掌に収まるほどの小さな顔が真っ赤になるほど彼女は息を詰め、そして司の舌先を噛んだ。突然の痛みに司が思わず口を離し、真夕は大きく何度も息を吸った。伏せたまつ毛は羽のように繊細で、怯えたようにかすかに震えており、その様子はとても儚くて愛おしかった。司は手を伸ばし、彼女の小さな顎をつかんだ。真夕は強制的に顔を上げさせられ、彼を見上げた。「真夕、今の君は俺にお願いしてる立場だ。次にまた噛んだら、君の親友はもう出られないと思え。わかったか?」彼は低くかすれた声で脅した。まるで頂点に君臨する者のような傲慢な態度だった。真夕は数秒間彼を見つめたのち、静かに折れた。「わかった」司は副座席に置いてあるコンドームに手を伸ばした。だがその瞬間、真夕が彼を押し倒した。「なんであなただけが私のを脱がせるの?私だってあなたのを脱がせるよ」そう言って真夕は彼のスーツのボタンに手を伸ばした。だが、焦りすぎてボタンがうまく外れなかった。すると彼女はイライラして引っ張り始めた。司は後頭部をシートに預けたまま、目を細めながらかすれ声で止めた。「落ち着け。ボタン壊すなよ。替えの服なんて車にないんだから」彼のスーツのボタンはしっかりと縫い付けられているため、真夕の力では引きちぎれなかった。そこで彼女はボタンとの戦いをあきらめ、手を彼の服の裾から差し入れた。そして、彼女の手が引き締まったシックスパックに触れた。司の喉が鳴った。内側から火が通ったように熱く、ごくりと上下に動いた。彼は彼女の細い身体を抱き寄せ、「そんなに欲しがってるのか?」と低く囁いた。真夕の顔は真っ赤に染まり、彼を見つめながら何も言わなかった。司は再び、彼女の赤い唇にキスをした。今度の真夕はとてもおとなしく、抵抗しなかった。その代わり、彼女は静かに腰に忍ばせていた銀の針を取り出し、そのまま司のツボに向けて刺した。……だが、それが外した。司は即座に彼女の手首を掴んだ。「何をする気だ?」……しまった。またバレた。彼を不意打ちしようとしてまた失敗したか。この男、警戒心が強すぎる。何年も軍隊にいた司は、危険を察知する嗅覚は鋭く、生半可な奇襲など通用しない。「これはなんだ?」司は真夕の手にあった銀針を見ると、表情が一変した。彼はすぐに針を取り上げた。真
真夕の後半の言葉は、語尾になるにつれてどんどん小さくなっていったため、司は最後まで聞き取れなかった。彼の耳に届いたのは前半だけだった。彼女が「もうアフターピルは飲みたくない」と言ったことだけだった。その言葉で、司はすぐに、彼女が以前和也のためにアフターピルを飲んでアレルギーで倒れたことを思い出した。司の薄い唇が冷たく嘲るようにゆがんだ。「他の男のためには飲めるのに、なんで俺のために飲めないんだ?」何を言ってるの?自分が他の男のためにアフターピルを飲んだって?そんなこと、いつあった?彼が自分を誤解して「男遊びが激しい」と責めた時、黙って耐えた。でも、彼はあの夜が自分の初めてだと知ったはずなのに、まだこんなことを言うのか。真夕は拳を握りしめ、彼の胸を一発殴った。心の中では、まだ彼を怨んでいる。とても憎いのだ。司は避けずにそのまま殴らせた。そして彼は彼女の小さな拳を握りしめ、そのまま手を引いて歩き出した。「ちょっと待って、コンドームはまだ買ってない」と、真夕が小声で言った。司は立ち止まり、棚にずらりと並ぶ小箱たちを見やった。「もう一度チャンスやる。今度はちゃんと選べ」彼の視線を受けながら、真夕はおとなしく一番大きなサイズを手に取った。彼女は逆らうのをやめた。司は口元を少しだけ持ち上げ、彼女の手を引いてレジへ向かった。会計を済ませた後、再び彼女を車へと連れ戻した。高級車の豪華な車内で、真夕は時間を確認した。ここから中庭までは30分だ。30分あれば十分だ。彼女は横にいる男を見て言った。「堀田社長、中庭に行こう」司の視線が、彼女の小さな美しい額と雪のような頬に落ちた。そして突然、「俺の膝の上に座れ」と言った。真夕は一瞬動きを止めた。司は彼女の柔らかな腰を掴み、あっという間に彼女を副座席から自分の太腿の上へと抱き上げた。彼の太腿はがっしりとしており、男らしい力に満ちていた。その上に真夕の繊細な身体が乗ると、彼女の頬はたちまち真っ赤に染まった。「堀田社長、何してるの!車の中だよ」真夕は逃げようとした。司はその細腰をがっしりと抱きしめ、彼女が動けないようにした。「車の中は初めてじゃないだろ。今日はどうして恥ずかしがるんだ?」真夕「……」彼女はもがき始めた。「やっぱり中庭に行こうよ」運転席は
