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第1042話

Author: 夏目八月
受験生たちの提出した文章は、有田先生の目に適うものではなかった。玄武に見せる必要もないほどの出来で、その内容は不本意極まりなく、工房への偏見も隠そうともせず、謝罪の意も微塵も感じられなかった。

「明日、書き直して参られよ。このような内容では、もはや来る意味もございませんが」有田先生は冷ややかに告げた。

「先生もまた学問の徒。なぜ権力を得たとたん、我々読書人を苦しめるのです!」今中という名の受験生が憤りを込めて放った。

有田先生は彼らの浅はかさを一刀両断する言葉を返す。「諸君が女として生まれなかったことが残念でな。母上の苦労など、理解できるはずもない」

「工房と女などに何の関係が?捨てられた女の集まる場所ではないか」

「もし妻から見放された男がいれば、そちらも受け入れましょう」有田先生の声は鋭く冴えわたった。

一同は愕然とする。「妻から見放された男?笑い話にもなりませんな」

有田先生の目に軽蔑の色が浮かぶ。「なぜ、そのような男がいないとお思いで?天下の男子が皆、女子より品行方正だとでも?」

「男は苦労が多いのです。功を立て、妻子を養い……」

「それが女にできぬとでも?」有田先生は容赦なく切り返した。

文章生たちは目を見開いた。まるで有田先生の言葉が、この世の理を覆すかのような衝撃を受けていた。

「明日の今刻まで、納得のいく文章が届かなければ、前途など諦めなさい。農民になるも、文を売るも勝手だ。あるいは、お上手な刺繍の腕を持つ妻御に養ってもらうのも一案。髪に白いものが目立つまで妻君を酷使し、その後は蹴り出せばよかろう」

有田先生は言い終わると、棒太郎に追い払うよう命じた。

鉄棒を振り回し、風を切る音を響かせながら、棒太郎は怒声を上げた。「てめぇらは女の腹を借りて生まれ、数年学んだだけで母親の悪口を言いやがる。俺さまが最も軽蔑する輩だ。道理も知らず、孝も義も知らず、民の苦しみなど眼中にない。あれこれ批判ばかり。読んだ本はどこへ消えた?その腕前があるなら、汚吏を糾弾してみろ。そうすりゃ、俺も一声かけてやるぜ」

文しか知らぬ文章生たちは、粗野な武芸人など見下してきたが、今や鉄棒に追い立てられ、尻尾を巻いて逃げ出した。

翌日、おとなしく文章が提出された。

今度の出来栄えに、有田先生は満足げだった。女性の生きる苦悩と無念が描かれ、伊織屋設立の真意も
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