浮気性の彼氏タケルからのプロポーズを受けようとした助産師の七海。自分が隠れオタクであることを明かそうとすると、気がつけばタケルから刺され、七海は自分の推しのレオナルド・ストリア公爵の婚約者リリアナ・マケーリ侯爵令嬢になっていた。小説『蠍の毒を持った女』においてレオナルドは当て馬。リリアナはレオナルドに愛の告白をし、彼とヒロインのミーナの恋を応援すると伝える。建国祭のパレードの襲撃事件で男主人公のアッサム王子を助けようと自ら盾になったリリアナ。彼女の優しさに惹かれるアッサム王子と、彼女の無償の愛に惚れてしまったレオナルド。レオナルドはリリアナを独占しようと監禁する。七海はダメ男沼に再びハマってしまうのであった。
Узнайте больше初めて夢中になった男は2次元だった。
映像化もされた小説『蠍の毒を持った女』のレオナルド・ストリア。
私は彼のことを心から愛していた。 現実世界の男には不満ばかりだ。「七海、結婚しよう」
目の前でプロポーズしているのは10年以上付き合った男タケルだ。しかし、私は全くときめかない。
彼は今まで定期的に浮気をしてきた。 その度に泣いて縋られたので、許してきたが全く懲りない。彼はケチくさく1円単位まで割り勘する。
時間にルーズで1時間くらい待たせても謝りもしない。
彼とずるずると付き合って10年だ。
正直、また新たに男を作るのが面倒で、彼を引っ張ってきた。
しかし、私は本当にこれから死ぬまで彼と付き合うつもりなのだろうか。 (でも、私も30歳だしな⋯⋯) 「七海? 返事は?」 自信満々の顔で見つめる彼は断られる可能性を考えていない。 私の女盛りの20代を独占しただけあって自信があるのだろう。「私、好きな人いがいるの⋯⋯」
生まれて初めて本音を人に話した。 結婚するならば、私が如何にオタクかを知って貰っておいた方が良いと思ったのだ。私が彼に不満を抱きながらずるずる付き合っていたのは、私には本命がいたからだ。
決して、私が触れることを許されない至高の存在レオナルド・ストリアだ。 3次元の私が2次元に触れることはない。 「はあ? 浮気してたのかよ。このビッチ女が」 ここで何人のカップルが成婚したのかと思うような高級レストラン。目の前のナイフで胸を突かれた女は私が初めてだろう。
モラハラ夫になるかもしれないと思っていた彼氏は、DVヤローになるリスクも持っていたようだ。意識が途絶えていく。
助産師として私は追われるように仕事をしていた。
小さい頃から夢に見ていた仕事で、念願の命の誕生の現場には立ち会えてきた。 しかし、仕事は私の人生の保証はしてくれない、してくれるのは給料という形での生活保障だ。 幸せが欲しい⋯⋯私の心のオアシス⋯⋯レオナルド。目を開けると、そこには銀髪に空色の瞳をした男がいた。
まさしく私が思い続けていた人レオナルド・ストリアだ。「レオナルド! 本当にレオナルド・ストリア?」
(あれ? 私、ナイフで刺されたんじゃ)私は興奮して彼に近づき、濡れた落ち葉で滑って転んでしまった。
起きあがろうとした私を彼が支える。
その手の温もりが衣服越しに伝わってくるようで、私は感動のあまり震えた。(なんと温かい手⋯⋯好き過ぎる)
小道を作る為に置かれている脇に並べられた岩に血がついている。
(転んで頭ごっちんしたのか⋯⋯)「あぁ、レオナルド様⋯⋯好きです。私を今すぐにでもあなたのものにしてください」
思わず出た本音にレオナルドが目を逸らした。「どうしたのだ? 頭を打っていたようだが大丈夫か? 君と私の関係は政略的なものなのに⋯⋯君はいつからそんな風に僕のことを⋯⋯」
「頭! 打ったのですか? そういえば流血してますね。私の心もレオナルドに会えて嬉しいので泣いています」
頭に手をやると、手が真っ赤に染まった。 かなり後頭部から血が出ているようだ。「もしかして、私、リリアナ・マケーリ侯爵令嬢ですか?」
