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36 対峙

Penulis: 内藤晴人
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-30 18:30:00

 水の結晶は、カイの力に呼応するようにちかちかと瞬き始める。

 そしてまばゆい光を放つと、それは光神エルト・ディーワの像を結んだ。

 その姿を一瞥すると、カイは冷たくこう言い放った。

「さっきも言ったとおりだ。俺はもうあんたの道具にはならない。自分でカタをつけてくれ」

 言い終えると、カイは腰に履いていた剣を投げ捨てる。

 唖然とする一同の視線を背に受けて、カイは振り返ることなく大広間を出ていった。

 ディーワとべヌス、そしてやや離れた所に控える婀霧、三者の間にはしばし嫌な沈黙が流れる。

 べヌスは現れたディーワの虚像とは目を合わせようとせず、冷たくなったアウロラを見つめるばかりである。

 その様子に、婀霧は意を決したように息を飲むと、かすれる声で切り出した。

「……最期の時、巫女殿はこうおっしゃいました。陛下にお仕えできて幸せだったと」

 瞬間、べヌスの身体がぴくりと動いた。

 ゆっくりと顔を上げると、漆黒の瞳を婀霧の方に巡らせる。

「……まことか?」

 無表情なべヌスの声に、婀霧はうなずく。

「こうもおっしゃっていました。いつか必ず、あなたの元へ、と」

 言い終えるやいなや、婀霧はうなだれ声を上げて泣き始める。

「本当に、申しわけありません。私が……私がもう少し早く巫女殿の元に駆けつけていれば、こんなことには……」

 けれど、べヌスは目を伏せゆっくりと頭を左右に振った。

「そなたのせいではない。気に病むな。すべては……」

 ひとたびべヌスは言葉を切った。

 アウロラに視線を落とすと、べヌスは静かな声で告げた。

「吾の咎だ。吾が……」

 言うと同時に、一筋の涙がべヌスの頬を伝い落ちる。

 武神べヌスの涙
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