司はすでに欲情で乱れており、切れ長の目尻が赤く染まっていた。だが、真夕のその一言に、彼の体が一瞬こわばった。彼は顔を上げて真夕を見つめた。真夕は目線でドアの外を示した。「堀田社長、今度はツキちゃんを慰めてあげないといけないみたいだね」司は頭の回転が早く、瞬時に全てを悟った。真夕は本気で自分を誘惑するのではなかった。月に見せるための演技だったのだ。すると、目尻に滲んでいた情欲は一瞬にして消え去り、理性が戻った。彼は冷たい目で真夕を睨みつけた。「今すぐどけ!」真夕も躊躇うことなくすぐに降りた。司は起き上がり、窓際へと立ち尽くした。この忌々しい女め!「言え。目的は何だ?」「堀田社長。星野月のワイヤーは、幸子は絶対に切ってない。彼女は冤罪だ。どうか幸子を解放してあげてください」真夕はついに本題を切り出した。幸子?彼女の親友か。司は月がワイヤーから落ちた件には関与しておらず、当然その事件に幸子が関わっていることも知らなかった。清が彼に電話で指示を仰いだが、司は月に任せるように言っただけだった。なるほど。彼女は親友のためにやって来たのか。司は顔を横に向け、冷たく笑った。「俺にお願いしてるってことか?」真夕の睫毛が震えた。幸子のために頭を下げざるを得なかった。「はい、堀田社長。お願い」「お願いするなら、それ相応の誠意を見せるべきだろ。お礼ちゃんと考えてきたのか?」彼の率直な言葉に、真夕の体が一瞬固まった。司の視線は彼女のしなやかな体を上から下まで見渡し、興味深げな口調で言った。「まだ考えてないようだな。考えがまとまったらまた来い」そう言って彼は足早に立ち去ろうとした。だが真夕は手を伸ばし、彼のシャツの袖を掴んだ。「堀田社長」司は足を止めた。「俺だってフィランソロピストじゃない。君の親友に情けをかける理由もない。正直言って、君の体以外に俺が興味を持てるものなんてない」あの夜、彼は病院に行って彼女を求めたが、彼女は応じなかった。今もう一度、試してみようと思ったのだ。真夕は指を握りしめた。正直言うと、彼のことがよくわからない。すでに彼と寝た自分が、つまらないとか無口だとかと思われ、二度と求められることはないと思っているからだ。それなら、なぜまた?また自分を抱きたいとでも言うの
この時、真夕は突然ドアのところで見慣れた人影を見つけた。月だった。月がやって来た。外があれだけ騒がしかったので、月は司を探していた。そしてこの部屋を見つけたのだ。真夕と司がベッドの上にいるのを見た瞬間、彼女の清らかな瞳は一気に毒々しくなり、毒蛇のように真夕を鋭く睨みつけた。真夕は冷たく笑った。司が体を引こうとしたその瞬間、彼女は突然彼の首に腕を回し、体勢を入れ替えて司を自分の下に押し倒した。今は男が下に、女が上にいるようになった。ドアの外の月は目を見開いた。まさか真夕が司を押し倒すなんて。なんて大胆なの!その香しく柔らかな身体が再び彼の上に乗ると、司の身体がこわばった。彼は唇を引き結び、不機嫌そうに言った。「今度は何だ?降りろ」しかし真夕は降りようとしなかった。「堀田社長、私と彩の密着ダンス、どっちが好き?」この質問は、さっきあの御曹司たちにも聞かれていた。司は答えなかった。真夕の白く細い指が彼のたくましい胸元に触れ、妖しくなぞった。「じゃあ質問を変えるよ。あの夜、星野月とはどうやったの?」司の全身の筋肉が一気に緊張し、彼は真夕の落ち着かない手を一気に押さえ込んだ。彼には記憶がなかった。彼が覚えているのは、真夕との官能的な夢だけだった。だが、男としてのプライドと自尊心が、その夢のことを彼女に言わせるはずもなかった。真夕は月が外にいるのを知っている。今頃彼女はきっと耳を澄まして聞き耳を立てているに違いない。彼女の清楚な眉目に艶やかな色気が滲んだ。「彼女とはどこでやったの?ベッド?ソファ?それとも車の中?」言い終える前に、彼女のくびれた腰が急に締められた。司は彼女の腰を掴み、鋭い目で睨みながら歯を食いしばって怒鳴った。「池本、毎日俺を誘惑しないと死ぬのか?」彼が月をバーに連れて来ると、彼女は妖艶な小悪魔に変身して彼の視線を月から奪った。彩と密着ダンスをしたことを彼女はずっと覚えており、それで自分の上であんなに艶めかしく腰を振り、そしてどちらが好きかと聞いたのだ。彼女はいつも自分を誘惑してくる。司は彼女をじっと見つめている。さっきは意地悪なことを言ったが、この顔は本当に絶世の美女だ。小悪魔に変身した彼女は、さらに官能的で魅惑的だ。彼女は実に手強い。ライバルを恐れず、自分から男を
