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第6話

作者: 小春日和
譲渡書を見た途端、美香の目つきが変わった。

急に声を柔らかくし、取り入るように言った。

「奈津美、健一はあなたの弟なのよ。

将来会社を継いだら、お姉さんの後ろ盾になれるわ。

奈津美も安心して黒川様と結婚できる。一石二鳥じゃない?」

美香は急いで健一を引き寄せ、言った。

「早くお姉さんに謝りなさい!

誰が朝早くからお姉さんの部屋に入っていいって言ったの?」

健一は不満げな顔で言った。

「どうせこの滝川家はいずれ俺のものだ!

婚約を破棄して俺の前途を台無しにしたんだから、説明を求める権利くらいある!」

奈津美は冷ややかに見ていた。

まさか弟がこんな早くから滝川家の財産を狙っていたとは。

こんな若さで、すでに自分が滝川家の将来の主人だと思い込んでいる。

これも美香の入念な教育の賜物に違いない。

「この子ったら、とんでもないこと言って。

奈津美、気にしないで。その譲渡書は私が預かっておくわ」

美香の目は譲渡書から離れなかった。

譲渡書には、健一が高校卒業後に会社を引き継げると明記されていた。

母子でこれほど長く待ってきたのだから、この譲渡書に何かあってはならない。

奈津美は美香を見て、軽く笑った。

「お母さん、そんなにこれが欲しいんですか?」

「ええ......」

美香の言葉が終わらないうちに、「ビリッ」という音が響き、奈津美の手の中の譲渡書は真っ二つに引き裂かれていた。

美香の顔が一瞬で青ざめ、健一は怒鳴った。

「何してるんだ!誰が破れっていった!」

健一が慌てて奪おうとしたが、奈津美はあっという間に譲渡書を細かく引き裂き、二人の前にばらまいた。

奈津美は淡々と言った。

「滝川グループを健一に渡すことは絶対にありません。お母さんも弟も、諦めてください」

「何ですって?奈津美!会社を弟に渡さないなら、誰に渡すつもり?

滝川家には健一しか男の子がいないのよ!あんた......」

奈津美は言った。

「健一は結局、父の実子ではありません。

会社は私が直接経営することに決めました。

それに父が亡くなった時の遺産分配書にも明確に書かれています。

会社の経営は私に任せること、そしてお母さんたち母子への遺産は......一億円と、滝川家の二部屋の居住権だけです」

「なんだって!父さんがたった一億円しかくれないはずがない!

奈津美、絶対に父さんの遺言を改ざんしたんだろう!」

健一は信じられない様子だった。

滝川家は少なくとも数千億円の資産がある。

黒川財閥の数十兆円には及ばないものの、神崎市では指折りの資産家だ。

父がたった一億円しか残さないはずがない。

「信じられないなら、今度弁護士に遺言書を持ってきてもらいましょう。

見れば分かるはずです」

奈津美は何か思い出したように付け加えた。

「そうそう、遺言書には滝川グループは私、滝川奈津美が相続すると明確に書かれています。

弟もお母さんも、余計な考えは捨てた方がいいですよ。

もし何か企んでいるなら、容赦はしません」

目の前で驚愕する健一と美香を見て、奈津美は冷笑を浮かべただけだった。

前世、遺言書を受け取った時、この財産分配が美香母子の心を傷つけると思い、ずっと二人に見せずにいた。そして母子の荒い金遣いを黙認していた。

美香が本当に自分を娘のように思い、自分のためを考えてくれていると信じていたからだ。

しかし美香の本当の目的は、早く自分を嫁がせて、息子の道を開くことだったとは気付かなかった。

もし前世、健一が3年で滝川家を潰し、二人で黒川財閥の資産を要求しに来なかったら、この母子の薄情さに気付くこともなかっただろう。

今思えば、前世のあの結婚式で、涼が躊躇なく自分を見捨てたのも、滝川家の令嬢としての利用価値がなくなったからに過ぎない。

「奈津美、今の話......本当なの?」

美香は焦りながら、この事実を確認しようとした。

もし正一が本当にそんな薄情なことを......これからどうやって生きていけばいいの?

たった一億円で余生を過ごせというの?

奈津美は椅子に座りながら言った。

「お母さんはまだ信じられないようですね。

では、これから弁護士に遺言書を持ってきてもらいましょう。

そうすれば、納得していただけるでしょう」

「ママ!彼女の言うことなんか信じないで!

全部嘘よ!父さんがそんなことするはずないわ!」

健一は奈津美を睨みつけながら言った。

「きっと黒川さんとの結婚が駄目になったから、滝川家を奪い返そうとしてるんだ!

