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第463話

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月子は返信を見て、一瞬に張り詰めた緊張が解けた。隼人なら承諾してくれるだろうという予感はしていたものの、こんなお願いをしたのは初めてだったから、つい緊張してしまったのだ。

【ありがとうございます】

月子は、人の好意に甘えている手前、あまり素っ気ないのも悪いと思い、今日のお昼ご飯の写真を撮って、隼人に送った。

すぐに、隼人からお昼の食事の写真が送られてきた。

テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。

月子は内密に結婚していたため、かつて、入江家の宴席に出席しても、周りの人とは打ち解けることができなかった。入江家と付き合いのある人たちは皆、裕福な人たちばかりで、会場の外には高級車がずらりと並び、セレブな女性も大勢いた。月子は、いつも自分が場違いな場所に迷い込んだような気がしていた。

だから、今日も別に行きたくなかった。

一方で、結衣は、隼人が急にスマホで写真を撮っているのに気づき、不思議そうに顔を向けた。

隼人はテーブルの下でスマホを操作していて、結衣の様子に気づくと、隠すような仕草をした。

結衣は唖然とした。

今のところ、月子を見かけていない。

きっと来ないのだろう。

もしかして、二人はラブラブでメッセージのやり取りでもしているのか?

結衣は彼たちの交際を応援していた。色々な人と付き合ってみないと、異性との付き合い方なんて分からないものだ。隼人には、恋愛経験を積んでほしいと思っていたが、結婚はまだ早いと思っていた。

今のところ、二人の関係は順調そうに見えた。まだ燃え上がるような関係ではないが、穏やかに付き合っているようだ。

隼人が月子に対しての想いが強ければ強いほど、結衣は月子に対して興味を持つようになった。

それは息子の好きな人なら、母親として気になるのは当然だからだ。

もともと、一度会えば、もう関わらないつもりだったのに、急に二人の家を訪ねてみたくなった。

そうすれば、息子をもっと理解できるかもしれない。

隼人と和解するためには、まずは彼を理解することから始めなければならない、と結衣は考えた。

隼人は月子とのメッセージのやり取りを終え、振り返ると、結衣が自分を見つめているのに気づいた。

そして、隼人は途端に冷たい顔して、警戒心を露わにしていた。

それを見た結衣は言葉に詰まった。

こんな場所じゃなかったら、平手打ちの一発
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