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第1361話 番外編十

Author: 花崎紬
ゆみは歯を食いしばって睨みながら言った。

「それは、あんたの方でしょ!?あんたがわざわざ私をここに入学させなきゃ、こんなこと頼まなくて済んだのに!」

「それで、何が目的だ?」

佑樹は問い返した。

「澈に諦めさせたい?それとも遠ざけたい?でも、それで問題が解決するわけではないだろ?臆病者」

「あんたこそ臆病者!あんたの家族全員、臆病者!」

ゆみはカッとなって言い返したが、すぐに顔がこわばった。

佑樹は笑い出した。

「そうだな、お前は確かに臆病者だ」

「もういい!送ってくれないなら、今後ずっと念江兄さんに送迎してもらうから。あんたは来なくていいわ」

「それはありがたいね」

佑樹は鼻で笑った。

「僕が暇人にでも見えるのか?」

ゆみはむっとして口をつぐみ、ドアを開けて学校に向かおうとした。

すると、佑樹も車から降りてきた。

それを見たゆみは、にんまり笑って佑樹の後ろに回り、しゃがんでからぴょんっと飛びついて首に腕を絡ませた。

「首絞める気か?!」

佑樹はイライラしながら低い声で言った。

「いいじゃん。背負ってよ~」

ゆみは腕を離さず甘えた声を出した。

「お兄ちゃん、一番優しいんだもん」

佑樹は仕方なく、ゆみのお尻を支えて持ち上げた。

ゆみは頬を佑樹にぴったりくっつけ、甘えた声で囁いた。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「出発!」

「……」

佑樹は言葉を失った。

何か言うのかと思えばそれか。

佑樹はゆみをおぶったまま校内を進んだ。

そんな二人の姿に、学生たちがひそひそと噂話をし始めた。

佑樹もゆみも、それには全く構わず教室の方向へと歩いていった。

校舎の前まで来ると、ゆみは佑樹の顔を覗き込んだ。

「なんでちっとも息切れしてないの?」

「いや、めっちゃしんどいけど」

佑樹は皮肉を言った。

それを聞くと、ゆみは彼の肩に思い切り拳を振り下ろした。

「ゆみ!!」

佑樹は激怒した。

「お前、死にたいのか?!」

「私のこと重いって言うからでしょ!」

ゆみも、納得いかない様子で怒鳴った。

「いつそんなこと言った?!」

佑樹はついに我慢できなくなった。

「降りろ!」

「降りない!」

「降りろって!」

「やだ!もっとひっついていたいの!おんぶしてほしいの!」

そのとき、目の前に、突然人が現れた。

その人
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