「テイワズ・オスカリウス」
呼ばれた名前に振り返った。
今日は|社交界デビュー《デビュタント》の日で、名を呼ばれた金髪のドレスを着た女性は、今まさに今から婚約者であるこの男と踊るところだったのだ。テイワズ・オスカリウス。
侯爵家の子女の十六歳。長い金髪と青い目が、シャンデリアの光で輝いた。豪奢で華やかな王宮の広間。
賑やかなその場で、見知った声の異変を感じ、伸ばそうとした手を止める。名前が聞こえて反応した家族の視線を感じた。が、それよりはこの目の前にいる婚約者の硬い面持ちの方が気になる。
婚約者のダグは彼女と──テイワズと同じ金髪碧眼の男だった。
今日のテイワズのドレスは、彼が青い服を纏うと聞いていたから、それに合わせた淡い青のドレスを選んだ。
なのに彼は、緑を基調とした正装をしてた。(おかしい)
並べば一枚の絵画のようだと讃えられるほどお似合いだった婚約者だった。手の届く距離にいる。
なのに。 もうお互い違う額装の中にいるような違和感を、テイワズは感じた。「ダグ……?」
「気安く呼ばないでくれ」同じ色の青い目を信じて名を呼べば、ピシャリと冷たく放たれた。ダグは一歩引いて、目の前のテイワズを見つめた。
そして、高らかに、告げた。「婚約を破棄にしよう、オスカリウス家のテイワズ嬢。僕ときみは、もう婚約者ではない」
周りがざわついた。
どうしよう、足元がふらつく。 立場を揺らがす出来事だった。 (……信じたくない) それでもテイワズが立てるのは、今日のために装い仕立てたドレスのおがげであり、なにより女として強靭に鍛えた矜持のおかげだった。「他に愛する人ができたんだ」
泣くな、と拳を握る。
拳に爪が食い込む。泣かないように、心の痛みを誤魔化す。 ──泣いたら。「はっ! テメェは俺様の妹に相応しくねぇよ」
──泣いたら、|大事《おおごと》になってしまう。
後ろから硬い体に引き寄せられた。
背中に正装の上からでもわかる硬い胸板があたって、目の端に銀色の光が輝いた。金髪のテイワズを抱き寄せる銀髪は、赤い目の持ち主。
犬歯を見せて敵意を露わに細い肩を抱き寄せた、彼女の兄。「ヘルフィお兄様」
肩を抱き寄せた兄の手の力の強さに、大事になってしまったな、とテイワズは思う。
ああやっぱり──。「こっちから願い下げだぜ」
──お兄様たちが、黙ってない。
「その通りですね」
肩を抱くヘルフィの熱い手を振り払って、いっそう落ち着いた深い声が降ってすぐ、テイワズの腰を抱き寄せた。
「ロタお兄様」
テイワズが顔を上げて名前を呼ぶと、黒髪の間の眼鏡の奥で、青い瞳を細めた。
「兄さん、ティーの肩にはもっと優しく触れてくださいよ」
「あっ! こら、テメェ!」
「ティー、大丈夫ですか? ……こんな無礼な男、もう気にすることはありませんよ」
銀髪のヘルフィと、黒髪のロタのやりとりを、剣呑とした声が裂く。
「ほらあ、やめなってば、周りが見てるよお」
後ろから現れた、揺れる若木色の茶髪。
蜂蜜と同じ金色の目をした彼女の兄の名は、ルフトクス。「とはいえ、兄さんたちの言う通りだねぇ……こんな無礼で非礼で欠礼した男なんてー……」
チラリとその金色の目に、元婚約者となったダグを映した。
「うん、死刑だねえ」
「こら! ルフ兄様! こんなところでそんな物騒な言葉を言ってはいけませんよ!」
言い諌めらように現れて、その実全然納められてない声の持ち主は、紫色の髪の毛。
「ええ~? フォルはそう思わないの?」
紫色の髪の毛の青年が頷いた。
「まあ思いますけどね」
それから赤い目を細めて、言った。
「安心してください、ティー」
甘い笑顔で。
「あなたに血生臭いところは見せません……ちゃんと僕たちが見えないところで殺しますので」
にっこり笑ったフォルの笑顔に、元婚約者と同じ引きつった表情をしてしまう。
(フォルお兄様の目が笑ってないにっこり……)
丁寧な言葉と貼り付けたような笑顔に、末の兄の本気の怒りを感じた。テイワズは|ダグ《元婚約者》の様子を伺う。
四人の兄たちの視線を浴びて、顔を青く、それでも歯を食いしばって耐えていた。 貴族であるオスカリウス家が誇る、五人の兄。その兄のうち、四人が勢揃いして──たった一人を見つめている。
それは、たった一人の妹に不名誉と屈辱を与えた男に。
「さ、さっきっから不敬だぞ! 婚約者の兄だからと我慢してたが……うちは公爵家なんだぞ!」