「そうだよ。流血のリリアナ⋯⋯」 七海としての私は胸を刺され死に、異世界転生したのだろうか。 (それとも、神は私が死ぬ前に大好きなレオナルドを見せてくれているのかもしれない⋯⋯)私は夢かもしれないが、今リリアナ・マケーリになっているらしい。
リリアナ・マケーリはヒロイン、ミーナ・ビクトー男爵令嬢に散々嫉妬し嫌がらせする悪役令嬢だ。嫉妬の原因は自分の婚約者であるレオナルドがミーナに夢中で、自分を見てくれないからだ。
(レオナルドの心を得られなくても、彼の側にいられて尽くすことができるのに何の不満があるのか⋯⋯)「レオナルド様! 私、あなたの愛はいりません。ただ、あなたの側にいたいのです。朝起きてあなたがいて、夜寝る時にあなたがいる。そんな幸せがあれば死んでも良い!」
「本当に頭をやってしまったようだ⋯⋯君は僕のことなんか愛していない。むしろ、実家の為に僕を利用しようとしているはずなんだが⋯⋯」 戸惑ったように小さな声で私に伝えてくるレオナルドが愛おしい。 (君が好きだと叫びたいってこういう感じね!)「違います! むしろ私を利用してください。食い尽くして抱いてください。あなた様の為に生き、死にゆく存在です」
私は長年恋焦がれた推しを前に興奮していた。レオナルドはヒロインのお相手ではない。
いわゆる、ヒロインに恋焦がれ捨てられる当て馬だ。ただ、ヒロインがモテて魅力的だということを表現する為の存在だ。
(振り向いても貰えない相手を想い続ける一途さが好き過ぎる!)「レオナルド⋯⋯あなたとの時間が堪らないのです⋯⋯」
私は薄れゆく彼の姿に手を伸ばしながら、意識が遠のいていくのを感じる。 彼の瞳に今の私リリアナ・マケーリの姿が映っている。赤いウェーブ髪に緑色の瞳⋯⋯私は物語において舞台装置にすぎないリリアナ・マケーリだ。
意地悪に耐えるミーナの芯の強さを表現する為に作られた悪役令嬢だ。クリスマスカラーのワガママ娘の彼女はレオナルドを悩ませたけど、私は彼を幸せにしたい。
大好きなレオナルドと一緒に少しでもいられればそれで良い。リリアナ・マケーリは帝国一の大金持ちの侯爵家の令嬢だ。
そして、実は経済的に困っているストリア公爵家のレオナルドと婚約する。 彼の地位目当ての婚約で、マケーリ侯爵家はこの婚約を機にレオナルドの家の持っている権力を吸い尽くす。 (吸い尽くされたいのは、私の方だわ⋯⋯)「本当に酷く頭を打ったみたいだな⋯⋯僕のどこがそんなに好きなんだ?」
呆れたように頭を掻きながら話すレオナルド様の澄み渡る空のような瞳が吸い込まれそうに美しい。 (レオナルド様が話しかけてくれている! 意識を手放すのは勿体無いわ)「はぁ、はぁ⋯⋯すみません空気が薄くて。レオナルド様の一途なところが好きです。ミーナ様を思い続けているところが!」
私の言葉にレオナルドは困ったような表情をした。「私がミーナ様とレオナルド様を結びつけて見せます。大好きです。レオナルド様! あなたの幸せの為にこれより生きていくことを誓います」
「リリアナ⋯⋯君がそこまで思い詰めているとは⋯⋯」 私を見つめながら頬に手を添えてくるレオナルド様に私は感動の涙が溢れてきた。 (なんと慈悲深い!)「レオナルド様、ミーナ・ビクトー男爵令嬢がお見えです」
執事がレオナルドに耳打ちした言葉は私の耳まで届いた。ミーナが聖女の力に目覚めるまでは、レオナルドとミーナは恋人だった。
ミーナが王宮暮らしではなく、レオナルドを訪ねてくるということは今はまだその段階だ。「私、用事を思い出しました! レオナルド様、大丈夫ですよ。あなたは絶対にミーナ様と幸せになります」
私はレオナルド様に囁くと、聖地巡礼に向かう準備をした。彼は私の急に変わった態度に驚いているようだった。
(無理もないかな⋯⋯リリアナはミーナに嫉妬して意地悪する悪役令嬢だもの⋯⋯)「待ってくれ! せめて、頭の傷の治療を受けたまえ」
