しながら、顔を上げずに答えた。「勉強してるのよ。静雄のために。最近、仕事で疲れてるでしょう？だから私が何かしてあげたいの」陽翔は怪訝そうに近づき、炭のようなクッキーを手に取り、匂いを嗅いでむせそうになった。「姉さん、これ本当に食べらるかか？静雄を看病するどころか、病院送りにするつもりじゃないよな」芽衣はじろりと睨み、「大事なのは気持ちよ、分かる？それが一番なの！」とムッとした。陽翔は肩をすくめて、「気持ちは立派だけど、少しは実際に役立つものにしないとな」と小声で呟いた。芽衣は弟の皮肉を無視し、汗を拭いながらスマホを取り出した。画面には数枚の写真が映し出された。そこに写っていたのは深雪。シンプルで上品な服装に、整ったメイク。立ち居振る舞いには自信があふれていた。「姉さん、また深雪の写真を見てるのか？」陽翔は覗き込み、不思議そうに言った。「競争相手の研究ということか？」芽衣は首を振り、視線を逸らしながら答えた。「学んでるのよ......彼女のスタイル」「スタイルを学ぶ？」陽翔は一瞬固まったが、すぐに気づいて驚きの声を上げた。「まさか......姉さん、彼女を真似するつもりか？」芽衣は返事をせず、ただ写真を拡大して深雪の服の色合いやメイクの細部をじっと観察した。さらには紙とペンを取り出し、口紅の色番やアイシャドウの種類まで真剣に書き留めていた。陽翔は姉のほとんど病的な熱中ぶりに一抹の不安を覚えた。「姉さん、危ない真似はやめろよ。静雄が好きなのは姉さんであって、深雪じゃない。どんなに真似しても、姉さんは変わらないんだ」芽衣は突然顔を
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第364話
だが、下瀬産業はあまりにも神秘的だった。「社長、下瀬産業についていくつか情報を掴みました」大介が報告した。「しかし、この会社の背景は非常に謎めいており、有用な情報はほとんど得られませんでした」「引き続き調べろ！」静雄は低い声で言った。「必ず下瀬産業の正体を暴き出すんだ！」その頃、芽衣は自宅で嫉妬と不満に胸を焦がしていた。彼女はふとした拍子に静雄のアルバムを開き、そこに保存されている深雪のニュース記事のスクリーンショットを見つけてしまう。その瞬間、怒りがこみ上げた。まさか静雄がまだこっそり深雪の写真を残していたなんて。それは芽衣に強い不安を抱かせた。やはり今もなお、静雄の心には、決して代わりのきかない居場所が深雪に占められているのだ。この状況を変えなければならない。彼女は静雄に深雪を完全に忘れさせ、全身全霊で自分だけを愛させると決めた。そして、深雪の真似を始めた。栄養バランスの取れた食事を用意し、献身的に世話を焼くことで静雄の心を引き寄せようとした。だが、入札会を目前に控えた静雄は、ますます集中力を失っていった。彼の視界には常に深雪の姿がちらつき、いくら振り払おうとしても消えない。夜になると眠れず、何度も寝返りを打ち、うとうとすれば悪夢にうなされて飛び起きる。夢の中で彼を見下ろすのは、冷ややかな瞳をした深雪であり、彼を突き放す決然とした言葉だ。次第に彼は苛立ちやすくなり、周囲の人々に当たり散らすことが増えた。良くないと分かっていても、どうしても感情を抑えることができなかった。「静雄、どうしたの？」芽衣が心配そうに尋ねる。「体調でも悪いの？」「大丈夫だ」静雄は淡々と答えた。声には疲れがにじんでいた。「でも顔色がひどいわ。病院に行ったほうがいいんじゃない？」「いや、いい。ただ少し疲れているだけだ」芽衣は彼の横顔を見つめ、不安を募らせた。窓の外をぼんやりと眺める静雄の瞳には、深い迷いが宿っていた。翌日、芽衣は静雄の目を盗んで、彼の通話記録を覗き見た。そこには、深雪への発信履歴が何件も並んでいた。だが、その全てが不在着信。芽衣の胸に鋭い痛みが走った。静雄がこれほどまでに深雪を求めているなんて。恐怖が彼女を襲った。静雄が自分から離れていくのではないかと。「静雄