司は立ち止まった。「避妊用品は前だ。買ってこい」彼は彼女にコンドームを買いに行かせようとしていた。もし幸子がまだ彼の手の中にいなかったら、真夕は本当に彼にどこまでも消えてほしいと思った。ひどすぎる!真夕は動こうとしなかった。司は彼女の小さな顔を見つめた。今、彼女の頬は羞恥の赤みに染まり、その赤みは白い耳たぶにまで広がっていた。その純粋で可憐な姿が、さらに彼のいたずら心をくすぐった。「何を突っ立ってる。親友に会いたくないのか?」彼は彼女を脅している。いいだろう。真夕はその脅しを受け入れた。彼女はくるりと背を向けて避妊用品コーナーへと歩き出した。避妊用品のコーナーにはカップルが二組いた。彼女が入った瞬間、二組のカップルは同時に彼女を見た。真夕は穴があったら入りたい気分だ。振り返ると、司が長身を活かして廊下に立っていた。彼は楽しげな表情で彼女の困惑する姿を眺めていた。真夕は赤い唇を噛みしめ、小さな手を伸ばして一箱のコンドームを取り上げた。そして司に向かって聞いた。「このサイズでいいの?」司が目を凝らすと、それはSサイズだった。「違うの?じゃあこれ?」真夕はまた別の箱を取り、ぱっちりした目で無邪気に彼を見た。今度はXSサイズになった。二組のカップルの視線が一斉に司に向けられ、その表情には……同情の色が浮かんでいた。司の整った顔が一瞬で真っ暗になり、彼は長い脚で彼女のそばまで歩き、じろりと睨んだ。その様子を見ると、真夕の瞳にはきらきらとした笑みが浮かんだ。彼女はさらにこう言った。「堀田社長、こんなことしてたらまずいよ。奥さんにバレたらどうするの?」その言葉を聞き、二組のカップルの視線は同情から軽蔑へと変わった。「クズ男だな!」司の額に青筋が浮かび、彼は手を伸ばして真夕を捕まえようとした。真夕はいたずらっぽく唇をゆるめ、小さなキツネのように笑うと、すぐに逃げ出した。だが、数歩走ったところで、高い位置で結んでいたポニーテールを引っ張られてしまった。司がそのポニーテールを軽くつかんでいたのだ。高級スーツに身を包んだ大手会社の社長が、自分の髪を引っ張るなんて。「何すんのよ!放して、この変態!」前に堀田家の本家で彼女が制服を着てポニーテールをしていたとき、すでに彼はその髪を引っ張りたかっ
彼は今何を言ってるの?真夕ははっきりと感じた。司がもう演じるのをやめた。あの意地悪でエロい司が、戻ってきたのだ。以前の彼女はその仮面を引き剥がそうとしていた。ただ、本当に剥がしてしまった今になったら、実は自分がそこまで望んでいたわけじゃなかったと気づいた。高級車が滑らかに道路を走っている中、真夕は隣の男を見ながら言った。「私を幸子に会わせないようにしたの、あなたでしょ?」司は節のくっきりした大きな手でハンドルを握りながら、気のない声で「うん」と答えた。彼は認めたのだ。「じゃあ、和也が離れたのも、あなたが関係してるの?」司はウインカーを出し、高級腕時計を巻いたたくましい手首でスムーズにカーブを曲がると、低く響く声で言った。「今ごろ和也は着いてるはずだ。和也が今何をしてると思う?」真夕は黙っているまま、彼の続きを待った。司は一枚の写真を彼女に手渡した。真夕は受け取り、写真の中に和也の姿が見えた。「これは常陸家が和也に選んだ相手で、江崎家のお嬢様である江崎梨乃(えざきりの)だ。和也は飛行機を降りた途端、すぐにお見合いに連れて行かれた。常陸家と江崎家の政略結婚は避けられないだろ」写真は六つ星ホテルの豪華な個室で撮られていた。常陸家と江崎家の人間が揃い、和也と梨乃は向かい合って座っている。写真の中の梨乃はとても綺麗だ。梨の花のような白いロングドレスを着こなし、まさに名門のお嬢様そのものだ。和也と並んで座っている姿は、「豪門の結びつき」という言葉を体現している。「和也が離れたのは俺のせいだと思ってもいいし、常陸家が彼を呼び戻したと思ってもいい。ただ、確かなのは、君には常陸家の門はくぐれないってことだ。君と和也には未来はないんだ」真夕は写真を見つめながら、和也と梨乃がよく似合っていると思った。彼女は和也の幸せを心から願っている。彼は数少ない大切な友人だから、正しい相手と出会ってほしいと願っている。真夕は写真をしまいながら言った。「私なんて和也には釣り合わないってわかってる。自覚はあるよ、堀田社長」司は無表情に鼻を鳴らした。「どこ行きたい?ホテル?」真夕の心臓が一気に高鳴った。彼はもう本題に入ろうとしてるの?「ホテルは……行きたくない」「じゃあ中庭に帰ろう」今夜、彼は彼女を中庭に連れて帰るつ