視線を浴びたダグ──さっきまで婚約者だった男──は、足の震えを隠せない。ダグはそれでも必死に、青い目を釣り上げた。
それを嘲笑うように、銀髪をシャンデリアに光らせて、敵意を隠さず長男のヘルフィが犬歯を見せた。
「はっ! 不敬なのはどっちだ!」
「──どっちなのでしょうね」
それは華やかだが棘だらけの空間に、突然現れた声だった。
「姫、様……!?」
姫様だわ。と、周囲から聞こえた声がテイワズの疑念を確信に変えた。
「この国の王女、ニコラ様よ……」
振り向けばそこには、薄桃色の長い髪を華やかにまとめた誰より華やかで美しい女性。
紫色の瞳の、この国の唯一の姫。 吹き抜けの二階部分から繋がる階段をゆっくりと、光のように降りてきて、同じ高さに立った。 唖然とする周囲に、召使が尊大に声高に言う。「|頭《こうべ》を垂れよ!」
「よいのです。わたくしが彼らと喋りたいのですから」
姫様が言うのであれば、と召使が一歩引いた。
(なんで、お姫様が) 姫はそのまま、テイワズの目の前。そしてダグの横に立った。「あなたがダグ様の元婚約者ね」
「ええ、たった今《《元》》になりましたね」
美しい声に反応したのはロタだった。
冷たい顔と声。 そんなロタを長兄のヘルフィが小突く。「おい、ロタ」
「お兄様方」
末の妹のテイワズが小声で言えば、銀髪と黒髪の二人は黙った。
紫色の目と目が合ったのは一瞬。
まさか。婚約者は姫様? そう周りがさざめく。 (私が一番聞きたい) けれど今は、口が開けないし、目が離せない。 (なんで姫様が) その人物は──「ごめんなさい」
この場の人物の予想を裏切って、頭を下げた。隣にいるダグがなによりもその行動に目を丸くした。
「ニコラ!?」
(名前で呼ぶ間柄なの!?)
唾を飲みこんだテイワズに、姫は目を伏せる。「ごめんなさい。わたくしが、彼を愛してしまったから……」
「ああ、すまない……ぼくが……」桃色の髪の姫様と、金髪の元婚約者。姫様とダグが互いの腰を支え合って顔を寄せ合った。
その様子を待て、茶髪のルフトクスが忌々しいとばかりに目を細めた。「ちょっとやめてよねえ、こっちが悪者みたいじゃん。こんな場で、こんな──」
「悪者になってやるよ」
鼻を鳴らしたのは、ヘルフィだった。 「謝罪なんていらねぇ、むしろ礼を言ってやるよ」赤い目を細めて、寄り添う二人を威嚇するように言う。
「てめぇは俺様の妹にふさわしくねぇ。返してくれてありがとよ!」
隣のロタも、優しそうな顔を冷たく歪めた。不快感を隠さずそのままに言った。
「俺様の? ヘルフィ。俺様達、の間違いでしょう?」
「うっせぇなあ」
「ロタ兄さんの言う通りだよ、ヘルフィ兄さん。……ティーはおれの可愛い妹だもんねぇ」
「ルフ兄様! ティーは僕の妹でもあるんですからね!」
(フォルお兄様まで!)
四人の兄が今度は互いに睨み合うので、さすがのテイワズも呆気に取られてばかりではいられない。
「えっと……お兄様方……」
「……と、言うわけで自分たちは帰りますよ」
黒髪のロタがテイワズの腰を引き寄せた。
「元より妹の社交界デビューを見守りに来ただけですので……雑事に興味はありません」
銀髪のヘルフィが鼻を鳴らす。
「じゃあな! もう二度と俺様の妹に会うんじゃねーぞ……まあ、そんなことあるわけないがな」
それから茶髪のルフトクスが目を細める。
「そうだよー、姫様と仲良くねえ」
最後に笑ったのは、紫髪のフォルティだった。
「では、失礼いたしました」
テイワズは四人の兄達に背中を押されて、大きな背丈に護られるように。後ろを振り返ってもなにも見えないそのままに、城の広間を後にした。
*
オスカリウス家の五人の男子。
(私のお兄様たちは)
剣に次いで魔術も優れた、侯爵家の子息。
研ぎ澄ますべきは剣と魔のこの国の名は、ムスペイル。
魔力においては三大要素があり、それぞれ適性がある素養を見つけ魔術を使うことができる。
物心がつき会話できるようになる頃に発覚するそれは、主に血を重んじる貴族階級のものだった。剣術と魔術が求められるこの国で、公爵家として名高いオスカリウス家にはどちらにも秀でた五人の子息たちがいる。
長男、ヘルフィ。二十二歳。
月と同じ銀髪に赤い目。優れた剣士であり、火の魔力を持つ。 今は侯爵である父の後継候補として見習いをしているから大分性格的には牙が丸くなったと思われている、が──「クソが! ダグの野郎許せねぇ」
