唯花のネットショップもここ数カ月でだんだん軌道に乗ってきたのだ。「計画ならもう立ててあるわよ。さっき明凛とそれについて話していたところなの。見てちょうだい」姫華はカバンから一晩かけて作り上げた計画書を取り出し、唯花に手渡した。「私だって初心者だけど、私たち三人でしょ。三人寄れば文殊の知恵って言うし、一緒に頑張って稼ぐわよ。唯花、ちょっと手は止めなさい。計画書を見ながらハンドメイドしてて、またうっかり怪我でもしちゃったらどうするのよ」前回唯花は怪我をして、手当をするために病院まで姫華が連れて行ったのだが、その時姫華は血を見ただけで体の力が抜けてしまったのだ。何も恐れるもののない、あの神崎家のピリ辛お嬢様が血を見ただけで怖がってしまったのだった。「前回は本当にうっかりしてただけよ」唯花はあれが理仁のせいで作ってしまった傷だとは認めたくなかった。しかし、彼女はやはりハンドメイドをするその手を止めて、姫華から計画書を受け取った。そして、真剣な面持ちでそれを読みながら、二人の親友と話し合っていた。「この計画書はまだ兄さんには見せていないの。とにかく自分でやってみないことには経験値もつかないしと思って。何をするのも誰かに頼ってちゃダメだと思うし」「この計画書はとてもよくできてると思わよ」明凛は絶賛した。そして唯花が言った。「誰だって、経験値はゼロから少しずつ積んでいくものでしょ。私も理仁さんとは話してみたけど、あまり考えすぎずにやってみたらいいって。彼の支えがあるから。でも、彼に助けてもらいたくはないの。まずは自分たちでやってみて、出た結果を彼らに見てもらいましょ」姫華は笑って言った。「私はあなた達二人に期待してるんだけどなぁ、あなた達二人にはとっても頼りになる相棒がいるんだもの」唯花と明凛はそれを聞いて、同時にその言葉に反撃し、その後三人一緒に笑い合っていた。明凛は星城高校のほうを指さして、野心を燃やし言った。「星城にはたくさん小中高の学校があるじゃない。そこに提供されてる給食とか、高校だと食堂がある学校もあるわ。それも狙い目だと思うのよね。私たちにそこへ入り込める実力があるかどうかやってみるっきゃないわ」当初、彼女と唯花がここに本屋を開けたのも、一生懸命に頑張ってようやく手に入れた勝利の果実のようなものだった。
唯花は午後二時半に本屋に行った。理仁自ら彼女を店まで送り届けたのだった。「今日は夜、接待があるんだ」唯花が車を降りる前に、理仁が落ち着いた声でそう伝えた。唯花は彼のほうへ振り返って、当たり前のように言った。「午後何時に会社を出るの?夜はあまりお酒を飲み過ぎないように、それから何か胃に入れてからお酒を飲むようにしてね。じゃないと酔いやすいし、胃に負担がかかるわ」「三日薬を飲んだから、胃はもう痛くないよ」それを聞いた瞬間、唯花がすぐに答えた。「胃が痛くなかったとしても、体を大切にしないといけないでしょ。あなたが仕事を終わらせる前に何か持って行ってあげるわ。ちょっと胃に入れてから商談に行くのよ。だけど、それでもお酒は飲み過ぎないようにして、飲まないのが一番だけど」「ああ、わかったよ。じゃ、仕事が終わる前にご飯を届けてくれるのを待っているよ」理仁はそう言いながら瞳をキラキラと輝かせて唯花を見つめていた。それを見た唯花は彼が何を期待しているのかすぐに察し、また車へ戻って彼の頬にキスをした。キスした後、いたずらっ子のように彼の顔をぎゅうっとつまんだ。理仁は手を伸ばそうとしたが、唯花がまるでうなぎのようにするりとその手を躱して、車を降り、理仁は唯花捕獲に失敗してしまった。理仁は唯花に向かって何かを言っていたが、彼女にはよく聞こえなかった。実際、理仁は口を開いただけで、言葉には出していなかったのだった。どのみち、彼女は二日待てば、彼の好きなようにしていいと約束してくれているのだから。唯花は笑顔で本屋に入っていった。この時、姫華と明凛が店の中で唯花を待っていた。一人は小説に夢中になり、もう一人は唯花が半分作りかけのハンドメイドを並べて遊んでいた。そして唯花が笑顔で店に入って来ると、二人同時に彼女のほうへ目を向けた。姫華のほうが先に口を開いた。「明凛、なんだか唯花って日に日に綺麗になっていってない?あの笑顔からも甘い雰囲気が伝わってくるし、まるで輝く太陽みたいにキラキラしてるわ」明凛はまだ読み終わっていない小説を閉じた。姫華と唯花はどちらもどうして彼女がこんなに小説が好きなのかよくわからなかった。「誰かを愛し、愛されてるんだから、自然と綺麗になっていくでしょ」すると唯花は親友の言葉に反論した。「まるであなた自身は誰