司の喉仏が無造作に上下した。彼女はまるで俗世を離れた天女のような顔立ちをしているくせに、こんな色っぽい画像を送ってくるなんて。しかも、自分が仕事中に。こいつ、裏の顔は完全に小悪魔だ。なんでも知っていて、なんでも分かっている女なんだ。マルクは笑いながら言った。「奥様はとても若く見えますね。きっと甘えん坊なんでしょう。堀田社長、ついていけるのですかね?」若く可愛い妻がいるのも、夫がそれに耐えられるかどうかが問題だ。司は外にいる真夕を見た。自分でもよくわからなかった。彼女とはまだそこまでの関係にはなっていないし、自分が耐えられるのかも、まだ分からない。ピン。そのとき、またしても真夕からメッセージが届いた。司が開いた。真夕【堀田社長、あなたダメなの?ダメなら私帰るよ?】……クソッ!司は心の中で思い切り罵った。こんなんでどうやって仕事に集中しろっていうんだ?外では真夕が勝ち誇ったように微笑んでいた。司が仕事を途中で投げ出して来ることはないと分かっていたから、余裕でコーヒーを一口飲み、立ち上がってその場を離れようとした。次の瞬間、彼女の背後から低く魅力的な声が響いた。「どこ行くんだ?」この声は……真夕が振り返ると、ビジネス会議室のドアが開き、司が出てきたのが見えた。彼が本当に出てきてくれたの?司は長い脚をすばやく動かし、彼女の前に立った。「行くぞ」真夕は呆然とした。「ど、どこに?」司は彼女の柔らかな小さな手を握り、指腹を軽く押しながら問い返した。「行きたいとこある?そっち行こう」真夕「……」真夕の脳内で、爆音のような衝撃が走った。え、ちょっと待って?ただの冗談だったのに。まさかマジで来るとは思わなかった!え?そのとき、マルクも出てきて、フランス語で司に話しかけた。「堀田社長、紹介してくれませんか?」真夕は司を見た。司は冷ややかに彼女を一瞥して言った。「何見てるんだ?君、遊びは得意なんだろ?まさかフランス語も分からないのか?」まるで彼女を皮肉っているかのようだった。真夕は細い眉を少し上げ、澄んだ瞳でマルクを見つめた。そして、はっきりと口を開いた。「こんにちは。お会いできてうれしいです。真夕と申します」それはフランス語だった。その声は清らかで美しく、発音も完璧だった。司は
控えめながらも豪華なビジネス会議室の中、司はオーダーメイドの黒いスーツに身を包み、端正な顔立ちに気品をまとっていた。彼は堀田グループの幹部たちを率い、フランスのLVMA社の社長マルクを接待している。「奥様、社長はフランス語もお上手なんですよ。社長は二十数か国語を話せますので、通訳なんて一度も付けたことがないんです」受付の人は真夕にコーヒーを淹れてあげながら、にこやかに言った。真夕は微笑んだ。「どうも」「いえいえ、奥様。それでは私はこれで」「いいわ」受付の人が去っていき、真夕の澄んだ瞳が再び大きなガラス窓越しに司へと向けられた。司はマルクと並んで立っている。マルクがフランス語を話し、司は流暢で正確なフランス語で応対する。まさに商業界の名声と利益が交錯する舞台の、その頂点での会談だ。真夕は窓越しにそんな光景を見ながら、司という男から、まるできらびやかな虚飾に満ちた世界の匂いを感じ取った。どうりで、あれだけ多くの女性たちが彼に夢中になるわけだ。彩がそのそばにいながらも、今度は月が現れた。彼が真面目な顔をしているときの矜持と冷静さは、本当に禁欲的で高貴に見えるものだ。でも、彼が自分にした数々のことを思い出すと、真夕はまたあの「畜生」という言葉が頭をよぎった。外見がどれだけ禁欲的でも、裏ではどれだけ欲深いか、彼女は知っている。真夕は心の奥にいたずらっぽい感情が湧いてくるのを感じながら、スマホを取り出し、「旦那」の名前が付いたチャット欄を開いて、メッセージを送った。ビジネス会議室内で、「ピン」という音が鳴った。司のスマホに通知が届いたのだ。司はマルクとの会話の最中だったが、音に気づき「Sorry」と一言言ってから、ズボンのポケットからスマホを取り出した。そこには真夕からのメッセージが表示された。【堀田社長、お願いがあって来ました】司は顔を上げ、ガラス越しに外を見た。そこに真夕がいた。あの夜と同じように、真夕は制服を着ている。白いシャツにストライプのミニスカート、その上にはベージュのカレッジ風ジャケットがある。漆黒の長い髪を高い位置でポニーテールにしており、まるで十八歳になったばかりの新入生のように清純で幼い姿だ。彼女は外のソファに座り、澄んだ瞳で彼を見つめている。二人の視線が空中で交錯した。そのとき、マ