そう言った口元には尖った犬歯がよく見えた。
「名前を言うのも憚られます。あの野郎、でいいのではないですか、兄さん」
二男。ロタ。二十歳。
夜空に似た黒髪に昼空の青い目。眼鏡をくいと上げていつも慇懃な言葉遣いをしている。 魔力は水。 長男であるヘルフィと同じ後継候補……今は補佐をしている。ヘルフィのブレーキ役にとその役目をしているが、実は誰より喧嘩っ早いので適役なのかはわからない。 「ちょっとお、兄さんたちってばさっきっから口汚いなあ」そう言ったのは、若木と同じ茶髪に金色の目。
四男、ルフトクス。十八歳。(ルフお兄様)
大地の魔力を持つ、マイペースな男。
剣の腕は上の兄ほどではないが、学園では随一。しかし体を使うことが好きではないようで、本人は魔術の方が向いていると言う。『おれはおれのすべてでおれの好きなようにするの~』
教師に剣術の授業をサボったのが見つかり、謝ることもなくそう軽々と言ってからはサボってもお咎めを受けていない。それだけ魔術の腕が優れているのか、呆れられているのかはわからない。 「そうですよ、僕だって殺してやりたいって一言を我慢してるんですからね!」 宝石のような紫の髪に赤い目。魔力は長男と同じ火。 五男、フォルティ。フォルお兄様。十七歳。 魔術の成績がずば抜けており、飛び級してルフトクスと同じ最上級生になっている。誰より真面目で勤勉。ただ、それ故に癖のあるお兄様方に振り回されている。
「……だいたい、あいつは何してんだよ! あ、い、つ、は!?」
ヘルフィが拳で机を叩いた。ロタが眼鏡をくいと持ち上げてそれを咎める。
「せっかくの紅茶が溢れます、兄さん」
「クソ! 紅茶なんか落ち着いて飲んでられっか! むしゃくしゃする!」
「ヘルフィ兄さんはうるさいねえ、ティー?」「本当ですよ! 一息つきたいですよね? ティー?」
テイワズは、茶髪のルフトクスと、赤髪のフォルティの真ん中に座らせられている。
「え、ええっと……お兄様方……」
「なんでてめぇらがティーの横座ってんだよー!」
「あなたがうるさいからでしょう、ヘルフィ兄さん」
「あ!? 文句言って当然だろ! なんであいつはデビュタントにも顔を出さねーんだよ」
言われたヘルフィが睨むが、ロタは涼しい顔で紅茶を啜る。
(エイルお兄様のことね)
ヘルフィが言っているのは、ここにはいないもう一人の──三番目の兄のことだった。
四人の兄たちと一人の妹。
五人の空間に、ノックの音が飛び込んできた。 あわや話題の人物かと期待はしたが、そんなことはないと皆腹の底でわかっていた。扉が開く。
「ああ、おかえり! 可愛い子供達! ……大変だったな、テイワズ!」
「お父様!」
親父、父様、父さん、お父様、と。口々の呼び名で呟いて立ち上がった。
現れたのは、オスカリウス家の現当主である、五人の──もとい、六人の父親だった。
灰髪の父親はこの空間では唯一の金髪の娘を抱きしめた。
「あの婚姻を受けた儂が間違っていた──すまない、すまなかった、ティー」
「いいんです、お父様」
もう終わったことだから。
テイワズは気丈に答える。「お兄様方がいてくれましたから」
そう。足元が崩れ落ちると錯覚したあの場所で、立っていられたのは──帰ってこられたのは兄たちがいたからだ。
「元より強引に勧められた婚姻でな……向こうがティーを守りたいという意志も強そうで許したが……まさか……」
「…………もう、終わったことです」
目を伏せて、言葉をひとつ落とす。落ちた水は戻らない。過ぎた過去には戻れない。
婚約が決まったのは昨年。
魔力がないテイワズは、貴族御用達である魔術学園にも行っておらず、勉学は家庭教師を招いていた。
周りとの繋がりも多く持てぬまま十六歳を迎えたテイワズを守りたいと申し出てきたのが、ブランドス家。
ダグの父親が「公爵家であるうちの息子ならお宅のお嬢さんを守るに足るでしょう」──そう言ったからだった。(女だから家督の後継でもない。ありがたいとは思った、けれど)
何より運命を人任せにしてしまった自分に、後悔があった。自分の素養の無さに悔恨があった。
「……もとより私に、魔力がないからで」
「けど、それをわかって婚約を申し込んできたはずですよ?」
テイワズの言葉を、紫髪のフォルティが引き継いだ。