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第363話
深雪は今回の入札会のために、惜しみない精力を傾けてきた。毎日夜遅くまで働き、ほとんど休む時間もない。助手が心配そうに声をかけた。「身体こそが資本です。倒れてしまったら元も子もありませんよ」「大丈夫。ちゃんと分かってるわ」深雪は微笑み、「この忙しい時期が終わったら、しっかり休むから」と答えた。助手はうなずき、書斎を後にした。「深雪、まだ仕事してるのか？」ふいに、延浩の優しい声がドア口から響いた。深雪が顔を上げると、そこには温和な笑みを浮かべた延浩が立っていた。「どうしてここに？」「君の様子を見に来たんだ」延浩は歩み寄り、柔らかく言った。「最近は無理をしすぎてる。休養を忘れるなよ」「分かってるわ」深雪は微笑んだ。「心配しないで、大丈夫」「ご飯を少し作ったんだけど」延浩は背後から保温容器を取り出した。「僕の手作りだ。食べてみて」その瞬間、深雪の胸に温かいものが込み上げた。蓋を開けた途端、食欲をそそる香りが広がった。「わぁ、いい匂い！」彼女は思わず声を上げた。「腕を上げたわね」「気に入ってくれればそれでいい」延浩は笑い、「さあ、早く食べて。食べたら休むんだ」と言った。深雪は頷き、スプーンを手に夜食を口に運んだ。その食べる姿を見つめる延浩の眼差しは、優しい愛に満ちていた。彼は深雪が幸せでいてくれることを、何より望んでいた。「先輩もどうぞ」深雪はスプーンで掬った夜食を、延浩の口元に差し出した。一瞬驚いた延浩だったが、すぐに口を開けて受け入れた。「どう？美味しい？」深雪が微笑んで尋ねた。翌日。深雪の会社は活気に溢れていた。社員たちは下瀬産業の入札会に向けて準備に励み、皆やる気に満ちていた。「社長、これが最新の入札案です」ある社員が資料を手渡した。深雪は真剣な表情で読み込み、目には光が宿っていた。「悪くないわ」彼女は言った。「でも、ここ、そしてここも修正が必要ね」「承知しました、すぐに直します」社員が答えた。深雪はうなずき、「皆さん、本当にありがとう。この案件は必ず入手するわよ！」と声をかけた。「はい！」社員たちが一斉に応じた。一方その頃、芽衣の周囲は静まり返っていた。彼女は陽翔のもとを訪ねていたが、陽翔は突然切り出した。「姉さん、最近、延浩ってやつの
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第362話
深雪の能力はチームメンバーからも高く評価され、皆が彼女に尊敬の念を抱いていた。「本当にすごいですね！」あるメンバーが感嘆した。「仕事について多く学びました」「これはみんなのおかげよ」深雪は謙虚に答えた。「皆の努力がなければ、この提案は完成できなかったわ」「社長は謙虚すぎますよ」別のメンバーが言った。「この成功は、やはり社長の力が大きいです」「もう、そのへんにして」深雪は笑みを浮かべながら言った。「まだやることがあるわ。この案件、必ず取るのよ！」「はい！」メンバーたちは一斉に声を上げた。その頃、静雄は一人、グラスに赤ワインを注ぎ、窓辺に立っていた。しかし、どんな賑わいも彼の胸の寂しさを拭い去ることはできない。窓の外を見つめ、その視線は闇の奥に消えたはずの面影を探していた。「......深雪」彼は低くつぶやいた。その声には、かすかな優しさと懐かしさが混じっていた。