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第1299話

Author: 夜月 アヤメ
ノラは車を運転しながら、曜を乗せて住まいを後にした。

曜は、ノラが連れてきた場所が辺り一面人気のない場所で、ぽつんと一軒だけの小さな家だと気づく。ここは、外灯すらないほどの寂しい土地だった。

「桜井くん、なんでこんな場所に家があるんだ?」

「ここ、すごく静かなんです。僕、気に入ってます」

「静かなのはいいが......周りに何もないじゃないか。前からここに住んでたのか?」

「叔父さん、ここは僕がたまに気分転換したいときだけ来てるんです。それに車があれば、どこへ行くにも便利ですから」

しばらく車に揺られても、曜が窓から見ても、ほかの家は一軒も見えない。

その静けさが、かえって妙に不安だった。

やがて、車が止まった。

ここには灯りがあったが、どう見ても街灯ではない。

「叔父さん、降りてください。僕の母はすぐそこにいます」

曜は車を降りて、二人で花を抱えながら小道を進んだ。

曜は周りを見回した。

真っ暗な夜風が吹き抜け、もの寂しい雰囲気。

数分歩くと、ぽつんと墓石が一つだけ建っていた。

その墓はとても簡素で、文字も曲がっている。

周囲には灯りがともっていたが、ほかの墓はどこにもない。

雑草だけが生い茂っていた。

ここは、どう見ても普通の墓地じゃない。

誰かのためだけに作られたような場所だった。

「叔父さん、僕の母はここに眠っています」

ノラは花を墓前にそっと置いた。

「お母さん、会いに来ましたよ。今日は少し遅くなってごめんなさい、ちょっと用事があってね。でも、今日は友だちも連れてきました」

ノラは振り返り、曜を見つめた。

「叔父さん、僕の母に挨拶してください」

曜は胸が詰まるような気持ちで、荒れた墓石を見つめた。

花を供えながら、息苦しさに思わず胸を押さえる。

墓碑には「桜井里枝」と彫られていて、その横には「長男、桜井ノラ、建之」という小さな文字が刻まれていた。

「叔父さん、どうしたんですか?何も言わないんですね」

「桜井くん、どうしてお母さんはこんな場所に?」

「ここが一番静かなんです。母さん、静かなのが好きだったから。もし公営の墓地なんかに埋めたら、母さんは絶対嫌がったと思うんです」

「でも、ここって本当に人を埋葬してもいいのか?」

「どうしてダメなんですか?」ノラは微笑んで言った。

「この土地、全部僕
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Comments (2)
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シマエナガlove
修がすべてに気づいて 雅子の裏切りもわかってよかった 若子も探すのもだけど 子供を連れ戻すのも早急にやらないと アメリカにいたときの発言があるから 泣き止まないときに 埋めるとか言った西也が 危害加えないはずがない 早く引き取って 若子は修父と同じ家にいるかも
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barairose88
千景、ありがとう!   その冷静な判断、本当に尊いです。   修、良かったね…。 修と千景が、タッグを組んだら、もうそれは最強のはずです! 修は、雅子の盗聴器擬きのブレスレットも捨てました! 千景のおかげで、すべての関与が明らかになりました。 すべての点と点が明確に繋がり、成すべきことも明白です!! 悪魔の西也、完全無欠冷酷なノラ、いよいよあなた達への勧善懲悪!リベンジターンがスタートです! 曜お父様…全ては因果応報です!
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