テイワズだって帰りの馬車でそれを思わなかったわけがない。でも。(愛を盾にされてしまった。──新しい愛を見つけたと言われてしまった)
だからもう、婚約破棄はどうしようもないのだとわかってしまった。*
(もしも魔力があったら違ったのかしら)
テイワズには魔力がない。
と言っても魔力がない人間が珍しいわけではない。平民はほとんど魔力がない人間で、兄たちが通った魔術学園に通うこともない。
だから珍しい人種ではない。ただ──貴族、特権階級ではそんな人間はほとんどいない。
それは貴族の得る税は、その要素がもたらす魔力による恵みを対価に得られるものだからだ。
雪が積もれば炎で溶かし、荒れた草を燃やし道を切り開くのが火の魔力を持つ領主。
川が荒れれば水の魔力を持つ領主が出向き氾濫を抑える。
枯れた大地であれば大地の魔力を持つ領主が触れて蘇らせ、恵を与える。
その三大要素の福音を民たちに与え治め納められる。そうやって貴族と庶民は与え合う関係。
しかし魔術といえどそれは人の力によるもので、万能ではない。使えば疲れるのは当たり前だし、魔術の規模、限度は個人差が多いものだった。
それでも互いに領主と民は支え合いながら栄え、発展してきたのがこのムスペルという国だ。
しかし昨今は天候の不順により、貴族への不満が漏れつつあった。それ故に貴族でありながら魔力がないその体質は領民から期待外れだと冷ややかに思われていた。
「ティーを生涯かけて守るっていうから許したのに、ねえ……」ルフトクスが呟いた。
魔術に秀でた五人の子息がいるオスカリウス家は有力な家族として噂されていた。
(公爵家と繋がりを持つことで役に立てると思ってたのに……)
ブランドス家は王家とも繋がりがあるとされている大きな家柄だった。だからこそ、テイワズは魔力がなくともこれで役に立てると思ったのだ。
だからブランドス家《元婚約者の家》が婚約を申し出てきたのは、家の将来性を見込んだものだとテイワズは思っていた。 (愛ではなかった、と思う) それでも何度も共に出かけ、食事を共にし、これから時間と共に仲が深まる──と思っていたのに。向いに座る白と黒の兄二人も答えず、父も悲しそうに眉尻を下げた。悲しそうな空間は似合わない。誰より優しい家族たちに──こんな顔をさせていたくない。
テイワズは暗い考えを振り払う。
「こんなに優しいお兄様方がいて、私、幸せです。だから、いいんです」
もうそれだけで充分なんです。
心から言えば父は目頭を抑えて、テイワズの肩に手を置いた。「こんなに思いやりのある家族になるとは……お前と血の繋がりがあるのは一人だけなのになあ……」
「は?」
「はい?」 「え?」 「はい?」待って。
今初めて父の言葉が理解できなかった。 テイワズは聞き返す。「…………お父様、今なんと?」
「ああ、お前と血の繋がりがあるのは兄のうち一人だけで、他の兄らは義理の縁だがまるで本当の家族のようで感動…………ん、んんっ」
突然父は言った言葉に気がついたようで視線を外して大きく咳払いをした。
「おい、親父、今……」
「今なんと言いましたか……?」 「もう一回言ってー?」 「もう一度お願いします、お父様……」固まるテイワズと、椅子から立ち上がって問いただす兄たちに、父親は後退りをする。
「いや、その……ティーが嫁いだら五人揃った時にでも話そうと思って言葉を準備しておいてたんだが」
父親は目を逸らししどろもどろに言いながら、一歩、また一歩と後ろに引く。
「ティーが嫁いでも、六人の子どもたちはオスカリウスの家族だと……一族の縁は堅いと……な……は、は、ははは……」
固まったままのテイワズとは対照的に、四人の兄たちは父親ににじり寄る。──真実を聞こうと。
「おい、どういうことだ、親父……」
長男、ヘルフィ。「自分たちは異母兄弟だと聞いていましたが……」
次男、ロタ。「そうそう、みんな血の繋がりのある兄弟だって……」
四男、ルフトクス。「僕たちはティーの本当の兄ではないのですか!?」
五男、フォルティ。「いや、みんなティーの大事な兄だ。ここまでずっと暮らしてきた、儂らは家族だ。ただ──」
にじりやられてとうとう、父親の背中が扉についた。四人の青年に囲まれて、中年らしく額に脂汗を浮かせる。
「ティーと血の繋がりがあるのは、一人だけで……」
聞こえる言葉が、ショックだった。
血の繋がりがあるのは、五人の兄のうち、一人だけ。(家族じゃないってこと?)