人生のうち、ひとときの忙しさで残りの人生心を落ち着かせて過ごすことができるのであれば、それはそれで価値があるというものだろう。「唯花、お疲れ様」理仁は彼女のおでこにキスをした。彼女が彼のためにいろんなことをしてくれているのにとても心が締め付けられた。「それも私にとっての肥やしになるものだもの。学んだことは一生私の助けになるから」そして唯花は再びあくびをした。朝もとても早起きしたし、今激しい眠気に襲われていたのだ。「あなたも午後は会社に戻るんでしょ。あなたの時間は私よりも貴重なのよ」彼は唯花の姉のために、半日の時間を費やしていたから、その貴重な時間をたくさん使ってくれたのだ。そこまでするのは、理仁が唯花のことを深く愛している証拠なのだ。唯花は理仁ほうへ顔を向けて、その端正な顔に触れた。瞳には深い愛情が見える。「理仁、あなたと結ばれたのは本当に奇跡としか言いようがないわ。安心して、私に一生を捧げてくれるつもりなら、私だって絶対に一生かけてあなたを愛すると誓うわ。お姉ちゃんったら相変わらずあなたにはもっと、これでもかって言うくらい優しくしなさいってうるさいのよ。これじゃまるで私があなたをいじめてるみたいじゃないの。たまに嫉妬しそうになるわよ。お姉ちゃんが実の妹に対するより、あなたをもっと大切にしてるんじゃないかって」理仁は自分に触れる彼女の手を握り、真剣な眼差しで言った。「車についているドライブレコーダーが君がさっき言った言葉は録音してあるだろう。今後君が俺にひどいことをしてきたら、この録音を持って君が言ったことをちゃんと守ってくれないって訴えに行こうか」唯花「……」理仁が姉にそんな訴えをしに行けば、考えるまでもなく、姉からげんこつを喰らうことは間違いない。彼女は急いで約束した。「絶対にあなたにひどいことはしないってば。理仁、本気でそんなことしないでしょうね?」「俺は何から何まで逐一報告するような趣味は持ってないけど、ひどい目に遭えば、それはもちろん誰かに訴える必要があるだろ。思うに、君のお姉さんがその役に一番適していると思うけどね」唯花「……」結城理仁、お前はそんな奴だったのか!唯花はこの時、もし理仁と小さなことで喧嘩して、理仁が姉に泣いて訴えるような場面は全く想像できなかった。「唯花、今後俺を
「陽……陽ちゃんはまだ小さい子供なのよ……それに、あの子の親権は唯月が持ってる。俊介はただ毎月養育費を払っていれば、あの子が十八歳になってからはもう支払う必要はないし。将来、陽ちゃんが大人になった後に俊介がお金を出す必要なんてないんだから。彼が生きていたって、別にうちの財産を争うなんてことはしないはずよ」「人の心は変わりやすいものよ。死んでしまえば、完全にあなたの子供と相続争いをすることなんてなくなってしまうわ」莉奈「……私にはまだ子供はいないもの」「まさかあなたって子供ができない体質なの?」莉奈は言葉に詰まった。すると相手は笑いだした。「成瀬さんって不倫だなんて道徳的にどうかって思うようなことはするのに、良心はある人みたいね。私もただこちらの計画を言っただけよ。別に陽って子を殺さないといけないわけじゃないの。私はね、陽を利用して内海唯花をおびき寄せたいだけなのよ。叔母と甥の関係はとっても良好みたいじゃない。あの子供のためなら、あの女は喜んで一人で私に会いに来るはずよ」彼女は唯花だけで来させたいのだった。それを聞いた莉奈はホッとした。彼女はただ他人の夫を横取りする勇気はあっても、他人の子を殺すような残酷な心を持っているわけではないのだ。「陽ちゃんをさらってから、指一本彼に触れないって約束できますか?」「あの子が大泣きして暴れるようなことがなければ、指一本触れないっていう約束はできるわよ。どうせあの子はただ内海唯花をおびき寄せるための餌でしかないもの。ただ私はあの女に復讐したいだけよ」莉奈は心の中で、唯花はどうしてこのように残酷なことを簡単に考えるような女を怒らせたのだろうと思っていた。それとも、この女は結城理仁に恋焦がれていて、理仁が唯花と結婚したということを知り、嫉妬から唯花に復讐し殺したいと思うようになったのか?そして自分が結城理仁の妻の座につこうというのか?「どうかしら、成瀬さん、私に協力してくれる気になった?」莉奈はビクビクしながら尋ねた。「断ることができるんですか?」「もちろんよ。だけど、そんなことしたらどうなるかわかるよね。成瀬さんが……女性が最も怖いのは何か、あなた知ってる?」その瞬間、莉奈の顔色が再び青ざめた。「成瀬さんが私に協力してくれるのであれば、ひどい目を見るのは内海唯