後ろからレオナルド様の良いお声がした。それだけで、世界が薔薇色に染まる心地がする。
(程よく低く甘い声、たまらないわ⋯⋯)私に彼の慈悲は必要ない。
私は彼がこの世界にいるだけで幸せなオタクだ。 (早速、『蠍の毒を持った女』の世界⋯⋯この夢の世界を探索させてもらおうじゃない!)『蠍の毒を持った女』は作者の失踪により未完に終わっている。
物語はアッサム王子とミーナが結ばれたところで途絶えているのだ。 私は男主人公とヒロインが結ばれた後の物語など蛇足だと思っていた。 どうせ描かれるのは2人のイチャイチャで、私のお目当ては当て馬レオナルドだからだ。 この時の私は作者の失踪理由も、この物語のタイトルの意味も何も分かっていなかった。タクシーに乗り、病院に向かう。「仙崎さん、先程の方にプロポーズをする予定とかあったんじゃ⋯⋯」 私の言葉に仙崎さんが吹き出す。「な、ないよ。男同士だからね⋯⋯久しぶりに会って食事していただけだから」 私は、自分がBLも嗜む事がバレてしまったようで赤面した。 リッチな方は久しぶりの食事でも三ツ星レストランを使うらしい。「やっぱり、面白いな。鈴木さん⋯⋯。祖父からよく君の話を聞いてるんだ。もっと君の話が聞きたいな、今度は君の口から⋯⋯」 真っ直ぐ、私を見てくる仙崎さんにアッサム王子が重なった。(そうだ⋯⋯私は本当はアッサム王子に惹かれていた。私の話を聞きたいと言ってくれた彼に⋯⋯) そういえば、産科のおじいちゃん先生の名前が仙崎だ。 上品な感じが彼と似ている。 1度彼が高級煎餅を産科に持って来てくれた事を思い出した。 「煎餅を持って来てくれましたね。王子⋯⋯」私の呟きに「食べてくれましたか? 姫⋯⋯」と仙崎さんが返してくる。「す、すみません。仙崎さんがあまりにかっこよく王子に見えました」 オタクの呟きに付き合わせてしまい私は居た堪れなくなってしまった。「あの、傷も浅いですし、救急外来に掛かる程ではないかと」「今、自分の事より病院の忙しさを気にしたでしょ。診断書は後日書くとして、今日は俺の家で手当しようか? 全然、食べてなかったみたいだし、お腹も空いたでしょ」 私の考えが見抜かれてしまっていて、恥ずかしい。「え、家?」 恋の始まりのようなものを期待してしまい、私はそのまま仙崎さんの家にお邪魔してしまった。(勇気を出して、踏み出してみよう⋯⋯) 1年後、私と彼が結婚することになるのはファンタジーではない、本当のお話。
「この人、本能寺タケルに刺されました。明確な殺意があったかと思います」 私はすかさず警察に説明した。「七海、ふざけんなよ。お前、夫が犯罪者になっても良いのかよ」「だから、結婚しないって言ってるでしょ」 タケルはこの後に及んで私が彼と結婚すると思っている。 私が今まで彼を甘やかし続けたからかもしれない。「七海、お前、もう30歳なんだから、俺を逃したら次はないぞ」「結婚なんてしなくても、私には手に職がありますから」 私は憧れの異世界でもやはり助産師として赤ちゃんを取り出していた事を思い出した。 それにしてもレオナルドは、タケルそっくりだった。 異世界でもダメ男沼にハマり抜け出せなくなっていた自分に思わず笑ってしまう。「あの事情をお聞かせ願えますか」 警察が私に話し掛けて来たところを、仙崎さんが制した。「彼女は怪我をしているので、事情聴取は後日お願いできますか? 私は医師で彼女を病院に連れて行きます。一部始終は彼が見ていたので、彼に聞いてください」 仙崎さんが手を翳した方に、黒髪で少し神経質そうな男性がいて立ち上がった。「弁護士の前田です。私が対応致します」 どうやら彼は仙崎さんと一緒に食事をしていた相手のようだ。 私は仙崎さんに連れられ、レストランを出た。 後ろから私の名前を必死に呼ぶタケルの声がしたが、振り向かなかった。