四人の兄達は、血縁関係のない関係。四人の兄達は、血縁関係のない関係。
「おい。それは誰だよ、答えろよ……」
「そうですよ、言ってください……」 「父さんさあ、なんでそんなこと黙ってたかなあ?」 「答えてもらいましょうか」 兄たちは父親から聞き出そうとしている。(やめて)
聞きたくない。
大衆の面前で婚約破棄なんてくらった今日。……これ以上、ショックを上乗せさせたくない。
家族じゃなかった、なんて。今知りたくなかった。なんで兄たちが秘密を暴こうとしているのか、テイワズにはわからなかった。
なんで。 (なんで家族じゃない証明を、聞こうとしているの)「おい、言えよ、親父」
赤い目を鋭く光らせて、ヘルフィが言った。
「す、すまなかったああああ!」
「あっ! こら、待ちやがれ!」
扉を開いて逃げ出した父親を、白銀を光らせてヘルフィが追いかけて、二人が室内から出ていった。
残された部屋の中で、テイワズは「嘘でしょ」と呟く。
ロタが神妙な面持ちで唸った。「思わぬ事実が出てきましたね」
「まさかねえ、おれたち五人のうち……」
ルフトクスが相槌を打ち、フォルティが顎に手を当てた。
「四人が兄弟じゃないとは……」
(私ともう一人が養子なの? それとも、他の四人が養子なの?)
皆が同じことを考えていた。
魔力の恵みが権力を左右するこの社会において、貴族階級における養子縁組というのは珍しいことではない。
魔術の要素が貴族の支持にも関わる。そんな社会で、一族で三つの要素を手中に収め、その地を治めるのはむしろ賢い経営戦略だとも言えた。
だからこそ側室や愛人というのも多少鼻つままれはすれ、子さえできてしまえば勝ちなところはあって。だからこそ──異母兄弟で五人の男子と一人の女子というのは珍しい家族構成ではないし、魔術の要素をすべて揃えているという点では成功でさえもあった。
(もちろん私にも魔力があるべきなのが最高なのだけど)
そうではなかった。とはいえ。
物心ついた時には五人の兄とこの屋敷に住んでいた。
五人の兄たちもそれぞれ母がいるが、一夫多妻という複雑な関係性のため離れて暮らしている。 父親と子供たち、それとメイドだけが教育のため共に暮らしている。いきなり兄じゃないかもしれないなんて言われて、動揺しないわけがなかった。
血の繋がりがなくとも家族だと大声で言える。たとえそれが誰であっても。
秘密を暴かないでほしいとさえ思う。それなのにこの──
「クッソ、親父に逃げられた……馬乗って逃げやがった……」
「おかえりなさい。ヘルフィ、お父様のそういうところは、|エイル《三男》にそっくりですね」
兄たちは、今、秘密を暴こうとしている。
「父さんとエイルがそっくりなら、エイルとティーが実の兄妹ってことにならないかなー?」
「そもそも父が誰と同じなのかすら判別がつきませんからね……」
ルフトクスの言葉に、ロタが淡々と返した。
「っていうかエイルの野郎はこんな日にもまじで帰ってこねぇのかよ」
白銀の髪の乱れと息切れを整えて、ヘルフィが舌打ちをする。
「どこにいるのかすらわからないもんねぇ」
ルフトクスが首を傾げて、フォルティが考えるように腕を組んだ。
「しかし、ティーと血が繋がっているのは僕たちのうち誰なんでしょうか」
本当ですね、とロタが頷いて。それから眼鏡をくいと押し込んだ。
「血の繋がりがなければ、結婚してもいいはずですからね」
……え?
呆気に取られるテイワズの前で、彼女がいることすらも忘れたように四人の兄達は言葉を交わし合う。ルフトクスの口元は笑っていた。
「そうそう、もしかしたら《《妹》》じゃないかもってことでしょー?」「お兄様方、一番可能性があるのは僕ですよ! なんてったって僕が一番ティーと歳が近いですからね!」
「てめぇアホか。歳が近いからって兄妹ではいと限らねぇだろ、てめぇとティーは一年違うだろ」
「う、うう……!」
「いやー、あんな馬の骨におれたちの可愛いティーを渡したくなかったからねぇ、実のところばんばんざーい」
「自分もです」
ロタお兄様が言って、兄たちは頷きあう。
(何を言っているの?)
