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待ち合わせ③

Author: 緋村燐
last update Huling Na-update: 2025-07-06 17:31:37

「それじゃあナンパ邪魔して悪かったなぁ?」

 ニヤリと笑う日高くん。

 そして彼はメガネを外してあたしを真っ直ぐ見た。

「で? 仕方ないから俺で我慢しておこうとか?」

 妖艶に微笑んでそんなことを言う日高くん。

 これが本当に初めて会う女性とかならドキッとかするのかもしれないけれど……。

「……」

 あたしは寧ろ死んだ魚の様な目で見返していた。

 予想外の反応だったんだろう。日高くんも何やらおかしいと気付いたのかメガネを戻して黙り込んだ。

「はあぁー……。うん、取りあえず行こうか、日高くん」

 大きなため息をついて、本当に用件だけを口にする。

 何だか待ち合わせだけで疲れた。

「え? 何で俺の名前……ってか行こうかって……く、倉木……なのか?」

 本気で信じられないものを見たという驚愕の表情。

 あたしはそれに容赦なく止めを刺す。

「そうだよ、倉木 灯里です。もういいからさっさと行こう」

 そう言って歩き出したあたしの背後で、日高くんの「嘘だろう?」という呟きが聞こえた。

 歩き出してからも何度も「嘘だろ?」「マジで?」と聞いて来る日高くん。

 あたしはそれにウンザリして|率直《そっちょく》に聞いた。

「本当にあたしが倉木だって。そんなに変わった? 中学の時はメイクしたってちゃんとあたしだって気付いてもらえてたよ?」

「中学の時なんて知るか! 普段の地味子しか知らない状態で今のお前見たらハッキリ言って別人だ!」

 相当ショックだったのか叫びながら言われる。

 でもその言葉で理由が分かった。

「あ、そうか。中学の時は地味子してなかったっけ」

 中学の時と違って、今はギャップがありすぎるんだ。

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