「あ、あれ?」目を開けると、あたりが騒がしい。ここはタケルと食事をしていた高級レストランだ。 胸に手を当てると薄っすらと血が滲んでいる。目の前には衝動的に私を刺した事で動揺するタケルがいた。よく考えれば食べ物ナイフごときで死ぬ訳がない。そして、根っからのオタクの私は普通の人より発達した脳を持っている。どうやら一瞬気を失った時に走馬灯の代わりに、推しのいる世界に入り込んだようだ。「お、お客様」狼狽えたように話しかけてくるボーイに私は強く言った。「110番通報してください! 私、今、彼に殺され掛けました」 私に指を刺すと、タケルは激しく動揺した。「ま、待てよ。だって、お前が浮気したとかいうから」「浮気しまくったのはあんたでしょ」 普段、ヘラヘラと彼の浮気を許してきた私の剣幕に彼が一歩引く。「警察呼ぶとか嘘だろ? 俺たち結婚するのに⋯⋯」「結婚なんてする訳ないだろ。この犯罪者が。目撃者もいるはずだよ。私を刺した場面を見てた人、手を挙げて!」 周囲の人が手を挙げる。(今、人生で1番注目されているわ⋯⋯) 皆、ドレスアップしていて、今日この時間を楽しみにしていたようだ。「皆様、このような素敵なレストランで騒ぎを起こして申し訳ございませんでした」 咄嗟に、頭を下げる。「いや、鈴木さんは悪くないでしょ。それより、ちゃんと止血しなきゃ」 すらっとした背の高い男性が私によってくる。 黒髪にメガネをかけて大人っぽく優しそうな印象だ。 おそらく傷は浅い。 位置が胸の辺りだからか、彼はハンカチを渡して来た。「えっ? あの、なんで私の名前⋯⋯」「俺、そんなに影薄いかな。仙崎総合病院で医師を務めてます。仙崎宗太郎と申します。」「あっ? もしかして外科の先生ですか? 外科病棟でお見かけしたことがあるような⋯⋯」 私の勤めている産科のある病棟から離れているが、彼を見かけたことがあ
「毒が入っていると分かってて飲んだ? 兄上は馬鹿なのか? いや、そこまでしてということか⋯⋯君も兄上が好きなんじゃないのか? ストリア公爵の元に行くよう言った僕が言える立場ではないが、君はこのままで良いのか?」 ルドルフ王子は、なぜ私がアッサム王子が好きだと思っているのだろう。 確かにアッサム王子は私を度々ときめかせる。 彼くらいのイケメンに優しくされたら皆少しは恋心を持つ気がする。 膝枕を強請ってきたり、年下の男の子の可愛さってこういう感じなのかと思ったりした。 前世では周囲から年下の良さを熱弁されても心が動かなかった。 しかし、時に甘えてきたり、急に頼りになったりする彼は聞いていた年下の男の子の良さを詰め込んだような子だった。(この世界では、私が年下だけどね⋯⋯) 私が唯一恋をしていたとはっきり言える相手は、小説の中のレオナルド・ストリアだ。 彼のことを考えるだけで、嫌な事があっても元気が出た。 彼のセリフを何度も読み返しては、ドキドキしたものだ。(本物のレオは思っていた人とは違ったな⋯⋯) 「私が好きなのはレオナルド・ストリアですよ」 私は立ち上がって、次の倒れている騎士の元に行こうとする。 そっとルドルフ王子は私を支えてきた。「君がそう言うなら、そうなんだろう。わざと毒を飲むくらいの気持ちを兄上が我慢できることを願うよ。毒を盛ったのは母上だ。母上は僕に王位を継がせたいが、僕は兄上を支えたいと思ってる。でも、女欲しさに毒を飲む君主はどうかと思うけどね」 ルドルフ王子は私にしか聞こえないような囁き声で言う。 彼は笑顔を作っているけれど、心が泣いているのが分かった。 彼は兄弟で争いなんかしたくないのに、母親がアッサム王子に毒を盛ったと思って苦しんでいる。 私は思わず、ルドルフ王子を元気づけたくて彼の胸に手を押し当て聖女の力を込めた。 その瞬間、私の世界が歪んでいった。♢♢♢ 目を開けるとそこには、私の大好きなレオの顔があっ
