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09_4 異論は認めない 姫乃side

last update Last Updated: 2025-08-05 05:00:59

しばらくすると、樹くんは紙皿に焼きそばとお肉をモリモリのせて戻ってきた。両手で受け取ると、ずっしりとした重みがある。

「こんなに食べられないよ」

「残ったら俺が食べるからいいよ」

「そう? じゃあいただきまーす」

樹くんが割り箸を割ってくれて、私は焼きそばを口に入れる。ソースがいい感じに絡まっていて美味しい。

「美味しい。あ、餃子もある 」

焼きそばをかき分けると餃子が何個か埋まっていた。宝物を見つけたみたいでなんだか嬉しい。

「俺にもちょうだい」

「あ、食べる?」

お箸を渡そうとしたのに、樹くんは口を開けて待っている。

え、これって、餃子を口に入れてあげればいいってこと?

躊躇いつつも餃子を掴んだ箸を樹くんの口元に持っていくと、樹くんはパクリと食べた。モグモグと咀嚼するその動きをまじまじと見てしまう。

樹くんにあーんしてしまった。

しなかったとしても、自分が食べてる箸をそのまま渡そうとしていたことに、今更ながら恥ずかしくなってしまう。

こういうのって気にしないの?

気にするよね?

ドキドキと心が大荒れの中、そっと樹くんをうかがい見る。バチっと目が合った樹くんは、ニヤリと意地悪く笑う。

「何? 姫乃さんも食べさせてほしいの?」

「はっ? えっ? いや? 全然?」

「しょうがないなー」

「いやいや、言ってないよ」

慌てて否定するけれど、樹くんは私からお皿とお箸を奪うと、上手な箸使いで私の口元に餃子を持ってくる。

「ほら、口あけて。これ、チーズ餃子だったよ」

断ることも許されない距離に、私はおずおずと口を開ける。優しく入ってきた餃子は、ひと噛みするとチーズの香りが鼻を抜けた。

「ほんとだ、チーズ入ってる。美味しいね。今度餃子パーティーしよっか。なぎさちゃんも呼んで」

「なぎさも呼ぶの? 俺は二人きりがいいけど」

「皆で食べた方が楽しいじゃん」

「俺と二人じゃ不満?」

「そういうことを言ってるんじゃないってば。樹くんの意地悪」

思わず膨れると、樹くんはクスクスと笑う。

私をからかって楽しんでいるみたいだ。何だか悔しい。

「ごめんごめん。仲直りしよ? 姫乃さんこっち向いて」

素直に樹くんの方を向いた瞬間、

ちゅっ

可愛らしい音が聞こえると共に、唇に感じる柔らかな感触。

それが何なのか、理解するのに時間がかかった。けれど理解したとたんに私の頬は一気に赤くなる。

「樹
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