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3−5 ささやかなお茶会

last update Last Updated: 2025-07-24 19:33:22

 ニコラスの怪我の治療を終えたところで、シスターが戻ってきた。

「お待たせ……あら? もう手当は終わったのですか?」

「はい、終わりました」

返事をするジェニファーにシスターは近づく。

「……まぁ、上手に包帯を巻いていますね。怪我の治療に慣れているのですね」

ニコラスの手当の後を見つめながらシスターが感心する。

「あの、クッキーを配って頂けましたか?」

ジェニーに子どもたちに配るように頼まれていたのでジェニファーは心配だった。

「ええ、もちろんです。みんな、喜んで食べてくれています。お二人も今から食堂へいらっしゃいませんか?」

シスターの言葉に、ジェニファーはニコラスに尋ねた。

「私は食堂に行くけど、ニコラスはどうする?」

「もちろん、僕も行くよ」

「それでは、皆で食堂へ行きましょう。子どもたちも待っていますから」

「「はい」」

シスターに促され、ジェニファーとニコラスは頷いた――

前を歩くシスターが2人に説明している。

「この教会には0歳の男の子と2歳の女の子。それに5歳の男の子がいます。私以外に、もう一人シスターがいて、今は5人でこの教会で暮らしているのですよ」

「皆、僕たちよりも年下なんだね」

ニコラスがジェニファーの耳元で囁いてきた。

「そうね。私は小さい子供が好きだから楽しみだわ」

家に残っているニックとサーシャ、それにダンの姿が思い浮かぶ。

「ふ〜ん。ジェニーは小さい子供が好きなのか」

「ええ、だって家に……」

そこまで言いかけ、ジェニファーはとっさに口を閉じた。

自分が今はジェニーであることを忘れていたのだ。

「え? 家に? ジェニーは弟か妹がいるの?」

「いいえ、いないわ。あのね、家に小さい子が遊びに来たことがあったの。そのとき、とても可愛くて好きになったのよ。ところで、ニコラスには弟か妹がいるの?」

咄嗟に誤魔化すために、ジェニファーは質問した。すると、何故かニコラスの顔が曇る。

「……僕には……」

「ニコラス?」

そのとき。

「食堂に着いたので、扉を開けますね」

不意にシスターが声をかけて、話は中断された。

「はい、お願いします」

ニコラスが返事をすると、シスターは木製の古びた扉を開けた。

ギィ〜……

すると木製の長テーブルに並んで座っている小さな子ども達が、シスターと一緒に楽しそうに話している姿があった。

シスターの腕の中には赤子が抱かれてい
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