「ストリア公爵、ちゃんと話し合いの時間を先に取ってくれよ。俺は君からリリアナ嬢を取り上げようなんて思ってないんだから」 先程、私にしがみつき愛の告白をしてきたアッサム王子は、スッと立ち上がり私の手を取りレオの方に行くように促した。 アッサム王子の手が微かに震えていて彼が気になってしまうが、私はなぜか彼の表情を見れずレオから目を逸らせなかった。「そうでしたか⋯⋯失礼致しましたa。それでしたら、レオナルド・ストリア及び第1騎士団は王家に忠誠を誓わせて頂きます」 レオは膝をつき、剣を床に立てながら厳かに言った。「リリアナ嬢、君は自分の気持ちに従えば良い。君がストリア公爵を好きで、王家に嫁ぎたくない気持ちを尊重するよ。俺は君の恋を応援する」 後ろから聞こえるアッサム王子の言葉が少し震えている。(彼は本当に私が好きで、私の為に私を諦めると言っている⋯⋯)「では、リリィは連れて行きます。この度の襲撃で王家が被った損害はストリア公爵家が持ちますので⋯⋯」 レオが立ちあがろうとした時、私はこの上ない怒りを彼に感じた。 ストリア公爵家は武力では王家を凌ぐ程の力を持っている上に、マケーリ侯爵家の財力も手に入れている。 カサンデル王家や他の貴族が無視できない財力と権力を持っているから、このような強引な手段に出られるのだ。(それで、どれだけの犠牲が出たと思ってるのよ!)パシン! 私は気がつくと、立ちあがろうとしたレオの右頬を思いっきり引っ叩いていた。「痛い? 斬られた騎士はもっと痛かったのよ! 暴力に訴えるなんて、レオは会話もできないの? もし、誰か1人でも死んでたら許さないから。ここにいる騎士を全員治療するまではレオとは一緒に行かないわ」 私の言葉にレオが
「七海様⋯⋯リリアナ様はずっと死を望んでいた方でした。家のせいで悪女と罵られても、人を恨むことなく1人消えゆくことを願ってました⋯⋯」 確かに、リリアナの日記には彼女のそのような願望が書いてあった。 彼女が死を望んでいたかどうかよりも、彼女の清らかな心が誰にも理解されなかったのが悲しかった。 リリアナは周囲から悪女のように罵られながらも、最期は自分の命を使って皆を助ける選択をしたのだ。(自分を非難をしていたような人たちを、自分の命を犠牲にして時を戻して助けようとするなんて⋯⋯) 私が聖女の力を得たのは、そのような清らかな精神を持っていたリリアナの肉体が引き寄せたものだったのではないだろうか。(私の推しのレオに対する純粋な想いが引き寄せた力だと思っていたけれど⋯⋯)「リリアナ嬢はいつも苦しそうにしてたな⋯⋯」 アッサム王子が苦しそうに顔を歪めた。「カエサル⋯⋯あなたがリリアナが時を戻した事で元の世界に戻ってきたのなら、また誰かが時を戻したらリリアナはこの体に戻ってくるのかしら?」「時を戻すには魔法陣をかかなければなりませんが、古書を保管していたマケーリ侯爵邸が燃えてしまい再び時を戻すのは難しいかと⋯⋯」 私はマケーリ侯爵邸が火事にあったことも今知った。 その火事でマケーリ侯爵は亡くなったと言うことだろう。(どうして、レオは何も教えてくれないの?)「それにしてもアッサム王子殿下は、よくこんな途方もない話を信じてますね。それに、あんなに可愛らしいミーナ様に惚れなかったのですか?」 カエサルと私は七海の世界という共通の知識がある。 しかし、何も知らないアッサム王子がこの話を信じているのが驚きだった。 『蠍の毒をもった女』が1度目の人生でカエサルが経験した事をモデルにしてかかれたのであれば、アッサム王子はミーナに首ったけになる。「あんな女になんか惚れないよ。無礼なことを言ったから、これは罰だ」 アッサム王子が私に軽く口づけをしてくる。(やっぱり、プレイボーイ! 私、このタイプには免疫
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