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画集のお祝い

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-08-15 14:38:02

 もう夜も更けてきたし、寝ようかなぁと、パソコンの電源を切る前に、メールチェックをした。一件の新着メールをハケ-ン!!(o・ω『+』

 何かなぁとクリックしたところに、背後から忍び寄る郁也さんの手が、にゅっと伸びてきたのを目の端で捉える。

「んもぅ、ちょっとだけ待っててよ。すぐに終わらせるから」

 パジャマの裾から忍び込んできた右手を、ぎゅっと掴んで引きとめ、画面に視線を移した。

 これは――

 メールの内容を読んで、はーっとため息をつくしかない。これを言ってしまうと間違いなく喜んで、今から着手しちゃうだろうな。

「郁也さん宛てに、メールで絵の依頼が来たよ。どうするの?」

「ん~なになに?  桃瀬さんに是非、太郎くんを描いてほしいなと思います♪  あ、周防さんとツーショットの絵も、良いかなぁ\(//∇//)\」

 読みながらニヤニヤする横顔を、複雑な心境で眺めた。

「太郎くんの似顔絵は以前、描いたモノのがあるから、描かなくていいと思うんだけど、周防さんとのツーショットは、画集の花になりそうだね」

 画集の花と言って表現してみたけれど、頭の中には前に郁也さんが描いた、太郎くんの似顔絵と周防さんの似顔絵がぼんやりと浮かび上がり、ふたつを組み合わせてみて、ひょえーってなっていたりする……

 僕が言った言葉に喜ぶかと思ったら、なぜだか神妙な顔をし、顎に手を当てて考え始めた郁也さん。

「あれ、どうしたの? 浮かない顔して」

「いや、そのな。今までは単体でしか描いてないだろ。ふたつのものを描くのって、初めてだと思って。余白のバランスとかふたりの立ち位置とか、結構高等技術が必要だぞ」

 郁也さんが困るのも、無理はない! だってこの人の絵は目から描くから、そのあとの輪郭とかバランスを取るのが、すっごく難しくなっちゃう。

 ――だって、ふたり分なんだもの。

「無理なら断ろうか? それとも別なものを」

「いいや、俺はやる。やってやるさ、見ていてくれ涼一」

 僕をぎゅっと抱きしめてから、いつも絵を描くソファに座り、さらさらと描きはじめた。

 前回は、オカメインコとワカメを掛けたけど、今度は何を描くんだろうな。

 郁也さんの下書きは早いので(1分クオリティ)ひょいと後ろから覗いてみる。

 書いてある文字に、ぷっと吹き出しそうになった。難しい依頼に、やっぱりテンパっていたんだろう(
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  • ピロトークを聞きながら   桃瀬画伯のお絵描き講座だよ

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