片方の男が、莉奈が吐き終わってから、彼女にマスクを渡した。莉奈は急いでマスクをつけたが、それでもあの異臭がして、すぐに両手で鼻を押さえ、二人の男についてあの廃れたビルの中へと入っていった。そのビルに入ると、ゴミの山から遠ざかり、莉奈はようやく鼻を押さえるのをやめて、周りを見回してみた。近くには誰も住んでいる気配はなく、もし彼女がここで何か事件に巻き込まれてしまえば、ゴミと一緒に死んできっと誰にも発見されないだろう。そう思いながら、莉奈は恐怖で体を震わせた。この人達が一体何者なのかさっぱりわからない。唯花姉妹が彼らを怒らせたというのなら、直接あの内海姉妹のところに行けばいいじゃないか。莉奈に一体何の用だというのだ?彼女と内海姉妹も今ではもう仇同士のようなものだ。「成瀬さん、怖がらなくていいわよ。私がこの人たちにあなたを連れてくるよう指示を出したの。私はただあなたと取引がしたくてね。まあ、協力し合う仲って感じかしら。一緒に結城家に嫁いだあの女に復讐しましょ」初めて聞く女の声が一階にある部屋から聞こえてきたが、その姿を確認することはできない。莉奈はその部屋にどうしても入ることができずにいた。彼女をここまで連れてきた男がじっと睨みつけてきている。相手の話を聞いて、莉奈は少し胸をなでおろした。彼らの目的は唯花だったのか。「あなたを何と呼べばいいんですか?私たちにどんな取引ができるんです?私は今はただの仕事のない専業主婦ですよ。うちの家族も夫の家族も、社会的な地位なんてありません。たぶん、何も手伝えるようなことはないと思いますけど」それを聞いて相手は、ハハハと笑って言った。「成瀬さんったらそんなご謙遜を。私はしっかり調べてから、成瀬さんと協力しようって決めたのよ。成瀬さんって結城家に嫁いだ内海って女とはわだかまりがあるのでしょう。ちょうど私もあなたと同じであの人とちょっといろいろあったのよ。つまり、私とあなたは同じ敵を持つ者同士、協力できると思うのだけれど」莉奈は頑張って心を落ち着かせて尋ねた。「一体私に何をさせたいんですか?内海唯花は今や結城家の若奥様という立場ですよ。あの夫はそう簡単にどうにかできるような相手ではありません。私も結城理仁を目の前にしたら、足が震えて、何も言葉が出なくなってしまうくらい怖いんです。私に内海唯花をど
「うちのお嬢様は内海家のあの姉妹が順風満帆に地位を築き上げることを面白く思っていないのです」それを聞いた莉奈は目をパチパチと瞬かせた。唯花姉妹が誰かを怒らせたということか?しかし、それで莉奈のところに来てどうするつもりなのだ?彼女も唯花姉妹に報復できるような力など持っていないのに。「成瀬さん、我々と一緒に来ていただければ、わかります」莉奈は言った。「あなた達が一体何者なのかも知らないのに、一緒についていって、何をされるかなんてわからないじゃないの。マスクもつけていて、あんた達の顔も見えないし、マスクを外してその顔を写真に撮らせてちょうだい。夫にそれを送ってあなた達について行ったってことを伝えてからじゃないと一緒に行けないわよ。もしこの私に何かあったら、あんた達も無事で済むと思わないことね」「成瀬さん、すみません。我々はマスクを外すことはできないんです。成瀬さんが私どもと一緒に来られないのであれば、うちのお嬢様自ら来ていただくことになります。そうなれば、きっと大変なことになりますよ。うちのお嬢様は気性の荒いお方ですからね」「うだうだ言っていないで、直接一緒に来ればいいんですよ」もう一人の男が耐え切れなくなってそう言った。莉奈は彼のその言葉を聞いて、後ろを向きすぐに逃げ出そうとした。そして数歩進むと、首元に激痛が走り、そのまま感覚を失ってしまった。助けを求める大声をあげる時間すらなかった。莉奈に手刀を入れて気絶させた男が、彼女を黒のセダンに押し込み、もう一人と一緒に車に乗って、素早く去っていった。その時、彼らの車はナンバープレートが見えないように隠してあった。しかし、車は遠くまでくると、路肩に止まり、ナンバープレートが見えるようにしてまた車を出して去っていった。気絶させられていた莉奈はすぐに目を覚ました。彼女は起きると、車のドアをドンドンと力強く叩いて、車から降ろせと大声で叫び続けた。助手席に座っていたあの男が後部座席のほうへ振り向いて警告するように彼女に言った。「成瀬さん、大人しくしておいたほうが身の為ですよ。俺らを怒らせたら、無残な死に方しかできませんよ」「あ、あんた達、本当に一体何をする気なのよ?」莉奈は声を震わせながらそう尋ねた。彼女は震える手で自分の携帯に触れた。携帯は取られていないらしく