司の手口はいつも容赦なく冷酷で、見ている者の背筋を凍らせるほどだ。黒服のボディーガードたちは怯えてしまった。二人の御曹司も一瞬呆然としたが、すぐに怒鳴った。「何を突っ立ってるんだ!早くあいつを押さえろ!」「はい!」ボディーガードたちは一斉に司に襲いかかってきた。真夕が化粧室から出てきたときには、すでに前方で激しい戦いが繰り広げられていた。司は一人で十人を相手にしており、蹴り飛ばされたボディーガードがバーカウンターにぶつかり、酒瓶が床に砕け散った。あ。人々は驚き、四方八方へ逃げ出した。「ケンカだ!ケンカだ!」真夕はまさか着替えている間に司がケンカしているとは思わなかった。最近、彼はやたらとケンカばかりしているような気がする。真夕はすぐに駆け寄り、司のそばに来た。「堀田社長!」司はボディーガードを一人倒してから真夕を見た。真夕は美しく魅惑的な澄んだ瞳でまばたきをしながら、驚いた顔で言った。「堀田社長、またトラブル起こしたの?」司はまったく呆れたようだった。一体誰がトラブルを起こしたのか、自覚はないのか?彼は手を伸ばして真夕の華奢な腕を掴み、人目につかない安全な隅へ引っ張った。その冷たい瞳には血の気を帯びた冷ややかな殺気が宿っている。「ここで大人しくしてろ!」そう言い残し、彼は再びボディーガードたちと戦い始めた。辰巳が騒ぎを聞きつけると、駆けつけてきた。自分の兄貴が囲まれているのを見ると、「クソッ」と罵り、すぐさま叫んだ。「俺のところで兄貴に手を出すとはふざけんな!扉を閉めろ、やっちまえ!」辰巳は割れた酒瓶を手に取り、すぐさま突っ込んだ。現場は大混乱となり、すぐにバーの警備員たちが駆けつけてきて、二人の御曹司とボディーガードたちはあっという間に取り押さえられた。辰巳はその御曹司たちにいきなり平手打ちを食らわせた。「よく見とけ。俺の兄貴に手を出すなんて、死にたいのか?」二人の御曹司はすでに酔いが覚めており、司の顔を認識していた。「ドサッ」と音を立て、二人はその場に膝をついてへたり込み、震えながら叫んだ。「堀田社長……どうかお許しを!」司は彼らを見下ろして冷たく一瞥したが、何も言わず真夕のもとへ戻った。彼は彼女の細く白い手首を掴み、そのまま連れて行った。司は真夕をある豪華な部屋に引き込んだ
真夕がまたがったことで、司のシャツとスラックスには軽いシワができている。だが、バーの薄暗い照明の中では、それすらも奔放で野性的な魅力となっていた。彼はどちらのダンスが好きかという問いに答えなかった。ただ酒瓶を手に取り、一気に飲み干した。月はすでに怒りで我を忘れていた。あの女がどこから現れたのかも分からない。彼女が現れた瞬間、自分の存在感はすっかりかき消された。まるで空気のように扱われたのだ。最近はスターとしてちやほやされるのが当たり前になっていた。だがあの女が、まるで彼女を原点に引き戻したかのようだった。この感じが、彼女はたまらなく嫌だ。月はすぐさま司の隣に座り直した。「堀田社長、私……」言い終える前に、司は空になった酒瓶をテーブルに置き、そのまま立ち上がって去ろうとした。そして彼は行ってしまった。彼女を一人、ここに置き去りにした。「堀田社長、どこ行くの?小山さん、あの子のライン、教えてもらえない?」「もうやめとけ。あの子は堀田社長に見初められたんだよ」「なんで分かるの?」「さっき見てなかったのか?堀田社長のズボンのあの……目立ち具合を。あの子に踊られて、反応しちまってた。あの堀田社長だぜ?金も器もデカい男だ。あの子が嫌うわけないだろ?」何だって?司が生理反応を?月の目が嫉妬で燃え上がった。自分の中の司は、骨の髄まで冷淡で人を寄せつけない、まさに高嶺の花のような男だったのに。彼は彼女にすら冷たかった。だが、さっきの女にはあんな反応を?どうして?ようやく真夕を潰したと思った矢先に、また別の女が現れた。あの女は一体何者なの?一方、司は外の空気を吸いに出た。彼はポケットからスマホを取り出し、真夕にラインを送った。【着替えろ。出てこい】ピン。真夕の返信はすぐに届いた。【了解。すぐ行く】司は薄唇を歪めて冷笑した。今さら大人しいふりをしやがって。君の目的は果たされたってことか。その時、前方から二人の御曹司がふらつきながら近づいてきた。二人とも酒に酔い、口調も下品になっていた。「あの小悪魔ちゃん、マジでやばかったな。俺もう理性飛びそうだった。今夜あの女、ここに連れてきて遊ぼうぜ。明日は脚が立たねぇようにしてやるよ」「マジで?あの子、今前の更衣室にいるって確実なのか?」