僅かに入る余地ができたその歓談に、テイワズは恐る恐る言葉を入れる。「…………あの、お兄様方?」
「ティー」
名前よりも近い、家族だけの愛称。
呼んだのはロタだった。青い目を細めてティーを映した。「あなたは、誰と結婚したいですか?」
婚約破棄されたばかりなのに、新たにこんな言葉が降りかかると思わなかった。
テイワズの眼前で、四人の兄たちが笑った。「お手柄だったじゃねぇか、ロタ」 夕食を取りながら、ヘルフィが声をかけた。 帰宅したテイワズとロタは、リビングに集まりいつものように兄妹五人で食事をしている。「ああ、昼間の件ですか」 ロタが答えると、ルフトクスとフォルティも食器から顔を上げた。 なんなの、と二人が聞くと、ヘルフィが仕事中に自警団から話を聞いたと昼間の出来事を説明する。「へえー、すごいじゃん、ロタ兄さん」「素晴らしいですね!」 テイワズも手を止めた。「本当に、とてもご立派でした、ロタお兄様」「ただなあ」 暖かな空気の温度を下げたのは、ヘルフィの冷たい声。「ちょっと乱暴だったな。怪我してたぞ、あの物盗り」「…………それは、すみませんでした」 場の空気が一変する。 白銀が刺す。赤い目の視線は、手元。「物取りとはいえ本来なら守られるべき民だ、ただの──」 その低い声に、誰も食器の音で遮らない。「不作で困窮していた、ただの一人の親父だった」「けれど」 重くなった空気を震わせたのは、テイワズの声だった。 八つの鮮やかな瞳が、テイワズを映す。「バッグを取られたご婦人も、膝をついていましたし何より……何より、バッグを盛り返してもらうと喜んでいらっしゃいました」 テイワズは知っている。 兄たちが自分を大事にしてくれていることを。 だから言える。(思ってることを言っていいって、言ってくれる兄だから) だから言った。 ──ロタの僅かに落ちた肩を、少しでも上げたくて。「……そうだな」 ヘルフィの声の温度が、幾分か上がったような気がした。「わりぃな、ロタ。俺様としたことが、嫌な言い方をしちまった」「確かにその通りです」 食卓に再び食器の音が戻る。「気を付けます。……ティーも、怖かったですよね」 伏せられた青い目を見据えて、ティーはいいえと首を振った。「かっこよかったですよ、お兄様」 その言葉に食卓はまた騒がしくなったが、ヘルフィだけは僅かに視線を下げたままだった。 食事を終えて、ベッドに入る前に窓のカーテンを閉めようとした時、外に人影があることに気がついた。 月明かりが暴くその髪の色は、黒。 広い庭を撫でる風にその髪が揺れていた。 寂しそうに見えたと言ったら傲慢だろうか。 テイワズの足が自然と庭に向かった。 テイワズが外に出ると、ちょうど
「家を出るって本当ですか?」 家の庭に、お気に入りの場所があるのを知っていた。 庭師が丹念に育てた花畑の中で、男性にしては長めの金髪が大地に広がっている。「ん? ああ、聞いたの?」 緑の目は若草と同じ色。その色にテイワズを映して、エイル(三男)は頷いた。「本当だよ」「どうして」 テイワズの質問に、笑って答える。太陽の光を惜しげなく浴びる金髪が揺れて光った。「どうして……って、はは。もう学校も終わるし、当たり前でしょ」 エイルは魔術学校を卒業する十八歳で、テイワズは十五歳。そろそろテイワズにも婚約を、と父親が社交の場で言い出した頃だった。「けど、ヘルフィお兄様とロタお兄様は学校を卒業しても家にいますよ」「あの二人は後継第一候補とその補佐でしょ。家督候補に三人もいらないよ」「けど、」「ルフとフォルは真面目だし宮廷魔術師とか、まともな仕事につくだろうけど、俺は違うの、俺は」 食い下がったテイワズは容易く言い伏せられて、伏せた目とともに次の言葉を探す。 その顔から目を逸らしてエイルが続けた。「俺はねえ、自由に絵を描きたいの。のーんびりしたいの」「…………お兄様」 エイルがそれを言ったのは、テイワズが寝静まってからだったらしい。『俺、そろそろ家を出るよ』 家にいた父親からそれを聞いて、テイワズは庭に飛び出したのだった。 エイルが学校をサボって家にいるときは、おおよそ庭の花畑の中にいるのをテイワズはよく知ったいた。「いなくなって、しまうんですか」「やめてよ」 それははっきりした声だった。「そんな風に、俺を呼び止めないで、ティー」「だって──…………え?」 お兄様。 そう呟いた声が、出ていたかわからない。 後頭部の柔らかな感触は、咲き誇っていた花々のものだと気が付いた。 景色は変わって青空が広がっていて──それを背景に優男然としたエイルの顔があった。「ティー」 倒れた衝撃に花びらが舞い落ちるその中で、どうしてそんな、痛々しい顔をしているのかわからなかった。「お兄、さま?」 組み伏せられた、と両手首の熱でやっとわかった。テイワズの髪は大地に広げられて、その上にエイルが覆い被さっていた。 腕に込められた感じたことのない力強さは、男だと実感させるためのもののようだった。 自分よりゆうに背の高い男に影を落とされてい