すべては過去の幻。触れれば砕け散る蜃気楼のようなものだ。グラスを仰ぎ、喉に流し込んだ。焼けつくような痛みが一瞬だけ神経を麻痺させ、思考を止めてくれる。だが、酒の力など長くは続かない。脳裏にはなお、深雪の姿が浮かび続ける。「静雄、まだ寝てないの？」芽衣の声が背後から響き、彼の思考を遮った。振り返ると、シルクのナイトドレスを纏った芽衣が立っていた。心配そうな表情を浮かべている。「眠れないんだ」静雄は淡々と答えた。感情の色は乏しい。「会社のことが？」芽衣はそっと彼の腕に手を回し、柔らかく問いかけた。「......ああ」静雄は小さくうなずくだけだった。深雪のことを口に出す気はなかった。「静雄、自分にあまりプレッシャーをかけすぎないで」芽衣は彼に身を寄せ、囁くように言った。「あなたなら必ず乗り越えられると信じてる」静雄は何も答えず、ただ彼女の背を軽く叩いた。その冷淡さに、芽衣の胸は沈んだ。「静雄、マッサージしてあげようか？」彼女は見上げ、期待を込めて言った。静雄は首を横に振った。「いいよ。今日は疲れた。もう休みたい」その拒絶に、芽衣の目が陰りを帯びた。彼女は黙って手を離し、ベッドに戻った。「じゃあ......早く休んでね」声にはわずかな寂しさが滲んでいた。静雄はその背中を見つめ、胸に罪悪感が押し寄せた。彼女
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第361話
大介は深雪に松原商事の状況を漏らした。「社長は今回どうしても成功させるつもりです。十分に警戒しなければなりません」「社長は専門家を多数呼び寄せ、非常に完成度の高い提案をまとめたそうです」「わかったわ」深雪は静かに答えた。「知らせてくれてありがとう」「どう対応されますか？」大介が尋ねた。「それなりの策を考えておいたよ」深雪の声は冷静だった。深雪のチームは連日夜遅くまで残業し、入札案を仕上げていった。深雪自身が細部まで指導し、一切のミスを許さなかった。「みんな、本当にありがとう！この案件、必ず取るわよ！」「はい！」メンバーたちは声を揃えて応えた。一方、静雄は再び深雪に連絡を試みたが、電話は一向に繋がらなかった。彼の胸に失望が広がる。彼女はわざと出ないのか？「深雪、お前はいったい何を考えてるんだ？なぜ俺にこんな仕打ちを......」彼は独り言をつぶやいた。延浩は深雪の準備の様子を陰から見守っていた。毎晩遅くまで働き詰めの彼女を見て、心が痛んだ。助けたいと思うが、余計な負担になるのも恐れていた。「最近無理をしすぎだよ。体を大事にして」「わかってるわ」深雪は笑みを浮かべた。「大丈夫、心配しないで」「僕にできることはない？何でも言ってほしい」「今は特にないわ。必要な時はお願いする」「そうか......でも、本当に身体だけは気をつけて」延浩は頷いた。その頃、芽衣は胸にぽっかり穴があいたような気持ちで、陽翔が潜んでいる場所を訪れ、最近の出来事を打ち明けた。「どうしたんだ？」陽翔は怪訝そうに尋ねた。「なぜいつも静雄と喧嘩ばかりしてる？」「喧嘩なんかしてない。ただ......彼の心にはまだ深雪がいる気がして」芽衣は吐き出した。「考えすぎだ」陽翔は低く言った。「静雄が深雪をまだ想ってるはずがない。今一番愛してるのは姉さんだ」「でも、どんどん冷たくなってる気がするの。もう愛されてないのかも......」芽衣の声は震えていた。「いいか。今は軽率な行動は禁物だ」「じゃあ、いつがいいの？」芽衣は聞いた。「松原商事が完全に崩壊した時だ。その時こそ、俺たちは全てをてにいれるんだ」陽翔の目は鋭く光った。「でも......私は怖いの。静雄が私から離れてしまうのが」「大丈夫だ。静雄は姉さ