真夕の視線がまず月に向けられた。「ねえ、ちょっとどいてもらえます?堀田社長とのダンスの邪魔なんですけど」真夕は大胆に挑発し、そのまま月にどくように言い放った。月は拳を握りしめ、怒りに震えながらも動こうとしなかった。だがそのとき、周りの御曹司たちが茶化して声を上げた。「ツキちゃん、早くどいてくれよ!」「……」月は真夕を鋭く睨みつけ、不満げにわざとらしく横へと移動した。真夕は心の中で冷たく笑った。彼女には月の本性がすでに見えている。これは彼女の反撃だ。その反撃は、まだ始まったばかりだ。真夕は司を見た。彼はずっと彼女を見つめている。彼女もひるまなかった。赤く潤んだ唇をゆるく笑みにしながら、彼女は彼の視線の中で脚を開き、ためらいもなく彼の体へと乗りかかった。彼のしなやかな腰にまたがるように、大胆に乗りかかったのだ。うおぉっ!場内が一斉に湧き上がり、歓声と悲鳴が飛び交った。「小悪魔ちゃん、君が初めてだぞ!堀田社長にまたがって密着ダンスするなんて!」真夕は薄いヴェールを顔にまとい、いつもは清らかで近寄りがたい天女のようだった彼女が、今は炎のような小悪魔に変貌していた。誰も彼女の正体に気づいていない。彼女は柳眉を上げてにっこりと笑った。「うそでしょ?堀田社長っていつもモテモテじゃん。今日だってツキちゃんと一緒にいるし、前には赤いバラって呼ばれてる彩さんとも密着ダンスしたって聞いたし、私なんか順番回ってこないよね」「小悪魔ちゃん、順番回ってくるかどうかは、君のダンス次第だな!ハハハッ」真夕は司を見つめ、その切れ長の目に光が揺れた。「それじゃあ、彩さんとツキちゃんのプレッシャーを背負って、ちょっとお目汚し失礼しますね」音楽に合わせ、真夕は体をくねらせ始めた。彼女の細い腰は、黒のタイトスカートに包まれ、やわらかくもしなやかに揺れている。その動きはまるで男の命を奪う刃のようだった。極めつけは、左右にくねらせるヒップだ。彼女は黒いストッキングを履いたまま、司の膝の上でゆっくりと腰を揺らしながら、それを彼に見せつけるように踊った。バー全体が熱を帯び、観客たちが叫び、さらに多くの人が彼女のリズムに合わせて踊り始めた。場内はまさに炎のような情熱に包まれた。司の陰を湛えた黒い瞳の中に、赤く危険な炎のような光が灯った。他の誰
彼女が登場した瞬間、フロアは一気に沸き立った。そのとき音楽が流れ始め、ステージ上のシルエットが音楽に合わせて舞い始めた。彼女はひとっ飛びに、まるで蛇のようにしなやかな体でポールに巻きき、回転し、跳躍した。柳のように柔らかな体は、いとも簡単にさまざまなポーズを描き出し、視覚的な衝撃は観客たちを熱狂させた。豪華なボックス内では、御曹司たちが興奮して辰巳の腕を掴んだ。「小山さん、君のところにこんな美人がいたなんて聞いてないぞ。ずるいよ!」辰巳もステージ上のシルエットを見つめ、困惑していた。このレベルの美女なら、バーの看板娘になっていてもおかしくない。しかし、彼女のことは今まで一度も見たことがなかった。これはいったい誰なんだ?そのとき、司の瓶を持っている手がピタリと止まった。彼の視線はステージ上の女性に釘付けになり、一秒たりとも逸らさなかった。真夕はステージで舞っていた。彼の視線に気づいた。司が自分を見ている。真夕は唇を軽く吊り上げ、宙に浮かぶようにスプリットを決めた。うおぉぉっ!フロアの男たちは叫び声をあげた。隣の御曹司たちが口々に言った。「やっべ、あの体、マジで柔らかすぎだろ!」「スプリットとか朝飯前かよ、彼氏になるやつ、勝ち組すぎるぜ」「こういう子って、将来誰と結婚するんだろうな?」「そういや、彩さんはバレエ団のプリンシパルだけど、やっぱり上には上がいるもんだな。彩さんよりも柔らかいなんて……」男たちはステージ上の女性について熱く語り合っていた。司の端正な顔立ちは、まるで水を滴らせるほどに暗く沈んでいた。やがてポールダンスが終わりを迎え、真夕は優雅にポーズを決めて立ち上がった。観客席からは嵐のような拍手が沸き起こった。バーの雰囲気は完全に最高潮に達していた。満面の笑みを浮かべながらマネージャーがステージに上がり、こう告げた。「皆様、本日はまだまだ終わりませんよ。次は、この方がお客様をひとり選んで、一緒に密着ダンスを披露してくれます!」密着ダンスが始まった。観客席の男たちは競うように声をあげた。「小悪魔ちゃん、こっちだ、俺を選んで!」「俺の方がいいって!選んでくれ、お願い!」「小悪魔ちゃん、早く俺のところにおいで!」誰もが真夕に選ばれたがっていた。真夕のベール越しに見えるきれ