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第1475話

Author: 夜月 アヤメ
「修、この数年で他の女の人と付き合ったことある?」

若子はストレートに聞いた。

二人とももう純粋な少年少女じゃない、大人同士だ。

修みたいに健康な男なら、そういう欲求があって当たり前。無理をして我慢するのも体に良くない、普通のことだ。

修は少しムッとした顔で、「お前の中で俺は、愛してもいない女とただ欲望を満たすために寝るような男なのか?」

「だって男の人って、みんなそうでしょ?」若子は特に悪意なく言った。これは責めてるわけじゃなく、世の中でよくある普通のことだからだ。

都会の男女は寂しさを紛らわせるために、たまに気楽な関係を楽しむ。夜が明ければまたそれぞれの道に戻る―

修みたいな立場なら、女の方から寄ってきて困らないはず。

「どうして俺だけは例外じゃダメなんだ?」

修は、そんな気持ちになれるはずもなかった。どうしても必要なときは、自分で何とかしていた。「じゃあ、若子、お前はこの数年で男の人と付き合ったのか?」

若子は首を振る。「いいえ。仕事と勉強、そして子育てでいっぱいいっぱいだったから、そんな余裕なかった」

その答えを聞いた修は、やっと表情を和らげた。

「こんな時間にどうした?」

若子は手首を差し出して、「プレゼントありがとう。どうしてもお礼が言いたくて来たの。それに、さっき声がしたから、何かあったのかと......でも、まさか......」

また視線が下がり、

「自分で処理してたんだね、ごめん。なんか、変なタイミングで」

お互いもう三十代。だけど、好きな人にこんな場面を見られたら、さすがに修も恥ずかしい。

それでも、大人なんだから、別に珍しいことでもない。

「若子、もう寝てくれ。俺も寝るよ」

修はベッドに戻り、布団をめくって横になる。

すると、若子がゆっくり歩み寄ってきた。

その目には複雑な感情が浮かんでいて、何か伝えたいことがあるようだった。

「どうした、若子。まだ何か用?」

修はあわてて上半身まで布団をかぶる。

その時、修の目に驚きが走る。

若子はゆっくりと自分の腰紐をほどき、

スルリとナイトガウンを脱いだ。

白くなめらかな肌―すべてを、修の前にさらけ出した。

修は熱いまなざしで彼女を見つめる。「......何をしてるんだ?」

「修、今までたくさん私のために尽くしてくれたでしょ。だから今度は、私があな
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Comments (2)
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酒井妙子
やっと二人が結ばれて、ホッとしました。私は二人を応援します...️
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シマエナガlove
なんでだよ マジで若子クソ そんな行為して 修をまた捨てられたら 狂うじゃん 妊娠証明書見て狂うって この後の話だったりする また妊娠したり
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