今日の朝は目覚めたら誰もいなかった。 当たり前のことにほっと安心の溜息を吐いて、テイワズは起き上がる。 身支度を整えて朝食を食べに行くと、食卓にはフォルティだけだった。「ティー。おはようございます」 紫の髪が朝日を浴びて煌めく。優しく細められる赤い色の瞳。「おはようございます、お兄様。昨日は楽しかった、です」「いいえ。むしろあなたと二人きりで出かけられて……僕の方が幸せでしたよ」 ──予想以上の返しだった。アルバムと経験則にはない返事だった。 柔らかな笑顔になんと返せばいいのかわからない。兄なのに兄らしくない。 それでも不快感はなくて、これは女としての照れだ。(なんで、私) 固まっているところに、軽快な声が入ってきた。「あー、抜け駆けしてるー」「抜け駆けって……失礼ですね!」 指を指されてフォルティの視線が移ったので、テイワズも視線をルフトクスに向ける。「ルフ兄様、おはようございます」「おはよう、ティー」 テイワズに歩み寄って、甘く微笑んだ。「今日も可愛いね」 布団に入られた時並みの衝撃だった。 甘い声と笑顔に、テイワズがまた動けなくなる。 それを見たフォルティは慌てた。「なっ! ……ティー、僕もあなたを可愛いと──」「騒がしいですね、朝から」 遮った声は、ロタの声だった。「おはようございます、ティー」 テイワズに顔を向けて、 眼鏡の奥の瞳を柔らかく細める。「……よく眠れましたか?」「は、はい」 今までと特に変わらない言葉だ。なのに眼差しが熱い気がして少し狼狽えてしまった。「それはよかった」 そんなテイワズに、ロタは微笑んで長い金髪を撫でた。 テイワズの心臓が跳ねる。(ろ、ロタお兄様?)「おー……」 部屋に新たに低い声が入ってきて、ロタはその髪を手から離した。「くあ、あ……」 欠伸をしながら現れたのはヘルフィだった。 眼光鋭いいつもの赤目に、光がないのは毎朝のことだ。「おはようございます、お兄様」 現れたヘルフィにテイワズが挨拶をすると、ルフトクスが兄の様子を見て薄く笑った。「いつもながら眠そうだねぇ……釣られちゃうよー、ふわあ、あ……」 言葉通りに、そのヘルフィの欠伸に釣られたようにルフトクスが欠伸をした。「あー? しょうがねぇだろ、俺様は忙しいんだ」 誰よりも多く砂糖
テイワズが眠ってから、食事をした部屋の明かりが再び灯った。 ヘルフィが指先から炎を出し蝋燭に火をつける。その後ろから部屋に入った三人は、部屋の中の椅子にそれぞれ座る。「ティーももう寝たみたいですね」 眼鏡を持ち上げて、ロタが言った。「ロタ兄さん、覗いたのー?」「あなたみたいに勝手に部屋に入るわけないでしょう。部屋の前で耳を澄ませただけですよ」 はいはーいと雑に返事をしたルフトクスに、ロタは言葉を続ける。「しかしルフもしばらく学校を休んで平気なんですか? フォルはともかく」「なんでフォルはともかくなのさあー」「僕ほどの優等生は大丈夫に決まってるからですよ」 ヘルティと同じように、指先から灯した火で燭台に灯りをつけてからフォルティが椅子に座った。 フォルティは飛び級が認めているほど魔力が優れているという点だけでなく、真面目な態度により教師から好感度が高い。ルフトクスは成績はいいが、学校では寝ていることが多く、教師からは微妙に距離を取られていた。「はいはい。ティーに辛いこと思い出させないように遊びに連れて行く作戦を決行したら戻りますよー」 ルフトクスもフォルティも、テイワズをそばで励ましたくて──心配で数日学校を休むことにしていた。 そんな三人の様子を見て、ヘルティが言う。「ロタこそ、今日は仕事がろくに手につかなかっただろーが」「うっ」 言われたロタは言葉に詰まった。 ヘルフィが犬歯を見せて追撃する。「弟たち(ルフとフォル)に先手を取られた……どこに連れて行こうかな……って呟いてただろテメェ」「ヘルフィ、そういうことは言わないでください!」 二人の長兄の様子を見て、ルフトクスが笑う。「はっはーん、やっぱり兄さんも内心、婚約破棄が──……血の繋がりがないかもしれなくて、自分にも可能性ができたことが嬉しいんだー?」「うるさいですよ」「うっせぇぞ、ルフ」 白銀の兄と宵闇の兄に睨まれて、はいはーいと軽く肩を竦める。 フォルティが優等生らしく小さく手を挙げる。「ヘルフィ兄様、エイル兄様にはこのことは伝えたのですか?」 フォルティが言った名前は、この場にいない三男の名前。このこととは、婚約破棄のことと血縁のこと。「まだ伝えてねぇ」 ヘルフィは額にシワを寄せながら答える。「そもそも、あの日来いよって連絡にさえ返事はねぇし
