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第427話

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静真は冷たく運転手に目的地を告げた。運転手は怖くなって、言われた通り車を走らせるしかなかった。

静真が振り返ると、月子の冷めた表情が目に入った。その表情が彼の癇に障り、思わず皮肉を言った。「俺の車に乗っていれば、後部座席に座って、俺から距離を置くこともできたんだが、こうなったのもお前自分のせいだからな」

月子は、静真の冷たい視線を受け止めながら、笑みを浮かべた。「あなたが無理強いしたくせに、また私のせいにするつもりなの?本当、笑えるんだけど。

あなたと同じ車に乗るのは吐き気がするけど、この車は私が呼んだタクシーよ。あなたの車に乗るより、こっちのほうがよっぽど乗り心地がいいわね」

それを聞いて、静真の顔色はみるみる変わり、今にも爆発しそうな雰囲気だった。

月子も、彼が怒り出すのを待っていた。

怒らないなんて、静真らしくない。しかし、彼は何とか堪えて、何も言わなかった。

月子は、驚いたように片眉を上げた。

静真の行動は、本当に不可解だ。

だが、癇癪を起こす気配はなさそうだ。

月子は、彼が一体何を企んでいるのか、見極めようとしていた。

運転手はこっそりと二人を観察していた。そして、二人の顔に浮かぶ険悪な表情を見て、肝を冷やした。一刻も早くアクセルを踏み込み、この二人を降ろしたいと思った。

……

そうこうしているうち、目的地についた。そこはとても素敵なレストランだった。

個室には大きな窓があり、街の景色を一望できた。

二人はテーブルを挟んで、向かい合って座った。

静真は料理を注文し、運ばれてくるのを待った。

月子は静真と二人きりで食事をするのは久しぶりだったのだが、彼を目の前にすると、どうしても以前のことを思い出してしまうのだ。

あの時、静真はいつも彼女と話をする気がないようで、口数が少なく、彼女から話題を振っていたのだ。そして、たいていは彼の生活や仕事のことを気遣う内容で、彼も機嫌が良いときは少し話してくれることもあったが、機嫌が悪いときは全く口をきかなかった。

今となっては、月子にも話題を探す気力がなかった。

静真は、最初は何も言わず、彼女が以前のように自分から話しかけてくるのを待っているようだった。

しかし、もうそんなことはあり得ないのだ。

彼女に話す気がないことを察したのか、静真の顔はますます冷たくなったが、月子は気づかな
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