ママ、僕こそが滝川家の息子よ!会社は当然僕が継ぐべきなんだ!」

「残念だけど、今の健一には継承する資格はないわ」

奈津美は薄く笑みを浮かべながら、高圧的な態度で言い放った。

美香と健一が顔を真っ赤にして怒っていた。

その時、突然、外から山下の驚いた声が聞こえた。

「黒川様?どうしてここに......」

その声を聞いて、奈津美は眉をひそめた。

涼が知らぬ間にドアの前に立っていた。

部屋の中のやり取りをすべて見ていた涼は、冷笑した。

こんなに攻撃的な奈津美は初めて見た。

美香は涼を見るなり、媚びるような笑顔を浮かべた。

「黒川様、事前にご連絡いただければ、お迎えに出られたのに」

「結構です。用件だけ済ませて帰ります」

涼の声は平坦で、感情が読み取れなかった。

「はい、はい!」

美香は嬉しそうに口元を緩め、急いで健一を連れて部屋を出ながら言った。

「黒川様、ごゆっくり。お茶をお入れさせていただきます!」

美香は出る時、わざとドアを閉めた。

奈津美には、美香のこの下劣な手口は見慣れていた。

もし涼が自分の寝室に入り、二人きりになったという噂が広まれば、自分は涼の女として世間に認識される。

そうなれば、もう他の男性との結婚は難しくなるだろう。

この神崎市で、涼の女に手を出す男などいないのだから。

奈津美はすぐに寝室のドアを開け、涼との密室状態を避けた。

「涼さん、お話があるなら下で伺いましょう。

私たちは婚約を解消した仲です。二人きりでいれば、余計な噂の種になります」

現代社会とはいえ、多くの人の考えはまだ封建的で下劣だ。

男女が密室にいて、しかもドアを閉めているなんて、まるで何かを隠そうとしているみたいだ。

涼は冷笑して言った。

「おばあさまの前では弱々しく可哀想な振りをして、家族の前では母を虐げ弟を辱める。

俺の見る目を間違えていたようだ」

「私が彼らを虐げる?」

奈津美は何か可笑しい冗談でも聞いたかのように笑った。

涼は明らかに話の途中からしか聞いておらず、彼女が滝川家の遺産を奪おうとしていると誤解しているようだ。

でもそれでいい。涼が自分を嫌えば嫌うほど、彼女は嬉しかった。

早く涼との関係を清算した方がいい。

「黒川様のおっしゃる通りです。私はそういう二面性のある性悪な女です。

わざわざお越しいただく価値なんてありません」

涼は軽蔑的な目で見た。

「おばあさまに頼まれて、謝罪に来いと言われなければ、私が来るとでも思っているのか?随分と自惚れているな」

「ああ、おばあさまのご命令だったんですね。ご安心ください。

おばあさまには私から説明させていただきます。黒川様にご迷惑はおかけしません」

奈津美は道を開け、涼に真剣な表情で言った。

「お話が済みましたら、階下まっすぐお帰りください。お見送りはいたしません」

涼は聞こえていないかのように近づき、目には威圧的な色が宿っていた。。

「警告しておく。おばあさまの前で余計なことを言うな。

もし綾乃の自傷の件がおばあさまの耳に入ったら......」

涼の全身から殺気が漂い、次の瞬間にも彼女を八つ裂きにしそうな勢いだった。

奈津美の胸が締め付けられた。

彼女にはよく分かっていた。涼にとって、綾乃以上に大切な人などいないということを。

もし綾乃に手を出せば、それは涼の逆鱗に触れることになる。

涼は決して許してくれないだろう。

「ご心配なく。ニュースの件はおばあさまにきちんとご説明します。綾乃さんには及びません」

「それが賢明だ」

涼は奈津美との距離を広げ、振り返ることもなく立ち去った。

一階で、美香は涼のためにお茶を入れたばかりだったが、涼が大股で玄関へ向かうのを見て、慌てて声をかけた。

「黒川様!もう少しお座りになりませんか?黒川様!」

涼は足を止めることなく去っていき、美香は悔しげに足を踏み鳴らした。

美香は二階の奈津美の部屋を指差して叫んだ。

「男一人すら引き止められないなんて!本当に役立たずね!」

奈津美は寝室で美香の罵声を聞き、ゆっくりと二階の廊下に歩み出て、階下の美香を一瞥した。

その氷のような眼差しに、美香は思わず身震いした。

かつての従順で優しい奈津美が、いつからこんな冷たい目つきをするようになったのだろう。

もし本当に奈津美が滝川家を継ぐことになったら......

いけない、何とかしなければ。絶対にこの縁談を潰させるわけにはいかない!
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