「ちょっと部屋にいます」 食事を終えてすぐ、テイワズは四人の兄にそう言って部屋に下がった。(一人になりたい。一人で考えたい) 一人になった部屋で、自分の呼吸の音だけを聞けば早鐘を打っていた鼓動が少し落ち着いた。(お兄様たちは、本気なの?) 本気だとわかっている。 だって、冗談を言うような兄たちではなかった。 今までずっと、大切にされてきた。 物心つく時には五人の兄とずっと一緒にいた。 それより幼い赤子の時の記憶なぞ朧げだが、自分の原初の記憶は、間違いなくこの家と兄たちだ。(それが、まさか揺らぐなんて) ベッドに寝転び考える。寝転んだ羽毛の中には、もう誰との温もりは残っていなかった。(……|婚約破棄《ダグとのこと》よりもショックかもしれない) どうすればいいのかわからない。 身の振り方が、この身の置き場がわからない。 途方に暮れる気持ちになる。(一人になりたくない) 一人になりたかったのに、こうして一人の部屋にいると考えてしまう。 ベッドに身も沈め込むテイワズの耳に、優しいノックの音が届いた。「僕です」 慌てて身を起こして、返事をする。「フォルお兄様」 テイワズがすぐに扉を開くと、フォルティは部屋の外に優しく微笑んで立っていた。「気分転換に、観劇でも行きませんか? ……身支度ができたら、降りてきてください。下で馬車を用意しておきます」 有無を言わさない強引さは、彼にしては珍しい。「お兄様方はいません」 え、と驚くテイワズに、フォルティは赤い目を細めていたずらっぽく笑った。「僕と二人っきりです」* 宝石のような紫の髪に赤い目。魔力は長男と同じ火。 五男、フォルティ。略称はフォル。テイワズより一つ年上の十七歳。 魔術の成績がずば抜けており、飛び級してルフトクスと同じ最上級生になっている。 剣の腕も悪くはないが、兄たちほどではない。それもただ兄たちが規格外なだけで上位の成績だ。 フォルティは魔術の天才と呼ばれて将来を嘱望されている。 それは魔術学園に入学した年だった。 魔術の適性ごとにされたクラス分けの授業。 火の魔術は触れたものを燃やすことができる。魔術は接触が基本だ。血の通う体で触れなければ魔術は発動しない。 通常着火する火の大きさは指の先ほどのことが多い。いうなれば指でつけるマッチだ。 火の
「おはよう、ティー。……いい朝だね」 布団の中で目覚めると、見知った茶髪。半開きの金色の目に、目を大きく見開いた自分が映って、テイワズは悲鳴をあげた。「る、ルフお兄様ー!?」 ふわあ、とルフトクスは大きなあくびをして、テイワズを見て満足げに目を細めた。 叫び声がこだましてすぐに、部屋の扉が勢いよく開く。「どうしました!?」「どうしましたか!?」 同時に飛び込んできた色は二色。黒髪のロタと、紫髪のフォルティだった。「おはよう、ロタ兄さん、フォル……ふわあ、あ……」「なんでお前が同じベッドで寝てんだ!」「ロタ兄さん、朝から怒りすぎー。いつもの口調が抜けてるよー」 ルフは面白がるように言ってそれから、布団を被り直した。……赤くなって固まったままのテイワズも入っている同じ布団を。「ルフトクス!」「なんで布団の中戻ってるんですか! 出てきてください!」 ロタとフォルティが布団をひっくり返すと、丸くなったルフトクスはまだ眠りを惜しそうに目を細めた。 固まっていた真隣のテイワズが、おずおずと口を開く。「あの、ルフお兄様……」「なあにぃ? おれの可愛いティー」 テイワズの囁きに、甘く、とろけそうな──瞳と同じ蜂蜜のような響きで答えた。 深い蜂蜜の中に捉えられて、テイワズはまた頬を赤くする。なんで。 なんで、こんなに、甘く。 今までこんなこと、なかったのに。 今までよりはるかに甘ったるい、知らなかった声と、溢れたばかりの朝日に煌めく瞳。 動揺した。 目覚めて世界が変わってしまったのを知った。 婚約破棄と、突然の家族の真実。「……ドキドキした?」 微笑まれて、胸が高鳴る。 なんで。この人に。兄なのに。 見つめ合って蜂蜜は琥珀になりうると知る。 テイワズが胸元を抑えたところで、ロタがたまらず舌打ちをした。「いい加減に出ろ! ルフトクス!」 ロタがルフトクスの首元を掴んで、乱暴にベッドから引き摺り落とした。「いててー……乱暴だなあ」「あなたが悪いんですよ! ルフ兄様!」 真面目で規則正しいフォルティは、寝巻きのテイワズやルフトクスと反した外用の服を既に着ていた。 規則正しい生活を心がけているロタも、既に寝巻きではないが、髪型のセットがまだ甘い。髪を抑えて乱暴に整えて、ルフトクスを責めるようにいった。「なんでこんなふ